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テルペンを操るabstrax社

テルペン、
植物由来の香気成分を、水溶性のハイパー濃縮フレーバーとして販売しているのがAbstrax社。

Abstrax社は飲料用テルペンを、
用途に合わせていくつかのシリーズを提供しています。


飲料用に展開している主なシリーズ四つ。

①BrewGas シリーズ

(factionのterpsmanや、hop butcher for the worldのsecret snackに使われている)

特徴: 大麻品種(Blue Dream, Sour Tangie, OG Kush, Pineapple Expressなど)に特化。とにかく**「ダンク感」「ガス感」「エッジの効いた柑橘やベリー」**をブーストしたい時。

②Quantum(クァンタム)シリーズ

特徴: 純粋なホップ由来の超低温抽出アロマオイル。CitraやGalaxy、Chinookなど、特定のホップ品種が持つ「最もフレッシュでフルーティな瞬間」の香りを完全に濃縮したもの(アルファ酸は含まないため苦味はつきません)。

③Omni(オムニ)シリーズ

特徴: ホップ抽出物に他の植物由来のテルペンを融合させ、特定のホップロットのキャラクターを安定して再現・強化するブレンドシリーズ。

④Skyfarm(スカイファーム)シリーズ

特徴: フルーツフォワードなビール(フルーツエールやサワーなど)向けに、植物由来のテルペンで極限まで鮮烈な果実感を再現したフルーツフレーバーライン。

今回は、 ガスクロマトグラフィーなどの高度な分析機器を用いて大麻の特定品種(Cultivar)の香気プロファイルを分子レベルで完全に解明(リバースエンジニアリング)している、
BrewGas シリーズについて掘りたいと思います。

BrewGas シリーズの5つの核

1. カンナビスの香りの「リバースエンジニアリング」

大麻とホップは同じクワ科(Cannabaceae)に属する「遺伝子上のいとこ」のような関係であり、香気成分の構成(テルペン)に非常に強い共通点があります。Abstrax社は、大麻の特定品種から500以上の香気化合物を分子レベルで分析し、その本質的なプロファイル(品種ごとのブレンド比率)を完全に再現しました。

2. 100%合法(THCフリー、CBDフリー、植物由来)

「大麻の香りがする大麻」ではなく、ホップや柑橘類、その他の一般的な植物から抽出した天然テルペンを精密に組み合わせて再現しています。向精神作用のあるTHCや、麻薬・医薬品成分であるCBDなどは一切含まれていません。 そのため、世界中で完全合法、かつ日本国内でも食品添加物(香料)として問題なく使用できます。

3. 米国TTB(アルコールタバコ税及び貿易の取締局)の承認済み

米国の厳しいアルコール飲料の規制当局であるTTBの承認(FIDS文書付き)を得ており、原材料表示には**「天然香料(Natural Flavor)」**とだけスマートに記載できるクリーンなラベル仕様になっています。

4. 完全にビールに馴染む「水溶性エマルジョン」

本来、油分であるテルペンをそのままビールに落とすと分離してしまいます。BrewGasは、
超音波ホモジナイズ技術などによって水溶性のエマルジョン(乳濁液)技術で加工されているため、ビールにスムーズに分散し、タンクの壁面にべたついて残ることがありません。また、クリアなラガー等に入れても不自然な濁り(ヘイズ)を発生させない性質を持っています。

5. 圧倒的な「タイト感」と歩留まり(収量)の改善

100%液体として製品に溶け込むため、ドライホップのようにホップ粕がビールを吸い込んでしまい収量が減る(Yield Loss)という問題がゼロになります。また、ロットによる香りのブレれがなく、計算通りのダンク感をバッチごとに100%再現できます。

2. 添加することで、どのような効果があるか?


