停滞しているのは社員ではなく、環境の方だった(第3回)
停滞しているのは社員ではなく、環境の方だった(第3回)
前回、人の行動は個人の特性と環境の相互作用によって規定されるという話をした。そしてその「環境」は一枚岩ではなく、複数の層が重なっていることにも触れた。俯瞰した視点をどう持つか、という問いも残した。その答えは後回しにして、まずは「実際にどのようなズレが起きているのか」を具体的に見ておきたい。
面談の場で繰り返し見えてきたパターンを、三つの層に整理してみたい。
第一の層——職務のズレ
「自分の強みが、今の仕事では活かせていない」「やらされている感が強くて、主体的に取り組めない」
こうした言葉は、職務の内容と個人の興味・強みのズレから生まれる。担当する仕事の範囲、役割の定義、日々のタスクの質——これらが個人の価値観や能力と噛み合っていないとき、人は消耗しながら働くことになる。
この層のズレは、比較的対処しやすい。仕事の意味を問い直したり、関わり方を少し変えたりすることで、個人が主体的に改善できる余地がある。いわゆるジョブクラフティングが有効に機能するのは、主にこの層においてだ。
第二の層——関係性・職場文化のズレ
「評価されているのかどうか、正直わからない」「手を挙げたいけど、そういう雰囲気ではない」「上司に相談しても、どうせ変わらないと思っている」
この層のズレは、個人の努力だけでは変えにくい。評価制度への不信、心理的安全性の欠如、上司との関係性——これらは職場全体の文化や慣習に根ざしていて、個人がどれだけ前向きに取り組もうとしても、跳ね返されやすい。
むしろこの層のズレが放置されると、第一の層で芽生えた意欲すら削がれていく。職務のズレは対処できても、関係性のズレが重なると、人は静かに諦めていく。
第三の層——組織構造・制度のズレ
「キャリアは自分で考えろと言われるが、異動も配置も会社が決める」「頑張っても、報われる仕組みになっていない」
この層のズレは、最も根深い。キャリア自律を掲げながら実態は組織都合で動かす、評価制度が現場の実感と乖離している——こうした構造的な矛盾は、個人の工夫では解消できない。
そしてここに、前回触れた「都合の不透明さ」が絡んでくる。その制度や構造が、事業戦略に基づいた合理的な設計なのか、慣習の積み重ねなのか——組織の内側にいる当事者には、判断が難しい。
三つの層を並べてみると、あることに気づく。
これらは独立した問題ではない。一つの層のズレが、別の層のズレを呼び込み、じわじわと拡大していく。
職務のズレが放置されると、「頑張っても正当に評価されない」という感覚につながる。評価への不信は、キャリアパスの見通しを曇らせる。キャリアパスが不確かなまま自己申告や公募制度だけが存在しても、それは機能しない。機能しない制度は、意欲そのものを削いでいく。
こうした連鎖が静かに進行しているとき、表面に現れるのは「やる気のない社員」という像だ。しかし本当に起きているのは、ズレが層をまたいで積み重なった結果としての消耗である。
だとすれば、個別の層への対処だけでは不十分だ。連鎖の構造ごと捉え直すことが必要になる。
では、それは誰がどう行うのか。次回は、そこを考えていきたい。
