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春一番とアソートー風まかせ文芸部

あの日と同じように春風が吹く。

入学早々、進路は決まった。
あの屋上で、春一番と一緒に。

そして今、
俺は本当にここにいる。

彼女のキラキラとした目で
見る世界は美しく、その視界に
入りたいと気付けば思っていた。

カナタ「恋々先輩!」

呼ばれた恋々は玄と手を繋ぎ歩いていた。

振り返ると、やわらかな笑顔が
春風のようにあたたかく包んだ。

恋々「は〜い♡」

カナタ「恋々先輩!
屋上の約束、覚えてますか!」

恋々「屋上?」

首を傾げる恋々を見て、
三年という距離を思い知る。

それでもカナタは、
まっすぐに彼女を見た。

カナタ「3年前の屋上で会ってから、ずっと好きでした。
付き合ってください!」

ド直球の告白。

カナタは根が優しく
素直な少年だった。

恋々「お名前は?」

恋々は驚くこともなく、
名前を聞く。

カナタ「藤ノ宮カナタです!」

恋々「カナタくん♪」

静馬「今年入った1年生ですね」

カナタが驚いて顔を上げる。

近づいてきた気配に気付かない程、
静かで黒子のような存在の静馬が立っていた。

静馬「ご存知の通り、
恋々にはすでに恋人がいます」

カナタは恋々の隣に立つ玄と、
目の前に立つ静馬を交互に見る。

カナタ「…どっち?」

静馬「…」

静馬は恋々を振り返る。

静馬「いい機会です。
恋々、私もあなたが好きです。
付き合っていただきたい」

カナタ「それ…横入りじゃない?」

自分の告白の最中に、
かぶさる告白にカナタは啞然としている。

李玖「確かに横入りですね」

カナタが振り返ると、
理知的な風貌の男が眼鏡を上げながら近付く。

カナタ「…誰ですか」

李玖「あなたの告白している彼女の、彼氏のクラスメイトです」

カナタ「…あんまり関係ない人だよね」

告白の最中に2人の乱入者が入り、
カナタは半ば呆然としている。

李玖「…いえ、たった今から
無関係ではなくなります」

「恋々、私もあなたと共に在りたい」

カナタ「順番を守ってくれないかな」

李玖「失礼。
しかしこれで関係者です」

4人の輪ができ、沈黙の風が吹く。

玄「…席、外そうか?」

恋人がそれを言うのはどうなのかと、カナタは怪訝な顔になる。

恋々はニコッと微笑む。

恋々「皆ありがとう〜」

その笑顔にカナタの胸は痛んだ。

まとめて振られる。

彼氏がいる前で3人からの告白…
こんな筈ではなかったと悔やまれた。

恋々「あのね、
チョコレートアソートってあるでしょ?」

静馬「えぇ。お好きですよね」

突拍子のない話題にもついていけるのが、静馬の回転の早さだ。

恋々「色んな味のチョコがあって、どれも美味しいの。
いっぱい入ってるから嬉しいの」

恋々は目の前に美しく並んだチョコレートを見るように、うっとりと手の中に箱があるように両手を出す。

3人は見えないその箱を
見つめていた。

恋々「どれか1つは…選べないの」

彼女の顔は真剣に、
その箱を見つめる。

カナタはこの話の到達点を待った。

恋々「だからね、
皆と一緒に付き合えばいいんじゃない?」

恋々はパッと顔を上げて微笑む。

言ってる意味は分かる。

けれど、差支えがある。

カナタは玄を見た。

彼女のとんでもない提案を
彼はどんな気持ちで聞いているのかと思うと、カナタの胸は痛んだ。

玄は腕を組んだまま、
恋々を見ている。

玄「…なるほどね」

その声音には、揺れも
怒りもない。

ただ、理解と、ほんの微かな諦観 のようなものが滲んでいた。

静馬は目を伏せ、
唇にわずかな笑みを乗せる。

静馬「…そういう考え方も、
恋々らしいですね」

彼は“独占”を望む。

けれど恋々を縛ることは
愛ではないと知っている。

静馬が抱くのは、深く、長く、
静かに燃える“誓いの執着”。

李玖は眼鏡の位置を直し、
短く息を整えた。

李玖「制度としては非現実的です。
しかし――」

言葉の途中で、
李玖は恋々の横顔を見る。

柔らかく笑う彼女の瞳は、
誰か一人ではなく、
皆を見ていた。

李玖「…恋々の望む形を否定する理由は、特にありません」

李玖は“正しさ”ではなく、
“選択”を選んだ。

カナタは、目を見開いたまま
固まっている。

カナタ「…………えっ?」

恋々は両手をポン、と合わせた。

恋々「ね?
それなら、誰も置いていかなくて
いいでしょ?」

カナタ「いやいやいやいや!!
置いていくとかそういう話じゃなくて!!」

玄「落ち着け」 

カナタ「落ち着けるわけないでしょ!?
俺!君等と初対面!!今日!!
今告白したとこ!!」

静馬「ですが、あなたも恋々が好きだとおっしゃいました。
条件は満たしています」

カナタ「条件!?!?
俺たち今、何のオーディションしてんの!?」

李玖は淡々と補足する。

李玖「あと、恋々を好きだと自覚するまでにかかった年月は関係ないと思います」

カナタ「理屈が強ぇな!!!!」

恋々はくすっと笑う。

恋々「ねぇ、カナタくん」

名を呼ばれた瞬間、
カナタの鼓動は跳ねた。

恋々「好きって言ってくれて、
ありがとう。
すごく、嬉しかったよ」

それだけで世界が満ちる。

けれど次の言葉が、
彼を新しい場所へ押し出す。 

恋々「だから、ゆっくり一緒に
いればいいの」

ゆっくり。

一緒に。

カナタは涙が出るのを
こらえるみたいに、唇を噛む。

カナタ「……俺、本当に
入っていいの?」

玄がその問いに答えた。

玄「恋々が望むなら、
俺は否定しない」

一拍置いて、玄は静かに
言葉を落とす。

玄「――ただし。
中途半端な気持ちで来るな」

その声には、
終焉の重みがあった。

カナタは息を呑む。

恋々は、にこりと花が咲くみたいに笑った。

恋々「じゃあ、これで
“はじめまして”だね♡」

彼女に選ばれない僕らは、
その手にあるアソートボックスに
入った。

きゅっと胸が鳴る。

それでも、
誰も手を離さなかった。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。


あとがき

誰も選ばないというのは、
優柔不断なのではなくて、
“選ばない”という選択なのかもしれません。

その先に、手元に何も残らない
不安があるとしても。
それでも手を離さない人たちも、きっといるのでしょう。

選択の形は、
本当にさまざまですね。

この作品は「春一番とローファー」の続きであり、

マガジン「恋々の物語」のひとつです。

気になった方は、ほかのお話ものぞいていただけたら嬉しいです。



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