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赤紙の向こう側──金融の神はSNSも見てるって話

正月明けの配送は、例年なら少し落ち着くはずだった。
だが今年は違った。通販の初売りや福袋、年明けセールの荷物が途切れない。
川口の積み場で、段ボールを荷台に積みながらも、僕の耳はラジオニュースに吸い寄せられていた。

《野党、次期通常国会で内閣不信任案提出へ》 《与党内反主流派、解散総選挙を後押し》

荷台の奥で、梱包材がガサリと崩れた。僕の手が一瞬止まる。
どうやら、ガソリン暫定税率廃止の勢いが、減税論を通り越して政局に火をつけたらしい。

ニュースは続ける。
野党はこの機に政権奪取を狙い、「まずは解散して、国民の信を問え」と与党に迫っている。
さらに、与党内でも反主流派の積極財政派がこれを焚きつけ、「消費減税を公約にすれば勝てる」と息巻いているという。
減税ムードは、いつの間にか選挙モードにすり替わっていた。

休憩所に戻ると、雑学王の森田が缶コーヒー片手に苦笑いしていた。
「これ、ヤバい方向に転がるぞ」
「選挙の話だろ? 減税が争点になるんなら、いいことじゃないのか」
僕は素直にそう思った。消費減税が決まれば、燃料代は確実に下がる。生活は楽になる。
「真田、お前はまだ“お得感”の段階で止まってる」
森田は指で机を叩く。
「選挙ってのは、金の匂いに敏感な連中が市場にシグナルを送るイベントだ。しかも今回は“財源を削ってでも人気取りする政権”ってラベル付きだ」

僕は荷台の段ボールの山を思い出した。
一つ崩れれば、隣も押し出され、やがて全部がドミノのように倒れる。
政治の坂道も、同じ原理で転がっていくのかもしれない。

外に出ると、冬の空気が鋭く肺に刺さった。
国会の中で飛び交う言葉が、僕の走る道路の向こう側で何を起こすのか。
それを考えるには、僕はまだ無知で、しかし、何か胸の奥にざらつく不安が残っていた。


インタールード② 海の底にある歯車と、AIの潮流

森田は、缶コーヒーのプルタブを引きながら言った。

「国債市場ってのは、目に見える値札やニュースより、もっと深いところで動いてる。海の底に、大きな歯車が何枚も噛み合って回ってるんだよ。あれが金利や通貨の流れを作ってる」

彼は紙ナプキンに波と歯車の絵を描く。
「デリバティブ──債券先物、金利スワップ、オプション……そういう歯車が互いに回りながら、潮の向きや速さを決める。表面に浮かんでる国債や株価は、その影響を受ける波にすぎない」

僕は頷いた。
「じゃあ、その歯車を回してるのは誰なんだ?」
「昔は人間だった。でも今は違う。AIだ。秒単位で相場を読み、数千の歯車を同時に回す。しかも“勝つため”じゃなく、“負けないため”に動くから、潮の変化は速くて深い」

森田は指で机を軽く叩く。
「もし政治が“財源を削ってでも人気取りする国”って信号を送れば、AIは過去のデータから“この国は金利リスクが高まる”と即座に判断する。そうなると、歯車は逆回転を始める」

逆回転。
つまり潮が引く。船は取り残され、座礁する。
「怖いのは、AIは怒らないし、話も聞かない。ただ条件を満たせば引き金を引くだけだ」

僕はコーヒーを一口飲んだ。
冬の苦みが、海の底の冷たさと重なっていく気がした。


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