見出し画像

校長先生に提案しよう

さやか星小学校 教務主任・第6学年担任 島岡次郎

 国語科では,「構成する文章を考えて,提案する文章を書こう」という単元に取り組みました。この単元の最も重要な標的行動は,集めた情報を論理的整合性がとれるように構成をし,作文する行動です。しかし,作文に辿り着く前に,自分が提案したいことを考え,自分の経験と調査から提案内容の妥当性を示し,問題解決のための具体的な提案を考えるという極めて複雑な行動連鎖が求められます。そのため,多くのお子さんが最重要の標的行動にたどり着く前につまずきます。

 こういった学習で特にネックになるのが,子どもたちが「本当に提案したい」と思うテーマが設定されていなかったり,提案したところで実現しなかったりする(そもそも誰に向けて提案するのかも曖昧であることが多い)ため,子どもたちの学習への動機づけが低いことです。1学年の人数が数十人から100人を超えるような学校では,子どもたちが提案したことを全て実現することは難しいです。これは仕方ないことなのですが,書く前から消去されることが分かっているので,子どもたちにとってあまり楽しい活動にはなりません。そこで本校では,「校長先生に,さやか星小学校をより良くする取り組みを提案しよう」というテーマを設定しました。少人数の利を最大限に活かし,子どもたちが提案した内容は確実に実現できるように環境を整え,提案を含めた学習行動が強化されるように仕組みました。

 さて,「どんな提案が出るかな〜」と楽しみにしていたら,さやか星小学校で取り組んでいるSWPBS(スクールワイド・ポジティブ行動支援)である『さやペイ』で獲得できる商品を増やしてほしいという提案が子どもたちから出されました。『さやペイ』は,朝の準備や体操着への着替え,そして子ども一人一人の目標となる行動に対してトークン(ペイ)を付与し,そのトークンを様々な商品と交換できるようにするシステムです。行動分析学ではトークン・エコノミー・システムといいます。この支援では,獲得したトークンと交換できる商品(バックアップ好子)が魅力的であることが重要なのですが,このバックアップ好子に対して,子どもたちから『もっと商品を増やし,魅力的にしてほしい』という提案が出たのです。ポジティブ行動支援を実施する人間として,「魅力的な好子を用意できていない」と子どもたちから言われてしまうことは汗顔の至りです。しかし,せっかく子どもたちが改善のヒントを与えてくれているので,むしろ学校をより楽しくするチャンスと捉えて取り組むことにしました。

 増やしてほしいバックアップ好子として,具体的には以下の2つが提案されました。本校の職員室にある,理事長肝入りで設置されたお洒落なBarでドリンクを飲む権利と,星の町・臼田にある本校自慢の天体観測室で,授業をしたり昼寝をしたりする権利が提案されました。面白いと思いました。子どもたちは,普段行けない場所に行くことに憧れる性質を有しています。特にBarに目をつけたのは鋭いなと思いました。また,「最新のゲーム機を用意してほしい」とか,「教室を新しくしてほしい」といった,お金がかかる「要求」ではなく,今あるものを工夫して学校生活を楽しくするための「提案」になっていたことが何より素敵でした。

 さらに子どもたちが立派だったのは,「さやペイの魅力を上げたい」と思っているのが自分たちだけではないことを確認するために,全校児童に対してアンケートを実施したことです。こうしたアンケートでは,デジタルが力を発揮します。子どもたちと質問項目を相談しながら作ったアンケートをロイロノートで共有すれば,紙の印刷や配布の手間がないのはもちろん,集計まで全てデジタルにお任せです。アンケートの結果,「さやペイでBarや天体観測室に行けるようにしたい」と答えた子どもの割合は78.3%,「さやペイのメニューを もっと たのしくしたり ふやしたりして ほしいと おもう」と答えた子どもの割合は81.8%でした。この結果から,子どもたちの提案はさやか星小学校の児童の意見として提案することの妥当性が示されました。また,他の学年の子どもたちからも,取り入れてほしいメニューの候補がたくさん出されたことも収穫でした。6年生の子どもたちが提案してくれなかったら他の学年の子どもたちの意見を聞くこともできなかったでしょうから,これも大きな成果と言えるでしょう。

 材料が集まったら作文をします。これからの時代,キーボードを使ったタイピング入力のスキルは必須になります。そこで,今回の提案文書はロイロノートを使って全てタイピング入力で作成しました。項目ごとに役割分担をし,自分で文章を考えて担当部分を作文しました。一人で作文するのが難しい場合,担任が一緒に文章を考えました。デジタルの良い点は,推敲と修正が極めて楽だということです。こうした課題の作文には非常に向いていると思います。

ロイロノートを使い,執筆箇所を分担して提案書を書き進めていきます。

 子どもたちは単元を通してとても楽しそうに取り組みました。停滞したり「何をすれば良いかわからない」状態に入ったりすることも一切なく,素晴らしい提案文書を書き上げ,校長先生に提出しました。提出する際の態度も含めて最高学年として立派な姿だったと思います。子どもたちの提案は,職員で話し合い,見事受諾されました。今後,できる限り早く実現させる予定です。

 「とりあえず,一人1枚提案書が書ければいい」と,先生が必死になって子どもの文章を推敲し,形だけ書けたことにする授業をたくさん見てきました。恥ずかしながら,自分も,そうした授業になってしまった経験があります。でも,子どもの学びを最優先にし,環境を調整することでここまで楽しい学習にすることができる。私にとっても学び多き単元でした。子どもたちに感謝です。