掌編小説「クリスマス ギフテッド」第2話「サンタクロースの帽子」#いつきちゃんのアドベンドカレンダー

前回のお話はこちら↓
「サンタクロースの帽子」
「坊ちゃん、これは?」
「僕から真由子へのクリスマスプレゼント」
「でも」
「いいから受け止って」
二人の話し声が聞こえたのか、ガチャリとドアが開いて深雪が顔を出した。
「まだ居たの!早く出て行ってよ」
ーーこの女は奥様に変わって、私が育てた裕樹坊ちゃまとの別れの時間さえ与えてくれないの!?
「失礼しました」
真由子はまだ何かを言いたそうに、彼女を見つめている裕樹の目を振り切るように階段を駆け下りた。階下で、もしかしたら裕樹が追って来るかもしれない、上から見送っているかもしれない、そんな淡い期待を抱いて二階を見上げたが、既に二人の姿はなかった。
ーー坊っちゃんにとって、私ってその程度の存在だったの?
エプロンを脱いで玄関フロアに叩きつけた。ダウンコートを羽織って表へ出ると針のように細かった雪は、ふわりふわりと大粒の綿雪に変わっていた。
真由子は振り返って二階の裕樹の部屋を見上げてみたが、その窓に手を振る小さな影は見えなかった。こぼれ落ちそうになる涙を堪えながら、雪化粧を始めた歩道を歩き始めた。いつもの通勤路、もう明日からこの道を通うことはない。
電車に乗るとプルプルとスマホが震動した。
『夜になったら、そのプレゼントの意味、くわしくお話するね』
裕樹からのラインだった。ペシャンコの赤と白の靴下には何も入っていないと思っていた真由子は、急いでその中へ手を入れてみた。金属の冷たい感触が指先につたわってくる。
ーー鍵?!
取り出してみると、さっき投げつけるように玄関に置いてきた、あの家の鍵だった。同じ鍵ではないことは分かっている。これは裕樹が使っていた合鍵だ。
ーーでも、どうして?
自分の家がある駅で下りるとビニール傘を買うためにコンビニに寄った。少し躊躇った後に日本酒の小瓶をかごに入れ、レジの横で湯気を立てているおでんを見繕った。
ーー今日くらい贅沢しよう。一人で退職祝いをしよう。
真由子の暮らす2DKのアパートは、しーんと静まり返って孤独が寒さを後押しするように冷え切っていた。悔し涙が溢れるのを飲む込むと喉の奥にヒリヒリとした痛みが走った。コタツに潜り込んで気晴らしに点けたテレビの中で、天気予報のお姉さんがサンタクロースの帽子を被ってイルミネーションの中に立っている。
「サンタクロースの帽子」
真由子はぽつんと呟いた。
七年前のクリスマス・イブの日、旦那様と奥様と坊っちゃん三人で食卓を囲んでいたあの日、
「真由子さんも座って、ほら」
沙枝子が皆とお揃いのサンタクロースの帽子を真由子にも手渡した。
「一緒に食べましょうよ」
暖炉には火が灯り、テーブルには真由子が精一杯作った料理が並んでいた。四人で被ったサンタクロースの帽子が彼女を「家族の一員」だと認めているようだった。
まさか、あれが最期になるなんて。(ヤベい約1200字。オーバーめんごめんご)
(明日『トナカイ』で書けるのか?とにかく明日へ続く!?)

