掌編小説「クリスマス ギフテッド」第6話「ろうそく」#いつきちゃんのアドベンドカレンダー

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「ろうそく」
「ありがとう」
裕樹は無邪気に真由子の腰の辺りに飛びついて、小さな両手で力いっぱい彼女を抱きしめた。
「真由子なら、そう言ってくれると思ったの」
「坊っちゃん」
ブッシュドノエルとチキンとヴイヨンとピーナッツバターと吐瀉物と、ごちゃごちゃな匂いがこもったキッチンで、真由子もしゃがんで裕樹を抱きしめていた。
ーーああ、この子には、やっぱり私がついていなくちゃ⋯⋯?
「だって真由子は七年前に僕に借りがあるものね。それに家政婦をクビになったのに、この家の鍵を持ってるなんて、今度は警察の捜査から逃げられないよ」
真由子の耳元へ小さな悪魔が囁いた。
「もしかして、あのプレゼントって私を罠に嵌めるために?」
数秒の沈黙が肯定の意味を表している事を真由子は察した。
「坊っちゃん、一つだけ聞いてもいいですか?」
「うん」
「どうして新しいママを殺したの?」
「うん?さっきも言ったでしょう?真由子と同じだよって」
「同じ?」
「ママに赤ちゃんが出来たんだって」
「それだけ?」
「うん」
「あなたって子は」
ーー 一生懸命に育てたつもりだったのに、どうして?どうしてよ!!
「真由子こそ、あんなに仲良しだったのに、どうして僕のママを殺したかったの?」
「サンタクロースの帽子よ」
「?」
「私が家族になるには、一つ席が足りなかったの」
「ふ〜ん。僕ね、言わなかったけど、ずっと嫌だったよ」
「何がですか?」
「真由子がママの着物を着て入学式に出席したり、似合わないのにママのワンピースを着て授業参観に来るの」
「あれは坊っちゃんが喜んでくれるかと思って」
「心の中で僕のママは、もっともっと綺麗なんだって思ってた」
「⋯⋯」
裕樹は真由子から視線を外すと醜く歪んだ深雪の顔をちらりと見て
「でも今の深雪さんよりは綺麗だね」
耳を覆いたくなる言葉を吐いた。
真由子は裕樹を突き飛ばすように立ち上がると、隣のダイニングルームからクリスマスで使う燭台を手にして来た。
「坊っちゃん、もういいから行って」
「え?此処は僕のお家だよ?何処へ?」
「とにかく、何処でもいいから早く!」
裕樹が後ろを振り返りながら、しぶしぶとキッチンを出て行くと、真由子はタッパーウェアの中身を其処ら中にぶち撒けた。中にはオリーブオイルやサラダ油やドレッシングが詰まっている。裕樹からのクリスマスプレゼントを握り締めると、ろうそくに火を点けた。その火をキッチンペーパーへ移してオイルだらけの床へポトリと落とした。
ーー全ての罪を私が被ればいい。
小さかった炎は深雪の着衣に燃え移り、やがてカーテンへと燃え広がった。
「真由子!!何してるの?」
メラメラと燃え上がっていく炎と立ち込める灰色の煙の向こうに裕樹の姿が、真由子の目にぼんやりと映った。
ーーやっぱり心配して戻って来てくれた。
「裕樹、一回でいいから⋯ママって呼⋯」
真由子は「裕樹」の名前を呼びながら、静かに目を閉じた。
ポ〜ン
立ち尽くす悪魔は炎を見つめながら、自分のスマホをその中へ投げ入れた。
「僕のスマホも燃やさなくちゃ。ライン記録が残っちゃうからね」
穏やかな微笑みは沙枝子によく似ていた。(ごめんなさい1300字)
了

