【あなたに会えて幸せ】/第4章第21話「家族の証とふわとろオムレツ」
赤ちゃんの心音が確認できたら、次は母子手帳。
どんどんこなすよ!
先日記入した婚姻届も一緒に提出しよう。
時間がかかる外出になりそうなので、
久しぶりにお弁当を作った。
トモキもお弁当を作ってくると言うので、
役所で交換しよう、ということになった。
今日は、夫婦になる日。
いつもの【ふわとろオムレツ】に、
ケチャップで、ムフフ~なひと言を書いた。
役所に到着。
トモキもすぐに現れた。
婚姻届を提出した際、窓口の職員がふたりの車椅子を見て、一瞬戸惑ったあとに
「あ! ご結婚されるのですね!」
と、驚きを隠せない声を漏らした。
世間の「車椅子=介護される人」という無意識の偏見に、私たちは静かに微笑み合った。
以前の私たちなら、イチイチつまづいた。
ラブホで、
「なぁに、あのふたり?
まさか、《する》つもりで来たのかしら?」
と言われたのも、産婦人科で皆がフリーズしたのも、もう【どうでもいい】感じ。
《する》つもりでラブホに行き、
《する》つもりで役所に来た。
「手続きに一時間ほどかかりますので、ロビーのベンチにかけてお待ちください」
私たちは、クスクス笑う。
車椅子ユーザーあるある!
「ベンチにかけてお待ちください」
いえ、既に座ってます(笑)
ロビーで、私たちは待ちに待ったお弁当の交換をした。
車椅子のひじ掛けをぴったりと合わせ、せーのでお互いのお弁当箱のフタを開けた。
フタを開けた瞬間、私たちは思わず吹き出してしまった。
トモキのオムレツの上には、真っ赤なケチャップで【ママへ❤️】と書かれていた。
そして、私の作ったオムレツの上には【パパへ❤️】。
あの日のように、私たちはまったく同じことを考えていたのだ。
「何これ、トモキと一緒じゃん!」
「気が合うなぁ、俺たち。
いや、もうすぐ俺の『奥さん』になって、
赤ちゃんが生まれるんだもんな」
照れくさそうに笑うトモキの顔を見つめながら、オムレツを口に運ぶ。いつもよりずっと甘くて、温かかった。
つわりが始まったかな?
お弁当の後、ちょっとムカムカした。
ポーン、と電子音が鳴り、フロアのスピーカーから無機質な自動音声が流れた。
『受付番号、二〇五番でお待ちの方。五番の「市民課」窓口までお越しください』
その機械的なアナウンスを聞いた瞬間、私の胸の奥がじんわりと熱くなる。
トモキが提出した婚姻届が、今、あの機械のシステムの中で正式に受理されたのだ。
私たちは、本当の夫婦になったのだ。
私たち夫婦の戸籍謄本を手渡しながら、
「おめでとうございます」
と、窓口担当者。
「ありがとうございます」
と、私たち。
その足で、私たちは同じ窓口で「妊娠届出書」を提出した。
昔は、役所の記入台やカウンターは、車椅子の私たちにとっては見上げるほど高い位置にあったらしい。
実際、郵便局の記入台は、今でも高い。
ここ10年くらいで、役所の記入台は、車椅子でも記入しやすい高さのものが常設されている。
記入を開始したものの、先ほどからのムカムカで、作業が進まなかった。
いつの間にか、水筒がからになっていた。
「ゴメン、トモキ。
飲み物買って来るね」
「ウン、気を付けてね。
ムカムカ、きつい?」
「大丈夫❗」
記入台を離れ、フロアの隅にある自販機に向かった。
「おお~! こんな所で会うとは!」
車椅子ユーザーに配慮した 自販機。
高さが、従来の自販機の半分くらい。
幅は、ちょっと広い。
私は、東急線横浜駅で見たことがある。
ジャスミン茶を買い、すぐに一口飲んだ。
少しスッキリして、トモキが待つ記入台に戻った。
書類を提出した際、窓口の女性職員が一瞬、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「車椅子のふたりが……?」
という世間の無意識の偏見。
婚姻届に続き、あなたも驚くの?
しかし、私が凛とした態度で
「母子手帳をいただきにきました」
と告げると、職員はハッと我に返り、満面の笑みで
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます🙇」
手渡された母子健康手帳。
「保護者の氏名」の欄に、トモキとミクの名前を並べて書く瞬間。
まだ真っ白な「赤ちゃんの名前」の空欄を見つめながら、私はお父さんに命名を頼んだことを思い出した。
お腹を撫でて、生命の愛おしさを再確認。
アパートに戻った私たちは、すぐにYouTubeの撮影を開始した。
手に入れたばかりの母子手帳を、真っ直ぐにカメラの前に掲げる。
演出も綺麗事もない、私たちの生の声だ。
「皆さま、いつも応援ありがとうございます。本日、私たちは入籍し、正式に夫婦になりました。
そして、この新しい命を、この車椅子の上から二人で責任を持って育てていくことを決意しました。
新しいチャンネル【あなたに会えて幸せ】で、私たちのリアルな日常をこれからも発信していきます!
では、視聴者の皆さま、ご一緒に。
(手話)
あなたに~(手のひらを上に向けて、あなたに差し出す)
あえて~ (両手の人差し指を立てて、軽く曲げ、合わせる」
しあわせ!(アゴヒゲを2回撫でる)
バイバ~イ」
誇り高き親として、私たちは新しい一歩を踏み出した。
第22話に続く
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