The Dance of Eternity (8)
ビジネス文脈における安定化選択と方向性選択の条件
これまで見てきた通り、生物進化における断続均衡的な進化〜「変化しては停止する(それも変化の時間よりも停止の時間の方がはるかに長い)」〜は、安定化選択と方向性選択が交互に優勢を取り合うことでもたらされてきたわけですが、この仕組みは企業組織にもそのまま応用できます。
安定化選択は「戦略の選択と集中」「オペレーショナル・エクセレンスの追求」を意味し、方向性選択は「既存の標準的戦略から離れて新たな戦略を模索する動き=イノベーション」に相当します。(ステレオタイプなイメージですが、選択と集中とかオペレーショナル・エクセレンスを標榜するビジネスパーソンといえば表題イラストの左側、謹厳実直タイプ、イノベーションといえば右側のファンキーなリーマンでしょう!)
生物進化では、安定化選択はその生物種の生存環境が安定的で変化が少ない場合に、方向性選択は環境が急激に変動する場合に、それぞれ活発に働くと言いましたが、噛み砕くと次の表のようになります。

では、この要因を企業を取り巻く事業環境に読み替えてアナロジーを考えとすれば、こんな感じでしょうか?
生物の生息環境→市場環境
捕食・被食関係 → 政治・経済・社会・技術トレンド(いわゆるPEST)
競争 → 競争そのもの
繁殖戦略 → 人材の採用・配置・昇進(あるいはダイバーシティ施策)
移動や遺伝的浮動 → 企業間の情報や文化の交流
社会的行動・文化 → 組織内部のコミュニケーション環境
食糧資源の変化/生態系の複雑性 → 市場ニーズの変化/市場参加者の複雑な相互影響関係
自然災害 → 想定外の破壊的環境変化
そのうえで安定化選択(選択と集中、オペレーショナル・エクセレンスの追求)と方向性選択(イノベーション)を促す要因の対照表を作ってみるとすればこんな感じでしょうか?

ビジネス文脈における安定化選択と方向性選択を促す要因
生物進化において自然選択は数ある進化要因のひとつにすぎませんが、安定化選択と方向性選択という二つの概念から得られる洞察が企業経営に与える含意は、驚くほど示唆に富んでいます。
2025年現在の僕達をめぐるマクロな企業経営環境はといえば、新型コロナウイルス禍の記憶は生々しく残っているし、ウクライナやパレスチナを初めとする地政学的リスクと紛争の緊張感が高まり続けているし、保護主義的な政策とそれに対抗してブロック経済化を進めようとする動きが加速していることに加えて、技術的な要素でいえば遺伝子治療の急速な進展、生成AIの急激かつ広範な普及、レイ・カーツワイルが予測するところの「シンギュラリティ」に迫る量子コンピューティングの実用化など、マクロ的な変動要素が目白押しです。

一方で、タレントの獲得・活用に関する方針、企業間における文化的情報の交換量、組織内部での行動規範の浸透といったミクロ要因は、間違いなく経営者の意思決定とマネジメントの影響が及ぶ領域でありコントロールが可能なテーマです。経営陣として「コントロールできる領域」ではその領域で部分最適化を繰り返すしかないのですが、「経営陣のコントロールを超えたマクロ領域」で起こる大変動に対処する術を生物進化から学ぶとするなら、方向性選択を促す「潜在的な多様性」を組織内に溜め込んでおくことではないのか、と思うのです。
