孤高の天才?ハギワラシンジへ
2019年3月、オレはハギワラシンジと出会った。
きっかけはかめさま文学賞という、かめさまという方が主催している個人文学賞だった。「欄干渡り」という作品でオレは第2回のかめさま文学賞を受賞した。小説を書きだしてから賞を取ったのははじめただったから、うれしかった。
第2回のかめさま文学賞で「かめすぎるで賞」を受賞したのが、ハギワラシンジの 「私は朽ちていく疾走」だった。主催のかめさまが「なんだかよくわからないけどすごかった」的なことをツイキャスで言っていたので、気になったオレも読んでみた。
正直、負けた、と思った。
ハギシンは信じられないかもしれないけど、オレは元々はクロード・シモンとかロブ・グリエとかが好きで、ストーリがある小説なんて二流だと思っていた。今でもちょっと思っている。リーダビリティなんて糞くらえ。自分でもはじめはそういう小説を書いていた。
だけど、自分が書いた文学もどきは、駄作だった。自分でもわかる。だから、読みやすい文章で、オチがある小説を書いてみた。そうしたら、とりあえず賞をとれた。
だから、「私は朽ちていく疾走」みたいのに憧れはあった。この作品をきっかけに、オレはハギワラシンジに興味を持った。ハギシンの作品はよくわからない的なことを書いたことがあるけど、本当は昔から恐れていた。
ハギシンと相互フォロワーになった後、ハギシンがブンゲイ実況をしていることを知った。試しに聞いてみると、六枚道場とやらの作品の実況をしていた。オレはそれで六枚道場を知った。オレが六枚道場を知ったのは、ハギシンがきっかけだった。だから、オレはいまでもBFCにあまり興味がない。出てみたいとは思うけど。
六枚道場に参加すれば、ハギシンに実況してもらえるようだ。オレは第6回の六枚道場に「祭りの声」という作品を提出した。一緒に実況をしている宮月さんはほめてくれた気がするし、感想の評判もまあまあだったと思うけど、ハギシンのリアクションは薄かった。でも、オレは文学の友達とかいなかったし、作品を実況してもらえて感想をもらえたのはうれしかった。
次の第7回の六枚道場にオレは「抜けた足」という作品を提出した。この作品は完成度が高く、感想の評判もかなり良かった。宮月さんもかなりほめてくれて、最後の一文が「エモい」と言ってくれたが、ハギシンの反応はイマイチだった。ハギシンの文学観からすれば、メッセージ性の明確な作品は評価できないのだろう。実はオレもその文学観に同意している。伝えたい明確なメッセージがあるなら、小説なんて回りくどい表現をしなくていい。
第8回の六枚道場にはオレは「踏みにじられた夏」という作品を出した。問題作だったと思う。ハギシンや宮月さんもちょっと引いていたし、いろいろな人を傷つけてしまったかもしれない。若気の至りだと思う。だけど、今更六枚道場時代の自分の作品を読み返すと、これが一番いい作品だと思う。
六枚道場の参加者は他の作品の感想を書くことが推奨されていた。それで、オレも感想を書いてみた。さいしょは感想とかどう書くのかわからなかった。実際、第6回、第7回は途中で放棄してしまった。だけど、書き続けているうちになんとか書けるようになってきて、驚きなのは感想の評判が割と良かったことだ。
古賀コンでは佐藤相平は感想の人みたいな印象かもしれないが、六枚道場に参加しなければ感想を書こうとか思わなかった。これも、ハギシンのおかげだ。
その後はしばらく、オレの作品は実況されなかった。六枚道場の参加作品数が多くなって、すべての作品が実況されなかったからだ。
次にオレの作品が実況されたのは、第12回、最後の六枚道場だった。「近くの彼女」という作品は、自分でもそんなにいいとは思っていなかった。案の定、ブンゲイ実況でも評価はイマイチだった。ちょっと萎えたけど、ラストシーンが余計という指摘はとても勉強になった。この作品に限らず、オレは余計なことを書く傾向があると気づけたのはブンゲイ実況のおかげだ。最後の風景描写が「校歌みたい」と言われた時はちょっとイラっとした。がんばって書いたのに。だけど、読み直してみると、たしかに校歌みたいだった。的確な比喩だ。基本的にはオレは小説について何を言われても怒らないんで、これからも容赦のない指摘をお願いしたい。
一方、ハギシンが第12回の六枚道場に出した、「劫火の終わりに摂氏世界を孵化させる、再生と順接の神、環化su蛾花」は名作だと思った。だからこそ、古賀さんにこの作品が過去作の使いまわしだと言われた時はショックを受けた。そういうのはやめた方がいい。
六枚道場が終わった後は、オレは小説に対するモチベーションが下がっていた。ほとんど小説を書かなかった年もある。
そんな時、ハギシンが古賀コンとかいうもので賞をとったことを知った。ハギシンがいるならオレも参加しなければいけないと思った。
正直、一時間で小説を書くというのは、オレの苦手なことだ。オレは徹底的に文章を推敲するのが好きだから。だけど、挑戦してみることにした。作家にとって停滞は死だろ。
もちろん、今では古賀コンに参加してよかったと思っている。短期間で書く能力を身に着けることができたし、たくさんの友達をつくることができた。全作品の感想を書くおかしな人と思われているかもしれないけど、六枚道場では全作品の感想を書くのがふつうだったんですよ。
2024年12月、東京での文学フリマの後、古賀コンの集まりでオレはようやく生のハギシンと会った。はじめて見たハギシンは赤いセーターを着た冴えない小太りなメガネだった。カリスマ性は感じない。だけど、文学について語りはじめると、ブンゲイ実況での鋭い指摘が次々とあふれてくる。特に「書いた後で弱くなるような作品が読みたい」的な発言が印象に残った。あの発言がきっかけで、「オレはハゲ」は生まれた。とても感謝している。
喫茶店を出る直前にハギシンはトイレに行った。そのせいでみんなは待たされることになった。ハギシンがいない間に古賀さんは「だから仕事をクビになるんですよね。それがアイツのかわいいところですけど」とか言いながらリップクリームを塗った。オレはハギシンが小説を書かなければ生きられない不器用な人間だと再確認するとともに、古賀さんに信用できないものを感じた。
間違いなくハギシンは芥川賞は取れないだろう。文芸誌の新人賞もたぶん取れない。作品の当たり外れもある。だけど、ハギシンの作品のいくつかは、オレの脳裏にこびりつき、永遠に記憶に残る。たぶん。
ハギシンよりオレのことを評価してくれた人はたくさんいる。作風も全く違う。だけど、オレの文学的運命を変えてくれるのは、いつもハギシンだった。照れくさいけれどありがとう。これからも同世代のライバルとして切磋琢磨したい。
*この作品は古賀コン8(私立古賀裕人文学祭)のファンアートです。
(テーマ:「孤高の天才未満」 ルール「1時間以内に書く」)
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