企業型確定拠出年金|退職後の放置で自動移換になります
会社員のときに「企業型DC(企業型確定拠出年金)」に入っていた方が退職・転職をすると、その口座は一度宙に浮きます。ここで「とりあえずそのままにしておこう」と考えてしまう方は、とても多いです。
ですが、結論から言うと、放っておくのがいちばん損をしやすい選択です。手続きをしないまま6か月が過ぎると、年金資産は自動的に「国民年金基金連合会」へ移されます(これを自動移換といいます)。そして運用は止まり、現金のまま管理され、その間も手数料だけが引かれていきます。
ここで知っておきたいのは、自動移換は「安全に現金で守ってくれる」しくみではない、ということです。本人が選んで現金にしているのではなく、手続きを忘れた結果として、運用も止まり手数料も取られる、いちばん中途半端な場所に置かれてしまいます。
私はアクチュアリー準会員として、企業が抱える退職給付の数理計算とその説明を仕事にしてきました。その立場から見ると、確定拠出年金は「時間をかけて運用を続けられること」がいちばんの値打ちです。自動移換は、その値打ちをまるごと止めてしまう状態だと言えます。この記事では、企業型DCを退職したあと何が起きるのか、放置すると何を失うのか、いつまでに何をすればいいのかを、順番に整理します。
退職すると、企業型DCの口座はどうなるのか
企業型DCは、勤めている会社が掛金を出してくれる(または給与から出す)年金制度です。退職や転職で会社を離れると、その会社の企業型DCの「加入者」ではなくなります。
このとき大事なのは、口座の中のお金が消えるわけではない、という点です。これまで積み立てて運用してきた資産は、あなた個人のものとして残ります。ただし、そのお金を次のどこかへ「移す」手続きが必要になります。この持ち運びを移換と呼びます。
移換先は、おもに次のどちらかです。
転職先に企業型DCがある場合は、その制度へ移す
企業型DCがない場合や自営業・専業主婦(主夫)になる場合は、iDeCo(個人型確定拠出年金)へ移す
逆に言うと、退職したあと自分で行き先を選んで手続きをしないと、資産は宙に浮いたままになります。そして、その状態が続くと次の「自動移換」が起きます。
6か月放置すると「自動移換」される
企業型DCの加入者の資格を失った月の翌月から数えて6か月以内に移換の手続きをしないと、年金資産は国民年金基金連合会へ自動的に移されます。これが自動移換です。
自動移換されると、お金は運用されず、現金のまま預かられた状態になります。値上がりも値下がりもしませんが、増える機会も止まります。そして、現金で塩漬けになっているあいだも、後で見るとおり手数料は引かれ続けます。
「いったん安全な現金にしておいてくれる」と感じる方もいるかもしれません。ですが、自動移換は安全策ではありません。冒頭でも書いたとおり、運用も止まり手数料も取られる、いちばん中途半端な状態に、手続きを忘れた人だけが置かれてしまうのです。
自動移換で失う3つのもの
自動移換が「ただ置いてあるだけ」で済まないのは、次の3つを同時に失うからです。
1つめは、運用の機会です。現金のまま管理されるため、自分で運用商品を選ぶこと(運用指図といいます)ができません。つまり、ほったらかしの現金になり、自分では動かせなくなります。本来であれば時間をかけて育てられたはずのお金が、止まったままになります。
2つめは、手数料です。何もしていないのに、次のような費用がかかります(金額は2026年4月時点)。
自動移換されるとき:4,348円
自動移換された月の翌月から数えて4か月目以降:毎月98円
あとで確定拠出年金(転職先の企業型DCやiDeCo)へ移すとき:550円
脱退一時金や死亡一時金を請求するとき:4,180円
つまり、運用で増えないのに、入り口と毎月と出口でそれぞれ手数料が差し引かれます。長く放置するほど、現金は静かに目減りしていきます。なお、自動移換からiDeCoへ移す場合は、この550円とは別に、iDeCo口座そのものを開くための加入時手数料などがかかります。これは自動移換に限らずiDeCoを始める人みんなにかかる費用ですが、あわせて見込んでおくと安心です。
3つめは、期間です。自動移換されているあいだは、確定拠出年金の通算加入者等期間(確定拠出年金に加入していた期間の合計)に算入されません。確定拠出年金は、60歳で老齢給付金を受け取るために、この期間が通算10年以上必要です。自動移換の期間がここに数えられないと、受け取りを始められる年齢が後ろにずれてしまう場合があります。
退職後にできる選択肢
では、放置しないために何を選べばよいのでしょうか。退職後の状況によって、移換先は変わります。
転職して、転職先にも企業型DCがある場合は、その制度へ移すのが基本です。会社の担当部署に申し出れば、移換の案内を受けられます。
転職先に企業型DCがない場合や、自営業・フリーランス・専業主婦(主夫)・公務員になる場合は、iDeCoへ移します。このときは、金融機関(運営管理機関)でiDeCoの口座を新しく開き、そこへこれまでの資産を移換する、という流れになります。iDeCoへ移せば、ふたたび自分で運用を選べるようになり、新しく掛金を出していけば、その掛金は全額が所得控除の対象になります。
移すのは、まずは今ある資産です。新しく掛金を出すかどうかは、移換とは別に、家計に合わせて決めて構いません。どの制度が自分に合うか、いくら掛けるかといった個別の損得は、人それぞれの収入や家計で変わります。ここでは制度のしくみまでをお伝えし、具体的な金額の判断は、ご自身の数字でご確認いただくのが安全です。
いつまでに、何をすればいいか
やることの順番は、シンプルです。
まず、退職したら「企業型DCの資産がある」ことを忘れないようにします。これがいちばんの落とし穴です。退職時の書類に、運営管理機関(資産を管理していた金融機関)の名前が書かれていますので、確認しておきます。
次に、自分の行き先を決めます。転職先の企業型DCか、iDeCoか、です。iDeCoにする場合は、証券会社や銀行でiDeCo口座を開き、そこへ「企業型DCの資産を移換したい」と申し込みます。
そして、期限を意識します。資格を失った月の翌月から6か月です。早めに動くほど、運用の空白も手数料も小さくて済みます。
もしすでに自動移換されてしまっていても、あきらめる必要はありません。手数料はかかりますが、iDeCoなどへ移換すれば、そこから先はまた運用を再開できます。気づいた時点で動くのが、いちばんの近道です。
まとめ
企業型DCは、退職・転職をすると加入者ではなくなり、資産を移す「移換」の手続きが必要になります。
資格を失った月の翌月から6か月以内に手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会へ自動移換されます。
自動移換されると、運用が止まり、現金のまま管理され、入り口・毎月・出口で手数料が引かれます。
自動移換の期間は通算加入者等期間に算入されず、受け取りを始められる年齢が後ろにずれることがあります。
退職後は、転職先の企業型DCかiDeCoへ移すのが基本で、気づいた時点で早めに動くのが安全です。
退職前後のお金は、健康保険・年金・税金・退職金が、受け取り方や順番でからみ合います。この企業型DCの移換も、その地図の一部です。受け取り方そのものを整理したい方は、まず一時金で受け取るか・年金で受け取るかの損得から整理するのがおすすめです。
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