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残りの半分も君とー風まかせ文芸部

蒸し蒸しと重い空気の教室に、居心地悪く白瀬は座っていた。

担任の先生は不快指数も高まっていた。

「白瀬さん、もう今年も半分が終わろうとしてるのよ?」

白瀬「はあ」

「進路!どう考えてるの?」

白瀬「動物園の飼育員…」

「え?」

白瀬「そしたら、コアラをモフれるでしょうか」

「…白瀬さん」

「動物を飼育する職場なの。撫で回すためだけの人に務まる訳ないでしょう」

白瀬「猫カフェなら…」

「経営を舐めないで」

白瀬の目は遠くなる。
先生は深く溜息をつく。

「来週までにちゃんと考えてきなさい」

白瀬は頭を下げると、教室を出た。

下駄箱で靴を履き替えると、長い影が待っていた。

「お疲れ様」

その声に白瀬は顔を上げると、柔らかく微笑む。

「御影さん」

「進路調査でした。
仕事を舐めるなと怒られました」

白瀬の言葉に御影は困ったように笑う。

「そっか。君なりに一生懸命考えたのにね」

白瀬「はい。志望動機は長く続けられる理由が良いと思います」

御影は白瀬の考え方をよく理解していた。

一見ふざけてるように見える働きたい理由は、白瀬にとってモチベーションとなる糧だった。

ただそこへ辿り着く過程を極端に端折ってしまうのが白瀬だった。

きっと来週に新しい希望職種を伝えても話は進まない。

志望動機が変わらないからだ。

白瀬「もう今年は半分終わろうとしてるそうです」

「そうだね、もうすぐ7月になるものね」

厚く重なる雲を見上げる。

夏はすぐそこで、終わる頃には今年が閉じていく。

白瀬「一生の三分の一にも足りません」

御影は白瀬を見た。

「…確かに」

白瀬「私の進路はこれからも続きます」

「焦っていません」

この視点の違いを御影はいつも興味深く見ている。

大抵は今年が半分過ぎると、何もしていないことや、残りの半分を焦る気持ちが沸き起こる。

けれど、白瀬はいつもその世界にはいない。

白瀬「さかなクンは、さかなクンという職業を目指したのでしょうか?」

「どうだろう。さかなクンていう職業はなかったかもしれないね」

白瀬「それなら、私は昆虫博士になれますか?」

御影は白瀬の中では一本通った話の最後だけが切り離されて、「昆虫博士」に辿り着いたと分かった。

恐らく一般的な「昆虫博士」ではなく、独自の視点をもった「白瀬昆虫博士」になれるのではないかと考えたのだろう。

「可能性はあるね」

御影の言葉に白瀬は嬉しそうに微笑む。

白瀬「来週は「昆虫博士」になると伝えてみます」

その言葉に偽りはなく、白瀬はいつだって純粋に真っ直ぐだ。

「そうだね」

人生の三分の一にもみたない二人。

御影は白瀬の横顔を見つめた。

半分過ぎた今年を惜しむより、残りの半分をこの人と歩きたい。

梅雨空の下、御影はそう思った。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。






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