主な効果は**「圧倒的かつ効率的なアロマ(ダンク感・フルーティさ)の付与」と「醸造効率の向上」**です。

これまでブルワーが膨大なホップの量、投入のタイミング、そしてイーストの選定(バイオトランスフォーメーション)を駆使して、職人技で必死に引き出そうとしていた「あの最高にジューシーでダンクなアロマ」を、パッケージング直前に液体でピペット(スポイト)投入するだけで、狙い通り100%確実に再現できてしまうという、ある種の「チートコード」のような製品です。

1. 「バイオトランスフォーメーション」との違い

本来、バイオトランスフォーメーションは、ホップに含まれる「配糖体(香りが糖と結合して無臭になっている状態)」や「テルペンアルコール(リナロールなど)」を、イースト(Chico株や各種Hazy用イーストなど)が持つ酵素(β-グルコシダーゼなど)によって分解・変換させ、よりトロピカルでジューシーな香りに化けさせる、非常に繊細な科学反応です。

従来の苦労:

発酵のトップスピード(アクティブ・ファーメンテーション)のタイミングを見極めてドライホップ(DDH)をしなければならず、タイミングがズレると狙った香りになりません。また、イーストの活性度や体調によっても変換効率が変わるため、バッチごとのブレが出やすいという難点がありました。

テルペン製剤の場合:
Abstrax社のような製剤は、すでに**「変換された後の、最もおいしい状態の香気成分(フリー体のテルペンや、極微量で劇烈なキャラクターを放つチオール・硫黄化合物)」**をあらかじめ分子レベルで完璧に調合しています。イーストに働いてもらう必要がそもそもないため、発酵が終わった冷たいビールに混ぜるだけで、一瞬で「バイオトランスフォーメーションが完璧に大成功した時の一番良い香り」が手に入ります。

2. 従来の「大量ホップ(DDH)」との圧倒的な差

モダンなIPAで「ダンク感(Dank)」や「強烈なシトラス・パッションフルーツ感」を出そうとすると、1Lあたり数十グラムという狂気的な量のペレットホップ(あるいはCRYO)を何回にも分けてドカンと入れる必要がありました。
これには以下のような大きなリスクとコストが伴います。

【1. 収量ロス(ビールの減り)】
従来の大量ドライホップ: ホップ粕がビールを吸い込み、10%〜20%のビールがドブに消える(収量減)。

テルペン製剤(BrewGas等): 完全な液体なので、吸着による収量ロスは0%。

【2. ホップクリープ(意図しない再発酵)】
従来の大量ドライホップ: ホップ由来の酵素が残糖を再発酵させ、度数が上がり、ボディがドライになりすぎるリスクがある。

テルペン製剤(BrewGas等): 酵素を一切含まないため、ホップクリープの心配は完全にナシ。

【3. ポリフェノール(渋み・青臭さ)】
従来の大量ドライホップ: 大量に入れると、植物の葉由来のザラザラした渋み(Hop Burn)や青臭さ(Vegetal)が出てしまう。

テルペン製剤(BrewGas等): 純粋な香気成分(精油・エマルジョン)だけなので、どれだけアロマを強めても渋みや青臭さはゼロ。

3. では、本物のホップやイーストは不要になるのか?

「じゃあもうホップもイーストのバイオトランスフォーメーションもいらないじゃん!」となるかというと、クラフトビールの奥深さはそこにとどまりません。ここが面白いところです。
最先端の海外ブルワリー(Humble SeaやOther Halfなど、この手の製剤をいち早く導入したトップランナーたち)の結論は、**「ベースは本物のホップとイーストで造り、最後の『トップノートの爆発力』としてテルペンを融合させる」**というハイブリッドな手法です。

本物のホップ・イーストの役割:
ビールとしてのしっかりしたボディ感、口に含んだときのミドルノート(中盤の味わい)、本物の植物だけが持つ複雑な奥行き、そして心地よい苦味。

テルペン製剤の役割:
グラスを鼻に近づけた瞬間に脳を直撃する、鮮烈でセクシーな「ファーストアタックの香り(トップノート)」。

結論として
「狙ったダンク感がどうしてもロットによってブレる」「もっとわかりやすいブルーベリーやタンジェリンのトップノートが欲しい」「でもこれ以上ホップを入れると渋くなるし収量が減る……」というブルワーのジレンマを、一撃で解決してくれる魔法のブースター。それがこの天然由来テルペン製品の真価です。

テクノロジーがもたらしたのは、職人たちの敗北ではなく「限界からの解放」です。

これまではホップの渋みや収量ロスという「物理の壁」に阻まれて形にできなかったブルワーの脳内にある理想のレシピが、この小さなピペット一本で完璧に具現化される時代が来ました。

サイエンスという名のチートコードを手に入れた現代のブルワーたちが、次にどんな「ありえないビール」で私たちを驚かせてくれるのか。クラフトビールの進化は、まだ誰も見たことのない領域へ突入しています。

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