【第6章】 オオタカ 〜中編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 オオタカ 〜前編〜 』
白い玉砂利が敷き詰められた、神社の境内。
樹齢ウン千年も生きてそうな御神木の枝に、あたしとハシブはとまり、作り笑いを浮かべながら向かい合った。
「さあ、ハシブ。『金色のカラス』のことを詳しく教えてちょうだい……」
「かしこまりましたガア……」
ハシブが話してくれた『金色のカラス』の内容は、こういうことだった──。
太陽のかけらを決死の覚悟で地上界に運んできたあと、人間と一緒に過ごすようになった初代カラスさんはたくさんの子孫を残し、いよいよ寿命が尽きようとしていた。
そのとき、神様が現われて、初代カラスさんにこう言った。
「ミサキよ、おまえは立派に神の使いとして、人間たちのために働いてくれた。その褒美として、これからも、おまえの大好きな人間たちを天界から見守ることが出来るように、永遠の命を授けてやろうぞ」
すると、死の床に伏していた初代カラスさんの真っ黒だった体がみるみるうちに、黄金色に光り輝いた。
そして、『金色のカラス』に生まれ変わった初代カラスさんはその場にすっくと立ち上がるや、天高く舞い上がっていった。
【完】
「そのときの初代カラス様の鳴き声は、聴く者の心を震わせるような美声に戻っていたらしいガア。一度でいいから聴いてみたいガア~~」
ハシブは『金色のカラス』物語にすっかり心酔している。
「ねえハシブ、ひとつだけ確認させてもらってもいい?」
「いいガア。ひとつと言わず、何個でもいいガア」
機嫌のいいハシブを前にして気が引けたけど、
「ハシブが話してくれたことって、神話だよね? ていうことは、『金色のカラス』は伝説上の存在で、現実には存在しない空想上の霊鳥なんだよね?」
あたしは思いきってきいてみた。
「ガガア!? なんだガア!!」
ハシブが不快感を爆発させ、
「ミーちゃんは、カラスの一族が神様の使いだったってことを信じてないんだガア? 失礼だガア! ガア、ガア、ガア!!」
「ちょ、ちょっと落ちついてよ! あたしは別に、ハシブの話を信じてないわけじゃないんだって。でも、『金色のカラス』が本当にいるんだったら、どこにいるの? 教えてよ! なんでも願い事を叶えてくれるんだよね? もう、四週間もピエロを探してるのにぜんぜん見つからないし、だったら、『金色のカラス』にお願いするしか方法が無いんだよ! あたしはやっぱり、人間に戻りたいのよ!!」
あたしは自分の不安な気持ちを全部、ハシブにぶつけた。
「正直……」
ハシブが顔を曇らせながら、
「『金色のカラス』様がどこにいるのか、オイラたちも知らないんだガア……」
「やっぱりそうなんだ……」
あたしが肩を落とすと、
「でも……ひとりだけ……知ってる人がいないわけでも……いや……ゴニョゴニョゴニョ……」
「誰よ!?」
ハシブの首をツバサで掴んで、
「誰なのよ! 教えて!!」
激しく揺さぶる。
「そ……『空の番人』……オオタカだガア……く……苦し……」
白目をむくハシブの首から慌ててツバサを離し、
「オオタカが『金色のカラス』の居場所を知ってるのね!」
「ガホガホガホ……でも……オオタカはカラスを獲物として喰っちまうから、『金色のカラス』様が天上界のどこにいるのかきくことは出来ないガア。あきらめるしかないガア……」
「オオタカはどこにいるの?」
ハシブをにらみつける。
「オオタカは地上界と天上界の境をパトロールしてるだガア」
「あたしがオオタカに直接会って、きいてくるわ!」
「やめるガア! 危険すぎるガア!」
ハシブが血相を変えて、
「『金色のカラス』様にピエロが見つかることを祈りながら探すほうが安全だガア」
「大丈夫だって!」
あたしは黒いツバサで胸をパンと叩き、
「あたしは、あの化け猫を退散させて生還した超ミラクルガールなのよ! 任せなさいって!」
それでも、ハシブは必死の形相で止めてくる。
「絶対にやめたほうがいいガア! オオタカは化け猫なんかよりずっと頭がいいガア! 化け猫のときに使った、猫ウイルスみたいなウソなんかじゃ騙せないガア!」
ギクウッ……。
ハシブの鋭い指摘に、顔がピクピク引きつった。
実は、化け猫を退けたセリフをアレンジして、「あたし、タカウイルスを持ってるのよ! うつしちゃうぞお~~」とオオタカを脅して、『金色のカラス』の居場所をききだそうとたくらんでいたのだ。
「……タカウイルス、ダメかな?」
「ぜんぜん、まったく、ダメダメだガア! オオタカは空の番人を神様から任されているだけに、ウソを見抜くのが得意なんだガア。しかも、ウソがバレた瞬間、目ン玉をエグられ、舌を引きちぎられ、八つ裂きにされて、心臓だけ喰われてしまうガア……」
「そ、そんな残酷で、贅沢な食べ方するんだ……」
あたしはすっかり怖じ気づいてしまった。
オオタカはかなりの強敵らしい。
『金色のカラス』の居場所をきき出す前に、あたしの心臓をオオタカに捧げる確率のほうが圧倒的に高そうだ。
でも、なんでも願いを叶えてくれる『金色のカラス』の居場所を知っているのは、オオタカしかいない。
だったら、どんなに可能性が低くても、オオタカの攻略法を見つけだすのみ!!
