【第7章】 黒雲 〜前編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 オオタカ 〜後編〜 』
『金色のカラス』が太陽にいる──。
カラスにされて一ヶ月、ようやく人間に戻れるチャンスがめぐってきた。
「やっぱり、あたしは超ミラクルガールなのだ!」
化け猫に続き、オオタカも攻略したあたしは『金色のカラス』に絶対会えると自信に満ちていた。
太陽を目指して飛び立ち、『空の番人』オオタカによる天上界への検問も顔パスで通過。
はるか下を見下ろすと、途中まで付き添ってくれたハシブや仲間のカラスたちが「ガア、ガア、ガア」と泣きながら応援してくれている。
「みんな~~ありがと~~!!」
ハシブたちと別れるのは寂しかったけれど、あたしは顔を太陽へまっすぐに向け、ツバサを力強く羽ばたいて速度を上げた。
太陽へ近づくにつれて、ギラギラと照りつけてくる高熱の光が容赦なく、あたしの真っ黒ボディーに襲いかかってくる。
それでも、あたしは速度をゆるめることなく、
「金色の……カラス……金色の……カラス……金色の……」
呪文のように唱えながら上昇し続けていたそのとき──。
周りが暗くなっていき、あたしを苦しめていた過酷な熱さが急速に引いていった。
「金色の……カラスだ……」
『金色のカラス』が、頑張っているあたしの祈りをきいてくれて、太陽の光を遮ってくれたんだ……。
そして、この暗闇を金色の光で照らしながら、『金色のカラス』が登場するにちがいない……。
固唾を飲んで、神々しい主役の登場を待ち構える。
「えっ……」
あたしの前に現われたのは、『金色のカラス』ではなかった。

いままで生きてきて見たこともないような、どす黒い渦を巻いた超巨大な黒雲だった。
「うわわわ~~」
突然、黒雲がものすごい勢いの突風をあたしへ向けて吹きつけてきた。
あたしは体勢を大きく崩しながらも、なんとか落下しないようにツバサをバサバサバサと高速で羽ばたかせ、
「ちょっと~~なにすんのよ~~!」
黒雲をにらみつけた。
「ふん、カラスごときが生意気な……」
黒雲は意地の悪い顔であたしのことを見下ろしながら、今度はどしゃ降りの豪雨を浴びせかけてきた。
銃弾のような雨粒があたしの羽ばたいているツバサや全身に叩きつけられ、最初ははじいていた雨粒が羽の中にも染み込んできて、しだいに体が鉛のように重たくなっていく。
長時間羽ばたいていたツバサも限界に達し、ずるずると下へ落ちていく。
それでも、『金色のカラス』に会うチャンスを絶対に逃したくなかったあたしは、ツバサがもぎれそうになりながらも、必死に羽ばたき、もがき続けた。
「なんで、こんな意地悪するのよ! ふざけんじゃないわよ~~~!!」
黒雲へ怒鳴った瞬間──。
ビカビカビカーーッ。
黒雲から強烈なイナズマが放たれ、視界が真っ白に染まる。
横からなにかが激しくぶつかってきて、体ごと遠くへ吹っ飛ばされる。
イナズマの高圧電流が、あたしの心臓を鷲掴みにして、呼吸が出来ない。
……もう……ダメ……。
真っ逆さまに墜ちていく。
……あたし……このまま……。
すさまじい落下速度と死の恐怖に、意識が途切れ途切れになる。
……死ん……じゃ……。
「ホォーーーーーーッ」
耳をつんざく叫び声が、鼓膜を突き破り、
「ギャーーーーッ……」
背中に五寸釘を何本も同時に打ち込まれたような激痛が走る。
そのまま、プツンと意識が切れた。
✻
ひんやりとした草の上で、あたしは目を覚ました。
意識が朦朧としながらも、そこが見慣れた河川敷の草むらだとすぐに分かった。
……助かったんだ……あたし……。
黒雲のイナヅマ攻撃を喰らったせいで、まだ全身が痺れて動けない。
……でも……どうやって……助かったんだろ……。
「まったく……なにやってるホォ~ク?」
聞き覚えのある声。
「オオタカさん……」
オオタカが首をゴキゴキ鳴らしながら目の前に現れた。
「あなたが助けてくれたんだ……ありがとう……」
草むらにぐったりと横たわったまま、かすれた声でお礼を言った。
「まったく、ガッカリしたホォ~ク!!」
オオタカが怒った顔で、
「獲物が落ちてきたから捕まえたら、おまえだったホォ~ク。無駄骨ホォ~~~ック!!」
プイと顔をそむけ、飛び去ろうとツバサを広げる。
「えっ……」
立派なオオタカのツバサが、黒く焼け焦げている。
そういえば……黒雲のイナズマを受ける直前、なにかが横からぶつかってきて……。
「待って……」
声をふりしぼって、オオタカを呼び止めた。
「もしかして……あたしが……イナズマの直撃を……受けないように……あなたがかばって……くれたの……?」
オオタカはチラッとふり返り、
「最上級の牛肉を頼むホォ~ク」
あっという間に、はるか上空へと飛び去っていった。
「最上級の豚肉も……つけてあげる……」
あたしは草むらに横たわったまま呟いた。
空はきれいなオレンジ色に染まっている。
もうじき沈んでいく太陽を見ながら、悔しさがこみ上げてきた。
もう一踏ん張りで『金色のカラス』に会えたのに……。
邪魔をしてきた黒雲の意地の悪い顔が浮かび、涙があふれだす。
「ミーちゃん、大丈夫ガア~~!!」
ハシブとカラスレスキュー隊の仲間たちが、河川敷に倒れているあたしの周りにバサバサと慌ただしく降り立つ。
「ハシブ~~怖かったよ~~……」
あたしが泣きつくと、
「大丈夫、もう大丈夫だガア~~」
ハシブがやさしく抱きしめてくれた。
そして、あたしは二度と戻らないと思っていた古巣へ搬送された。
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