肩書きと風のない夜丨風まかせ文芸部
ふと、目が醒める。
扇風機の風が止まっていた。首筋に手をやり、窓を開ける。
辺りは暗いのに、群青色の空が見えた。
川辺の近くの草むらから、小さく虫の声が聞こえる。
まだ夢の中に半分いる僕の首筋から、汗がつたう。
この時間が静かに漂う間は、僕はどこにも立っていない。
立場も、身分もなくて、この宇宙の地球という惑星の中に、素足をついて立つだけの人間だ。
朝にはまた名前と肩書を背負った僕が靴を履いて立つ。
ヒタヒタと畳の上を歩き、扇風機の前に座る。
ブウゥンと小さく唸る羽が前髪を揺らす。
首筋に風が抜けて、ほっと息を吐いた。
朝にはうだるような暑さと太陽の眩しさが世界を照らす。
今だけは、この静寂の世界とちっぽけな僕が2人で寄り添う。
ゆっくりと横たわる。
部屋の中を優しい風が流れる。
その風に吹かれて、再び夜の静けさに沈んでいった。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
