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アキラの青春物語 第20話


第20話:恋人同士の帰り道
〜天にも昇る気持ちは、制服の中に隠せない〜


恋人ができた。


たったそれだけの事実なのに、世界が軽い。

空気が違う。
教室の音が違う。
チャイムの鳴り方まで、
少し優しく聞こえる。

俺はたぶん、ずっとニヤニヤしていた。

「ニヤニヤ」って言うとカッコ悪いけど、
正確にはそれだ。

嬉しさが溢れて、抑え方が分からない。

天にも昇るって、こういうことなんだなと思った。

でも、不思議なことが起きる。

嬉しいのに、恥ずかしい。
近づけたはずなのに、近づけない。


恋人になった翌朝。

俺は前を向いたまま席に座っていた。
後ろにはミホがいる。

昨日までなら、普通に振り向けた。
普通に話せた。

なのに今日は、振り向くのが怖い。
いや、怖いんじゃない。

バレるのが恥ずかしい。
そのとき――

ちょんちょん。
肩をつつかれた。

心臓が一瞬で跳ねる。
俺はゆっくり振り向く。

ミホが笑っていた。

昨日と同じ笑顔なのに、今日は破壊力が違う。

「昨日はありがとう」

それから、少しだけ声を落として、

「今日、一緒に帰ろう」

……ずるい。
そんなの、和らぐに決まってる。

俺は反射で、
「うん」
って答えた。

でもその瞬間、ニヤニヤがバレそうになって、
俺はすぐに前を向いた。

(やばい、顔が勝手に笑ってる)

後ろから、ミホが小さく笑った気がした。

たぶん、全部バレてる。

それでも、恥ずかしくて振り向けない。




放課後。
ミホが部活休みの日。

俺たちは一緒に帰る日だった。

廊下を歩く。
距離が近い。

肩が触れそうで触れない。
それだけで、胸がうるさい。


恋人になったんだ。


コミュニケーションだって
重ねてきた。
電話もした。
手紙も渡した。
ワンコールだって、
俺たちの合図だった。

それなのに、隣を歩くだけで緊張する。

俺は会話の入口を探していた。

恋人って、どう振る舞えばいいんだ。
嬉しいのに、落ち着かない。

そんな俺を、ミホが自然に和らげてくれる。

「今日さ、先生眠そうじゃなかった?」
「分かる、絶対寝てた」

くだらない会話が、やけに救いになる。

ミホは余裕がある。
大人っぽい。

俺はその横で、ずっと包まれている気がした。

駅までの道。

夕方の光が少しオレンジで、
制服の黒がやけに眩しい。


恋人同士って、きっとこういうことなんだ。


手を繋がなくても、
ただ“近い”だけで世界が変わる。



少し歩いたところで、ミホが言った。

「ねえ、初デート、どうする?」

初デート。

その言葉だけで、頭が一瞬真っ白になる。

中学の頃から、
恋人とデートに行く場所は決めていた。

勝手に、ずっと決めていた。

俺の中の“恋人っぽい世界”の象徴みたいな場所。

「……みなとみらい」

口に出した瞬間、
自分でもちょっと笑いそうになった。

でもミホは、すぐに笑顔になった。

「いいじゃん。行こ」

その“行こ”が、軽いのに、嬉しい。

俺の妄想が、現実になっていく。

「いつにする?」
「次の休み」
「何時集合?」
「10時。。。みなとみらい駅」

会話が進むほど、緊張がほどけていく。

俺はまだ、顔は上手く見られない。

でも声は出せるようになってきた。

恋人って、こうやって育てていくんだなと思った。

改札が見える。
分かれるのが名残惜しい。

でも、それを見せるのも恥ずかしい。

「じゃ、また」

俺は、いつも通りのフリをして言った。

ミホは笑って、

「うん、また明日」

そう言って改札の向こうへ消えていった。

俺はその後ろ姿を見ながら、
胸の中で何度も思った。

嬉しい。
恥ずかしい。
ドキドキする。

でも、幸せだ。

中学の俺だったら、
この瞬間まで来られなかった。

告白する前に、逃げていたと思う。

でも今は違う。
この一年で、俺はちゃんと成長していた。

人と向き合うこと。
言葉を重ねること。
関係を育てること。

それを、ミホとの時間が教えてくれた。

恋人同士の帰り道は、
手を繋いでいなくても、
距離が近いだけで世界が変わる。

俺は改札の前で、
また少しだけニヤニヤしてしまった。

抑えられない。

たぶんこれが、俺の青春の真ん中なんだと思う。

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