「ねえハシブぅ~~オオタカに弱点とかないのかなあ~~?」
「ないガア」
ハシブの身も蓋もない即答に、撃沈。
でも、オオタカ攻略という新たな目的が見つかったぶんだけ、あたしの心は明るくなった。
✻
それから毎日ずっと、オオタカから『金色のカラス』の居場所をききだす方法がなにかないか考え続けていた。
でも、情けないことに、まったく良いアイディアが浮かばないまま、一週間が過ぎ去ってしまった。
「ねえハシブ……」
仲間のカラスたちと鉄塔の上で日向ぼっこをしながら、
「やっぱりもう、この作戦しかないと思うんだけど……」
隣にいるハシブへ話しかけると、
「ミーちゃん……まだあきらめてないんだガア?」
ハシブがうんざりした顔で返してくる。
「ウソは見抜かれちゃうんだし、こうなったら、あたしの不幸な境遇を涙ながらに話して同情を誘う『泣き落とし作戦』しかないよ!」
「ダメだガア」
すかさず、ハシブの厳しいダメ出し。
「まず、泣き落とし作戦ってことは、その涙は計画的なウソの涙だガア? そもそも、オオタカにノコノコ近づいた時点で、ミーちゃんの境遇を話す前に、間違いなく攻撃されて、舌を引きちぎられるガア」
ハシブのダメ出しにまた敗れ、
「はあああ~~~」
深いため息を吐きながら空を見上げると、悠然と舞うオオタカの姿が目に飛び込んできた。
「ハシブ! オオタカがすぐ上を飛んでるよ! 襲ってくる前に逃げようよ!!」
あたしがツバサをばたつかせてうろたえていると、
「ミーちゃん、大丈夫だガア。オオタカがあの余裕の飛び方をしているときは、獲物を食べたばっかりで満腹だから襲ってこないんだガア」
大きなあくびをしながらハシブが目を閉じる。
「満腹だから、襲ってこない……?」
ビカビカビカ~~~ッ。
脳内がフラッシュする。
「あああ~~~~~!!」
ジグソーパズルの残り数ピースがパチッ、パチッ、パチッ、と空きスペースにはまっていくような感覚に包まれる。
「ハシブ、それよ!!」
あたしの大声に、ハシブや、昼寝していた他のカラスたちが驚いて、鉄塔から落ちそうになっている。
「なんなのよ、もう……」
オオタカ攻略の解決策がこんなに簡単だったなんて信じられない!
「ガアガアガアガアガア~~~」
上空を舞うオオタカへツバサを向け、あたしは勝ちほこったように笑った。
オオタカが食事を終えて、満腹になったときを狙って会いに行けばいいのよ!
そして、ウソをつかずに、誠意をもって、オオタカと話し合うの!
『空の番人』なんて立派な肩書きを持ってるんだから、きっと、あたしの不幸な境遇を理解してくれて、『金色のカラス』の居場所を教えてくれるに決まってる!
名付けて『満腹&誠意作戦』よ!!
絶対にうまくいくわ!!
間違いなし!!
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