ランチョンセミナー:産業保健職のための動機づけ面接 - 働く人の健幸をサポートするための対話 -(第32回日本産業精神保健学会)
第32回日本産業精神保健学会の報告その3です。その2はこちら。
▼講演は大盛況でした
動機づけ面接(MI:Motivational Interviewing)については当学会誌「産業精神保健」第32巻2号で今回の講師、北田雅子先生にご寄稿いただきました。産業保健職のMIへの関心は高く、今回の企画が実現した次第です。当日はほぼ満席に見えるほどたくさんのオーディエンスが集まりました。ご参加してくださったみなさま、ありがとうございました。
▼MIの真の姿が伝わった
MIが日本に紹介されて20年以上になるのですが、「動機づけ」と聞いて、何か意図を持ってカウンセリングをするのはどうなのか?という思いを抱くカウンセラーは少なくありません。「動機強制面接だ」などと揶揄する人もいるくらいです。一方、依存症の治療にあたる医療者にとっては必須と言っていいアプローチですし、禁煙指導やメタボ指導で苦労してきた保健師などにとっては、このアプローチを知って楽になったという声も聞きます。
「動機づけ」というと何か特別なテクニックのように受け取られがちですが、決してトリッキーなものではなく、「変わりたい」「変わりたくない」という両価的な心理状態を大切に受け止め、一緒に考えていくアプローチだとわかったといった声を、講演が終わってから何人もの方に言われました。本講演の意図が伝わったようです。北田先生、本当にありがとうございました。
▼MIの最新テキストが出版されました
一つ前のnoteで上谷実礼先生が新刊を出版された話を書きましたが、北田先生の新刊も今週出版されました。偶然とはいえ、第一線で活躍する先生方の新刊を紹介する機会が持ててとても光栄です。
この本は私も少しだけお手伝いさせていただきました。アルコール問題を抱えた従業員に、産業医としてどのように関わるのか、具体的なやり取りが一語一句記載され、その意図が解説されています。この言葉はいるかいらないか、本当に一語どころではなく一文字を入れるか入れないか、いろいろ議論をしていきました。ここでは他にどんな言い方があるあろうか、こう表現すると相手はどう感じるだろうかなど一緒に考え、時には二人でロールプレイをしてみて、感じたことをフィードバックし、修正していく。私、こういう作業、大好きなんです。私の行っているカウンセリング、アプローチは、突き詰めれば選択肢・可能性を増やすことです。事例の対話を作り上げていく過程は、まさしくそのものだったわけです。
この本、産業保健職のみなさんに絶対のお勧めです!従業員との面接が楽になります。楽しくなります。
以下は余談です。
▼なぜMIなのか
私は精神科医になって最初の10年は思春期臨床に携わり、11年目以降はアルコール臨床に携わってきました。思春期の子どもたちは、学校に行かない、家で暴れるなどの理由で病院に連れて来られます。アルコール問題も、特に昔は家族に引っ張って来られる方がほとんどでした。確かに家族は心配しているし困っているわけですが、本人も、家族とは違った意味で困っています。その困りごとを聞いていく。「こいつは信用できそうだ」と思ってもらえることで治療につながっていく。医者になった最初から、動機づけ面接という言葉が日本に入ってくる前から私にとって必須のスキルであり、関わる姿勢だったのです。
▼北田先生との出会い
臨床経験が15年を超えたあたりで自分の治療スタイルが一応整いました。ちょうどそれと重なるように、病院実務が忙しくなり、しばらく学会・研究活動から離れてしまいました。2010年代に入り知識・スキルをリフレッシュしようと思い立ち、学会・研究会にまた参加するようになりました。2015年、久しぶりに参加した日本ブリーフサイコセラピー学会(札幌)で、MIのワークショップに参加したのが北田先生との出会いです。素晴らしいレクチャーで、「自分がやってきたのはこういうことだったのか!」と感動し、早速名刺交換させていただきました。名刺交換の列ができていましたね。2016年には「医療スタッフのための動機づけ面接法:逆引きMI学習帳」(通称、黄色本)が出版されたことを友人から聞き購入し、仲間にも勧めていました。
▼人は他人の話を聴けない
黄色本はMIのテキストなわけですが、別の舞台で再登場することになりました。オープンダイアローグです。
オープンダイアローグについては今までたくさん書いてきましたが、私がオープンダイアローグを面接場面で使うようになったのは2018年で、同時に産業領域でオープンダイアローグを学ぶ研究会を立ち上げました。保健師、心理士、精神保健福祉士、人事労務の方など10数名が参加してくださり、講義とロールプレイで学んでいったのですが、その時に(改めて)気づいたのは、「人は他人の話を聴けない」ということでした。別の言い方をすると、「人は、自分が聴きたいようにしか他人の話を聴かない」ということです。オープンダイアローグを学ぶ中で、そもそも人の話を聴くとはどういうことか、どうしたら人の話が聴けるようになるのか、改めて考えることになったのです。
▼黄色本、再登場
そこで引っ張り出したのが黄色本です。「動機づけ」のための面接なわけですが、実は人の話をよく聴くための(傾聴の)、基本的な姿勢・スキルが実に丁寧に書いてあり、またわかりやすいのです。ここまで細かく分析・検討している技法はマイクロカウンセリング以外知りません。そして私にとってはMIの方が馴染みがあったので、こちらのエッセンスを研修に取り入れたわけです。「傾聴」のスキルにはゴールがない。一生学び、深めていくものだなと、この年になって感じております。
▼そして学会誌のアルコール特集
北田先生との再会は、当学会の「産業精神保健」でアルコールの特集を組んだことがきっかけです。2023年から学会誌の編集委員を拝命し、2024年の第2号でアルコールの特集を組むことになりました。「絶対に動機づけ面接の論文を入れるぞ!」と考えました。誰に書いてもらおうか。ちょうど遠見書房のシンリンラボで動機づけ面接がシリーズで取り上げられていたこともあり、いろいろな情報をウオッチしていたのですが、考えた挙句、やはり北田先生にお願いすることにしたのです。北田先生は一応教育畑の人ですから、「アルコールなら、他にも先生がいらっしゃるかと…」と当初は遠慮されていたのですが、「ぜひ先生に!!」と迫って実現した次第です。上谷先生との出会いもそうですが、最近私はやり手のプロモーターか!?と思ってしまうくらい、いろんな人に突撃していますね…
長い余談となりましたが、私の思いがみなさまに伝われば嬉しいです。
