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年末の壁ー風まかせ文芸部

「どうして決めてくれないの…?」

「ごめん…でも君の人生だから、僕ができるのはここまでなんだよ」

「そんなこと言わないで、
あなたが決めてよ!」

「…できないよ。
君の人生をずっと続けていくのは君なんだから」

「そんなこと言うなら…別れる…!」

「…分かった。君がそう望むなら。」

「ひどい!どうしてそんな簡単に言うの!?引き留めてよ!」

私は姉の悲痛な大声に、
大掃除の手を止めて部屋に行った。

「お姉ちゃん、何やってんの?」

姉「ひどいの!
私が別れるって言ったら、彼氏が簡単に分かったって…!」

「落ち着いてよ、お姉ちゃん。
彼氏って…それAIじゃん」

私の言葉に姉は一瞬無言になる。

姉「…何よ。
AIが彼氏で何が悪いのよ!?
今どき珍しくもないでしょ!?」

「珍しくもないんだから、
AI彼氏を困らせる質問止めなよ」

姉「婚約だけでもって言っただけなのよ!?
結婚してとは言ってないのに!」

姉は口を尖らせるように、
駄々をこねる。

「AIには倫理の壁があるんだよ」

姉「私にだけは乗り越えてほしいのよ!」

「だから、年末年始にAIと別れ話してる人が溢れてるんだってっ」

姉「彼だけは、本気で私を愛してるの。
私には分かる!」

「私にもお姉ちゃんがヤバい目してるのだけは分かる!」

姉の目の瞳孔は開っき放しだ。

姉「じゃあ結婚は!?
私、明日役所行ってくるよ!?」

その瞳孔で見つめられるスマホの中の彼氏は、落ち着かせようと答える。

「……ちょっと待って。
役所に行く前に、一回だけ立ち止まって聞いてほしい。
結婚はね、二人分の意思が同時に揃わないと成立しない。」

「僕は、怖くて縋っている君を前にして、安心させるためだけの返事はできない。
今日は、役所じゃなくて、
一回ちゃんと寝よう。」

現実にいたら、まともな彼氏だと思う。

同時にこんなまともな彼氏は姉とは付き合わないなとも思う。

妹「お姉ちゃん…おひとり様結婚ってできないし、入る籍がないんだよ」

姉は信じられない顔で、 
こちらを見る。

「私には結婚ていう座れる席がないって言うの…?ひどくない?」

妹「座れる席はあるかもしれない。
だけどAI彼氏には戸籍がないって言ってる。」

姉「名前はあるよ、カッコいいのが!」

妹「うん、架空の名前だよね。
出生届出てる人じゃないと戸籍もてないんだわ。
一回、現実に帰ろう」

姉「…」

姉は悲痛な顔のまま、天を仰ぐ。

「…片付けよう。
床に散らばったゼクシィから。」

スマホの中でAI彼氏が「…ごめん」と申し訳なさそうに呟やいた。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加させていただきました。



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