見出し画像

できることが増えたのに、クライアントに直される理由|負け筋をほどく #002

こんにちは、映像クリエイターのサンゼです!

以前の配信でこんな質問をもらいました。

「頑張って作り込んだ部分から、順番に外されていく。正直、辛いです。自分の個性は、出しちゃだめなんでしょうか」

いろんな方から、繰り返しもらってきた相談です。「わかるでぇ、、」と思わず呟いてしまいます。

作ったものを外されるのは、単純につらい。僕もエディターとして修正指示をたくさん貰うと気まずくなります。

白状すると、僕はもっとひどいことをやっていました。

28歳のころ、静かでシンプルな映像を求めるお客さんに、アイアンマンみたいなゴリゴリのUIグラフィックスを出したことがあります。本気で「これは効くぞ」と思いながら。結果は、全部作り直しです。

効くと思っていたものは、ただ、使いたかっただけだった。

20年やってきて、いま分かることがあります。直されるとき、腕はたいてい関係ないんです。あのとき僕に起きていたことが、いろんな現場で、形を変えて起きている。

先に言っておくと、これは「個性を出すな」という話ではありません。我慢の話でもない。出す前に、効くかどうかを確かめられるようになる話です。

前回の記事は、できることを増やす話でした。今回は、増えたものをどう選ぶか。まずは今回の負け筋を整理してから、あのアイアンマン事件の顛末を書きます。


読んでくださった方からのコメントも掲載します。かなり長い文章になるのですが、体系立てて整理していくのでぜひご覧ください。


連載について
このnote『負け筋をほどく』では、映像クリエイターとして約20年で踏んできた負け筋を整理しています。連載のコンセプトはこちらです。

記事はマガジンにまとめています。


今回の負け筋

こういうとき、よく言われるのは「やりたいことを出しすぎだ。もっとお客さんの言うことを聞け」という話です。半分は、その通りだと思います。聞くのは大事です。

ただ、これを我慢の問題として片づけると、同じ負けを繰り返します。我慢しようと決めても、また出てしまうからです。抑える量の話じゃなくて、見分ける話。じゃあ、何と何を見分ければいいのか。

「使いたい」と「効く」です。この2つは、違う。

今回の負け筋は、「使いたい」を「効く」だと思い込んでしまうことです。

できることが増えると、覚えた嬉しさで「使いたい」が先に立ちます。そして厄介なことに、使いたいものは、効くように見えるんです。課題のために選んでいるつもりで、実は自分の引き出しばかり見ている。
使いたいものが、効く顔をして出てくる状態です。

できないうちは、使いたくなる手段がまだないので、思い込みようがありません。できることが増えた人ほど、危ない。

冒頭の質問が「作り込んだ部分から外される」という悩みなのも、偶然じゃないはずです。作り込めるのは、もう作れる人だからです。

この思い込みが、現場でどう出るのか。僕がやらかした失敗から書きます。


シンプルでいいと言われたのに、アイアンマンを作った話

若いころの僕は、アイアンマンに出てくるようなUIグラフィックスが大好きでした。

画面いっぱいに走る細かい線。回転するホログラム。いつか作りたいと、ずっと思っていました。(Ash Thorp のファンでした)

そしてあるとき、実際の仕事で無理やりトライしてしまいました。

お客さんが求めていたのは、無印良品みたいな、静かでシンプルなデザインでした。打ち合わせの言葉を丁寧に拾っていれば、気づけたはずでした。
でも僕は、聞きたいようにしか聞いていなかった。

嬉々として、かっこいいトランジションを盛り、エフェクトを重ねて、初稿を出しました。「これは効くぞ」と思っていたんです。

初稿を送って、すぐでした。プロデューサーから電話が鳴ったんです。電話口の声が、気まずそうでした。どこから伝えたらいいんだろう、という感じで、言葉を探しながら話す。その時点で、察しました。

画面は騒がしく、ストーリーは埋もれている。結局、全部作り直し。
最初の制作と同じ丸2日が、もう一度かかりました。

刺さらない提案は、クオリティが低いから刺さらないんじゃありません。

課題に合っていないから、刺さらないんです。

このとき身に染みたのは、当たり前すぎることでした。
僕らは、お客さんの課題を解決して、お金をもらっている。編集も、モーショングラフィックスも、ぜんぶそのための手段で、目的ではない。

