【第6章】 オオタカ 〜後編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 オオタカ 〜中編〜 』
翌日のお昼を過ぎた頃。
満腹状態のオオタカが上空を悠々と舞っている。
あたしは、オオタカへ向かって一直線に羽ばたいた。
ぐんぐんと近づいていくあたしに、オオタカが面食らいながらも、戦闘態勢に入ろうと身構える。

「待って!」
あたしは大声で叫んだ。
「あたしは、あなたを攻撃するために来たんじゃないの!」
「だったらなにしに来たホォ~ク?」
オオタカの鋭い目がギロリとにらみつけてくる。
「あなたはいま、お腹がいっぱいなんでしょう? だったら、あたしをここで殺しても無駄なだけだと思うけど?」
「こしゃくな奴だホォ~ク。ホォホォ~~ク……人間からカラスに変身したというのは、おまえのことホォ~ク?」
鋭い……。
さすがは『空の番人』だ。
やっぱりあなどれない。
「そうよ。それで、あなたにひとつだけ教えて欲しいことがあるの」
あたしが言うと、
「面白いホォ~ク。ワレになにを教えて欲しいホォ~ク?」
意地の悪い顔でのぞきこんでくる。
「『金色のカラス』がどこにいるのか教えて欲しいの!」
「ホォ、ホォ、ホォ、ホォ~~~~ク!!」
オオタカが鋭くとがったクチバシをガチガチ鳴らせて笑い、
「おまえ、人間に戻りたいホォ~ク?」
あたしの心の中をズバッと射抜く。
「ならば、『金色のカラス』の居場所と引き替えに、おまえはワレになにを差しだすホォ~ク?」
「え……」
オオタカと交換するものなんて、なんにも考えていなかったあたしは焦った。
ウソは絶対に言ってはいけないんだし、かといって、なんにも無いなんて答えたら、絶対に教えてくれないに違いない。
でも、ここは、正直に、誠実に、
「あたしにはいま、交換するものがなんにもないの」
「ホォ~~~ク?」
オオタカの表情が残忍なものへと一変する。
やばい……。
お腹いっぱいでも、怒りのあまり、殺されてしまうかも……。
でも、ウソついちゃダメなんだし、無いものは無いし、どう答えたら……。
不意に、あたしを騙した、あのウソつきドブネズミを捕まえた時のシーンが脳裏に浮かぶ。
『アンタの命となにを取り引きするのよ?』
あたしが空を飛びながら、両足で捕らえているドブネズミへ横柄にきいている。
『ここだけの話でチュウが……ワッチの命を助けてくれたら、アナタ様が人間に戻れる唯一の方法を教えてあげまチュウ』
愛想笑いを浮かべながら、取り引き条件を提示してきた、ドブネズミ。
『ワッチの命を助けてくれたら』
『方法を教えてあげまチュウ』
ドブネズミのセリフが、脳内でリピートされる。
「あああっ……」
あの時のドブネズミはウソをついていたけれど、ウソをつかずに、いまは持っていないものを取り引き条件として提示出来る方法があった!!
「聞いて!!」
あたしは、オオタカの迫力に負けないように大声で、
「あなたが『金色のカラス』の居場所を教えてくれて、アタシが人間に戻ることが出来たら、あなたの好きな物をなんでも用意してあげるわ!!」
次の瞬間、オオタカのナイフのように鋭くとがったクチバシの切っ先が、あたしの眼球すれすれのところに突きつけられる。
「お~~ま~~え~~……」
オオタカの残忍な声に、心臓がギュギュギュゥ~~ッとしめつけられる。
「牛肉は用意出来るホォ~~ク?」
「ぎゅ……牛肉!?」
眼球をエグられる恐怖と、意外すぎる交換条件に頭が混乱しながらも、
「も、もちろん、人間に戻れたら、用意出来るわよ……」
なんとか答えた瞬間、オオタカのクチバシから、あたしの眼球が解放された。
「牛肉はめったに食べられないご馳走だホォ~ク。牛肉を差しだすんだったら、『金色のカラス』の居場所を特別に教えてやるホォ~ク」
オオタカは上機嫌で、クチバシの脇からダラダラとヨダレが流れている。
「わ、分かったわ……。牛肉、約束する……」
あたしが承諾すると、
「『金色のカラス』はあそこにいるホォ~ク」
オオタカはいとも簡単に、鋭いクチバシで、太陽を指し示した。
「太陽……? 『金色のカラス』は太陽にいるの?」
「そうだホォ~ク。『金色のカラス』は太陽の周りを翔んでいるホォ~ク」
「ちょっと、待った!」
あたしは、ドブネズミにだまされた化け猫事件のようなドジは二度と踏みたくなかった。
「太陽に『金色のカラス』がいるって証拠、見せてくれない?」
「……おまえ、ワレが嫌いなもの、なんだか知ってるホォ~ク?」
オオタカが、あたしの目をのぞきこむ。
「ウソ、なんでしょ。見抜くのが得意だって聞いたわ……」
「そうだホォ~ク。ワレが神に認められて『空の番人』を任されたのは、ウソをつくのも、ウソをつかれるのも、大っ嫌いだからだホォ~ク! 納得したホォ~ク?」
神様には申しわけないけれど、オオタカの話を信用するには物足りなかったあたしは、
「じゃあ、『金色のカラス』が太陽にいることを、牛肉に誓える?」
オオタカは目をぎらつかせ、
「特上の牛肉に誓うホォ~~~ク!!」
ヨダレをまき散らしながら大声で叫んだ。
間違いない!!
『金色のカラス』は太陽にいる!!
いまのあたしには、神様よりも、牛肉への欲望&ヨダレのほうが断然、信じられる。
それに、あたしが人間に戻れなければ、オオタカもご馳走の牛肉にありつくことが出来ない。
「指切りげんまん、ウソついたら、目ン玉、え~~ぐ~~る~~、指切った!!」
あたしはオオタカと物騒な契りを交わし、ルンルン気分で地上へ下降した。
待ってろよ、『金色のカラス』a.k.a. 初代カラスさん!!

いいなと思ったら応援しよう!
いつも温かい応援をありがとうございますガァ。物語がお気に召したらサポートいただけますと大変嬉しいガァ。いただいたサポ―トは、資料本や取材費にありがたく使わせていただきますガァ。