【第8章】 金色のカラス 〜前編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 黒雲 〜後編〜 』
「アチチ……金色のアチチ……さ~ん! 金色カラアチチ~~! どこアチチ……いるアチチ~~! いたらアチチ……返事アチチ……してアチチ~~!」
やっと太陽の近くまでたどりついたあたしは大声で『金色のカラス』へ呼びかけながら灼熱地獄を飛び回った。
でも、にこやかに微笑んでいる太陽の他には、誰も見当たらない。
太陽の高熱光線で、あたしの体を覆っている真っ黒な羽がブスブスとくすぶり始めている。
やばいよ……早く『金色のカラス』を見つけなきゃ、マジ焼き鳥になっちゃうよ……。
焦ったあたしは、太陽に、
「すいませ~~ん! この近くに『金色のカラス』さんがいるはずなんですけど、いまどこにいるのか教えてもらえませんか?」
訊いてみたけど、太陽は微笑んだまま、なんにも答えてくれない。
……聞こえなかったのかな?
「あの~~『金色のカラス』さんは、太陽にいるんですよねえ?」
あたしの問いかけに、無言で微笑み返すだけの太陽。
だめだ……。
ものすご~~く、嫌な予感がする。
『金色のカラス』はここにいないんじゃ……。
いやいや、『空の番人』オオタカが、極上の牛肉に誓って『金色のカラス』は太陽にいるって言ってたんだから、絶対ここにいるはずよ!
オオタカのあのヨダレにウソはない(はず)。
「あっ……」
もしかしたら、『金色のカラス』って呼んでるのは下界だけで、太陽はこの呼び名を知らないのかもしれない。
とっさにひらめいたあたしは、
「あの~~あたしが探してるのはですねえ~~」
さっきよりも大きな声を出して、
「もともと神様の使いをしていた『ミサキ』という名前の初代カラスさんなんですけど……」
シャリィ~~~~~~ン……シャリィ~~~~~~ン……
鈴の音が共鳴しているような美しい鳴き声が響き渡り、高熱の炎を噴きだしている太陽の黒点の中から、キラキラと全身を輝かせたカラスが勢いよく飛びだしてきた。
「来た〜〜〜〜〜……金色の……カラスが来た〜〜〜〜〜……」
熱さも忘れるほどのアドレナリンマックスで、あたしも『金色のカラス』へ向かって飛んでいく。
「『金色のカラス』さーーーん!! 会いたかったです~~~~!!」
ついに念願だった『金色のカラス』とのご対面──。
「んんん……?」
違う……金色……じゃない……。
目の前で優雅に羽ばたいている年老いたカラスのボディーは、白銀色だった。
「え~~と……初代カラスさん、ですよね……?」
「いかにもォ~~、ワシがァ~~初代カラスのォ~~ミサキじゃリィ~~ン」
無駄に語尾を伸ばしながらも、鈴の音のように美しく響き渡る声。
それに、脚もちゃんと三本ある。
たしかに、初代カラスの『ミサキ』さんには違いないんだろうけど……
「あの~~神様に永遠の命をもらったとき、金色のボディーにしてもらったはずなんじゃ……」
「金色ォ~~?」
ミサキさんが遠い昔の記憶へさかのぼるような目をしながら、
「ああァ~~あのときはァ~~、ご降臨された神様からァ~~発せられた黄金の光をォ~~、ワシの白銀ボディーがァ~~反射してただけじゃリィ~~ン」
「なるほどォ~~そうだったんですねェ~~~」
「なんじゃリィ~~ン? その人を馬鹿にした話し方、やめろじゃリィ~~ン」
「……」
ミサキさんの言い方が伝染したんですけど……。
「アチッ……アチチチ~~~」
気が抜けたとたん、興奮して忘れていた灼熱地獄がよみがえってきた。
この過酷な状況では、一分一秒が命取りになる。
羽の色が、金色だろうが、白銀色だろうが、そんなことはどうでもいい。
とにかく、人間に早く戻してもらわないと!!
「あの、ミサキさんはなんでも願いを叶えてくれるんですよね! あたしをいますぐ、人間に戻してくれませんか!!」
「シャリィ~~ン?」
ミサキさんが美しくも間抜けな声で、
「誰がそんな無責任なことを言ったじゃリィ~~ン? ワシはここから人間たちを見守っとるだけで、願いごとを叶えるなんて出来るわけないギャッ……く……苦し……」
あたしは我を忘れて、
「もう、そういう試練を課すみたいな展開、一ミリもいらないから! もったいぶってないで、早く人間に戻してよ!!」
ミサキさんの首を、両足で絞めあげた。
「ガホッガホッガホッ……落ち着くじゃリィ~~ン……おまえが探しとる……本物の『金色のカラス』は……ワシじゃなくて……別にいるじゃリィ~~ン……」
「じゃあ、早く連れてきなさいよ、ニセモノ~~!」
「ニ……ニセモノとはなんじゃリィ~~ン!」
「あーーもーーう! うるさい! うるさい! 早く『金色のカラス』に会わせてよ~~!!」
「……おまえはなんで……人間に戻りたいじゃリィ~~ン……?」
真剣な表情で訊いてくるミサキさんに、
「はあ? そんなの、もともと人間だったからに決まってるでしょ!」
逆ギレで返す、あたし。
「そうじゃなくて……人間に戻ったら……なにをしたいのかきいてるじゃリィ~~ン……」
「それに答えたら、本物に会わせてくれるんでしょうね!」
あたしはミサキさんをにらみつけ、
「だったら答えてあげるわよ! 人間に戻ったら、あたしは……あたしはねえ……」
威勢のいいタンカをきったにもかかわらず、あとに続く言葉がなんにも出てこなかった。
人間に戻ったあたしの姿を頭の中で思い描こうとしても、なんにも見えてこない。
代わりに、人間だった頃の嫌な出来事ばかりが、頭の中に浮かんでくる。
どんなに練習を頑張っても、特待生のせいでレギュラーになれなくて……。
お父さんみたいに真面目にコツコツ働いてきても、簡単にリストラされちゃって……。
理不尽で、不公平で、つまんな~~い仕組みの、人間世界……。
やりたいことを見つけたって、無駄なんだよ……。
『夢』なんて絶対、叶うわけないんだよ……。
ずる賢い権力を持った人しか、勝ち組になれない仕組みなんだから……。
重たく沈んだ心の中に、ぼんやりと見えてきたのは、前と変わらず、学校をサボってダラダラと公園で無駄な時間を過ごしている姿だった。
「ははは……」
あたしは空笑いしながら、
「やりたいことが見つからないんじゃ……」
ミサキさんの首を絞めていた両足を離し、
「人間に戻れても……意味ないってことか……」
失望と太陽の高熱で、意識が朦朧としてくる。
「いままでも……これからも……『ハズレ』ばっかの人生なんだし……もう……このまま死んじゃっても……いいや……」
その瞬間、羽ばたいていたあたしのツバサからブワッと火が燃えあがった。
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