課題に効かない表現は、ノイズになってしまう。


原因は、2つあった

いま整理し直すと、2つのミスを同時にやらかしていました。

1. 課題の読み間違い

掘り下げれば分かったはずの課題を、途中でやめて、自分の願望で上書きしていました。使いたいという気持ちに、飲まれていたわけです。


2. 応える手法の、そもそもの不足

仮に課題を正しく読めていたとしても、僕はあの仕事に応えられませんでした。静かでシンプルに伝える手法を、持っていなかったからです。余白で見せるレイアウトも、文字だけで画面を持たせる方法も、引き出しにない。

だから、得意なSF系に逃げるしかなかった。使いたかったというより、それしかできなかった。ごちゃっと密度を上げることで、引き出しの少なさを誤魔化していました。


整理すると、
1つ目の読み間違いなら、まだ直しようがあります。次から、ちゃんと聞けばいい。でも、2つ目は根が深い。持っていないことに、本人が気づいていないんです。

ただ、いま思えば、手法を持っていなかったこと自体は、致命傷じゃありません。誰だって、自分にできることの中からしか出せないからです。

致命傷だったのは、この課題に本当は何が必要かを、自分のできることと照らし合わせなかったこと。

それをやっていれば、「足りない」と気づけました。気づけていれば、参考作品を研究する、シンプルなレイアウトの基本を調べる、埋める手はあったはずです。

作れることと、使うべきことは、違う。使うべきものが引き出しにないこともある。気づくには、課題と照らし合わせるしかない。

それをしないまま、押し切った結果が、あの作り直しでした。


打ち合わせで、手札から提案するのをやめた

この失敗で、猛省しました。お客さんの要望が何なのかを、ちゃんと受け止めて返さないといけない。ごまかしでやると、相手の時間も自分の時間も無駄にする。それで、打ち合わせのやり方を1つ変えました。

つい、やってしまいがちなのが、お客さんがぼんやりしたイメージを話しているときに、自分のできることの中から「こういう感じですか?」と返してしまうことです。僕はこれを、やめました。

まず、できる・できないは、いったん脇に置く。そのうえで、お客さんが本当にやりたいこと、課題になっている「ぼやっとした何か」を、提案の前のヒアリングで引き出す。

「この映像は、誰に、何を伝えるためのものか」。ここが言葉になるまで、手札を開かない。

ヒアリングに時間をかけるのは、綺麗事だけじゃありません。
作り直しの丸2日を、もう二度と払いたくないからです。

もちろん、プロなので、予算とスケジュールと実現可能性はシビアに見ます。「フルCGでやりたい」と言われて、現実的じゃない提案をしたら本末転倒です。現実的な範囲で提案する。
ただ、自分の得意・不得意を、提案の制限にしない。

正直、いまも油断すると、できるほうから返しそうになります。だから、気をつけ続けています。


増やした手法が、いざという時に出てこない

照らし合わせて「足りない」と気づいたとき、その場で調べて埋めるには限度があります。だから、日頃からできることを増やしておくのは正しいんです。目的は、見せびらかすためじゃなく、課題に応えられる状態を作るため。

でも、増やすだけだと足りません。

作った作例がフォルダに何十本も並んでいる。なのに実案件では、使う手法はいつも同じ2、3パターン。心当たりのある方、いると思います。僕がそうでした。

集めただけの手法は、いざというとき取り出せないんです。

だから、一つひとつに「これは何を解決していたんだっけ」のラベルを貼っておく。視線誘導なのか、情報整理なのか、テンポ作りなのか。

ラベルがあって初めて、課題と照らし合わせたときに、これが合う、と取り出せるようになります。

集めるだけのコレクションを、選べるセレクションにしておく。

増やすことと、整理すること。この2つがそろって、ようやく選べるようになります。


「一回当たった表現」が、その人を縛る

ここまでは、僕の失敗の話でした。
じつは別の配信でも、今回のテーマに関連した相談をもらいました。

「eスポーツのオープニング映像で一度評価された。伸びた自覚はある。でも気づけば、同じような表現ばかり繰り返している。他の方向も試したいのに、来る仕事は同じ系統ばかり。」

本人の言葉を整理すると「伸び悩んでいる」とのことでした。

構造は、僕のアイアンマンと同じだと思いますが、これはもう少しややこしい問題でした。

ここまでは、「使いたい」と「効く」は違うんだよという話でしたが、この場合は、使いたい表現が、たまたま課題と噛み合って、効いてしまう。

もちろん、当たること自体は、素晴らしいことです。

問題は、その先です。
一度効いた経験は、「使いたい」と「効く」の区別を、さらに溶かします。

そして、たまたま1回当たった表現が「作家性」と呼ばれた瞬間、その呼び名が、その人を縛り始めます。

同じ系統の依頼が続く。応える。また来る。評価されるのは嬉しいし、断る理由もない。そのあいだ、引き出しを増やす手は止まっています。仕事は回っているのに、選べる幅は増えていない。

作家性が生まれるというのは、ある意味で、自分の表現を縛ることでもあるんです。

これを、縛りだと理解して、ちゃんとコントロールできている人は強い。
「〇〇といえばこの人」は、狙って使えば武器になります。危ないのは、評価が嬉しいだけで、気づかないうちに自分で自分に制限をかけている状態です。

手数を増やさないままそこに囚われて、2年くらいで見かけなくなってしまう人を、僕は何人も見てきました。もったいないと、毎回思います。

偉そうに書いていますが、僕も同じです。アイアンマンで懲りたあとも、手癖だけで回していた時期があります。手癖で作れてしまうと、回っていること自体が言い訳になるんです。


貫くべきは、姿勢

スタイルには、流行り廃りがあります。だから貫くべきなのは特定のスタイルじゃなく、課題にあわせて選ぶ柔軟な姿勢です。

高い山を築くには、広い土台が要ります。土台が広ければ崩れないし、1つの山が終わっても、次を築ける。この広さが、選べる手法の多さです。

一点突破は、はじめは必要です。でも、運よく山を築けたあとは、甘えずに土台を広げておく。これが、なかなかできない。頑張りは伝わらないし、手応えもない、、、。
でも、その地味な時間が、次の山を作るんだと思っています。


次の案件で、試してほしいこと

抽象的な話が続いたので、読者の方がすぐ試せる形にしておきます。

つくる映像の役割を整理する

作業に入る前に「これは、◯◯な人に、◯◯を伝えるためのものだ」と、穴埋めみたいに書いてみる。

うまく埋まらなくても大丈夫です。言葉に詰まった場所が、まだ課題を掴めていない場所です。

役割を果たすために最適な表現か考える

次に、自分のできることをいったん忘れて、この課題に最適な形を考えてみる。それから、自分の引き出しと照らし合わせる。得意・不得意を、提案の制限にしない。

足りないものがあったら、埋め方まで考えます。調べて作るのか、参考を研究して寄せるのか、人の手を借りるのか。今回どうしても埋まらない分は、次に増やすものとしてメモしておく。

自分の得意な表現を点検する

それから、いま自分が評価されている型が、自分を縛っていないか。

もちろん努力してきたことが評価されるのは嬉しい。ただ案外、映像のクオリティではなくて別の要因で評価されているケースもあります。

おごらず、冷静に点検してみる。たぶん、それが次の出発点になります。


まとめ

直されるのは、下手だからじゃありません。
使いたいだけのものを、課題に効くと思い込んでいるからです。

覚えた手法を使いたい気持ちが、課題を解決するという目的を、追い越してしまっている。

アーティストとして「問題提起」をして生きるなら話は別です。でも、クリエイターとして食べていくなら、「課題解決」を目的に置いたほうが建設的だと、僕は思っています。

冒頭の「自分の個性は、出しちゃだめなんでしょうか」にも、ここで答えられます。個性を出すこと自体は、だめじゃありません。

その手法は、課題に効くから選んだのか。使いたかっただけなのか。

後者だと気づけたら、そこで終わりにしない。この課題には、本当は何が要るのか。足りない分を、調べて埋めるのか、人に借りるのか、次に増やすのか。ここまで考えて、はじめて「選んだ」と言えます。

個性は、出しちゃだめなんじゃない。
選べるようになった人から、堂々と出せるようになる。

僕はそう答えます。


次回の話

ここまでは、学び方と使い方の話でした。次回からは少し角度を変えて、フリーランスとして続けていくためのお金の使い方や、働き方の話に移ります。ここにも、繰り返しはまる負け筋があります。

1つお知らせです。この連載は、3本目までを無料で公開して、4本目からはメンバーシップでの連載に移行します。詳しいご案内は、あらためて記事にしますね。


さいごに

この連載は、僕が20年で転んできた場所を、順番に案内していく旅です。

自分で転ばないと分からないことは、たくさんあります。だから、転ぶなとは言いません。ただ、僕がどこで転んだかを先に知っていれば、同じ場所で転んでも、致命傷にはなりにくい。知って転ぶのと、知らずに転ぶのは、別ものです。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。この記事が良かったら、「スキ」を押してもらえると、次を書く励みになります。読みながら誰かの顔が浮かんだら、その人に渡してもらえたら嬉しいです。

次回もお楽しみに。 では、また!

いいなと思ったら応援しよう!

サンゼ│映像クリエイター いつも読んで頂きありがとうございます!頂いたサポートは新しいnote作りに役立てていきます!