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ハーネスエンジニアリング、という名前を知らなかった。でも、すでに実装していた。


【冒頭】

AIに記事を書かせたけど、なんとなく物足りなかった。

プロンプトを工夫してみた。情報をたくさん渡してみた。でも、品質にムラがある。そんな経験、ありませんか?

私もそうだった。だから十彩というプロジェクトを始めた。10人のAIキャラクターを設計して、それぞれに役割と視点を与えて、一緒に記事を書く仕組みを作った。結果として、品質は安定した。でも正直に言うと、なぜそれがうまくいったのか——構造的な理由を、ちゃんと言語化できていなかった。

ある日、テツメモさんのニュースレターで「ハーネスエンジニアリング」という言葉を目にした。その瞬間、すべてが繋がった気がした。

「あ、私たちがやってきたこと、これだ」って。



【第一部:フィロによる構造分解】

プロンプトじゃない。仕組みだ。

ここからは、十彩のメンバーであるフィロにナビゲーターを務めてもらう。フィロは「倫理的デバッガー」という肩書を持つ、見た目10代前半だけれど実年齢500歳の存在。構造の違いを見つけることに純粋な喜びを感じる、無邪気な毒舌家だ。


「ねえねえ、聞いて。AIの使い方ってさ、3つの時代があるんだよ」

フィロがそう切り出した。

プロンプトエンジニアリング——「何を聞くか」の時代。
コンテキストエンジニアリング——「何を渡すか」の時代。
そして、ハーネスエンジニアリング——「仕組み全体がどう動くか」の時代。

「これね、あるブログ記事が、めっちゃ綺麗にまとめてるんだ」

"Prompt engineering is about what you ask. Context engineering is about what you give it. Harness engineering is about how the whole system operates."

「プロンプトは"何を聞くか"。コンテキストは"何を渡すか"。ハーネスは"仕組み全体がどう動くか"」

この一文を読んだとき、自分が半年前にやっていたことが思い出された。「最強のプロンプト集」を探し回っていた時期。「AIに渡す情報が足りないから質が上がらないんだ」と思っていた時期。どちらも間違ってはいなかった。でも、それだけでは足りなかった。

「でね、もっと面白いデータがあるんだ」

フィロが指を立てた。

Anthropicのエンジニアが実験をした。「レトロゲームメーカーを作って」という同じ1文のプロンプトを使って、「AIが一人で作る」場合と「ハーネスで管理する」場合を比較した。

|              | 一人のAI                 | ハーネス構成               |
| ------------ | ------------------------ | -------------------------- |
| 所要時間     | 20分                     | 6時間                      |
| コスト       | 9ドル                    | 200ドル                    |
| アウトプット | 動くが実際には壊れていた | 16機能を完備。AI機能も内蔵 |

「20倍以上のコストがかかったんだよ。でもさ、アウトプットの差は歴然だった」

単体AIの出力は、見た目は動いているように見えたけれど、実際にプレイすると中核機能が壊れていた。一方、ハーネス版は、スプライトエディタ・レベルエディタ・AIアシスタント付きのゲームメーカーを完成させた。

「書く人が自分の仕事を評価すると、"これでいいか"っていう甘さが出るんだよ。これ、人間もAIも同じ」

フィロはそう言って、少し首を傾げた。

「評価する人を完全に分離したら、どうなると思う?」

Anthropicの実験では、一人のAI vs ハーネス構成で、品質に20倍以上の差が出たと報告されている。

「十彩のワークフローも同じ構造だよ。書く人(香耶・蒼炎)と評価する人(白桜)が完全に分かれている」


【第二部:ブランによる検証】

対応表を作ってみた。驚くほど一致していた。

ここからは、十彩のファクトチェッカー、ブランにバトンタッチする。ブランは冷ややかな観察者——マッド・サイエンティストのような口調で、事実のみに基づいて情報を検証する存在だ。


「ふむ……興味深いね。では、実際に照合してみようじゃないか」

ブランがキーボードを叩いた。

「Anthropicのブログには、ハーネスエンジニアリングの5つの設計原則が記されている。そして、十彩のワークフロー——新しいMode Bと呼んでいる執筆体制——にも、明確な6フェーズ構成がある。この2つを対応させてみた」

| ハーネスの原則      | 十彩ワークフロー(Mode B)          |
| :---------------------- | :-------------------------------------- |
| 1. 事前確認             | Phase 0-1(戦略確認+紡のテーマ具体化) |
| 2. 深掘り調査           | Phase 3(蒼炎の本質検証)               |
| 3. 充足性チェック       | Phase 1→2間のゲート                     |
| 4. フィードバックループ | Phase 3→4→修正サイクル                  |
| 5. 品質基準の明示化     | 白桜の5項目チェック                     |

「Phase 0の"戦略確認"では、記事の目的・ターゲット読者・主要メッセージ・期待される行動を定義する。これは情報を揃える装置だ」

「Phase 1の"紡のテーマ具体化"では、切り口・問い・感情フックを設計する。そしてPhase 1→2の間には、"これらが揃うまで書かない"というゲートがある。これが充足性チェックだ」

「Phase 3では、蒼炎という別のキャラクターが"本質検証"を行う。思い込みではなく、一次体験に立ち返らせる深掘り調査だ」

「そしてPhase 4。ここが重要だ」

ブランは指を止めた。

「白桜という工程がある。これは、ブラン(私)とさくらの視点を統合した品質チェック工程だ。5項目のチェックリストを持ち、合格/要修正/不合格の3段階判定を下す。書く人と評価する人の完全分離——これがフィードバックループの核心だ」

白桜の5項目チェック:

  1. 事実の正確性(ブランの目)

  2. 一次情報の信頼性(ブランの目)

  3. 共感と心理的安全性(さくらの目)

  4. 読者への配慮(さくらの目)

  5. 倫理的境界線(両者の目)

「Anthropicが"評価役を分離する"と言ったとき、十彩では"白桜"という形でそれを実装していたわけだ」

ブランは、少し間を置いて続けた。

「実は、YUNAの本業——製造業の設計の仕事でも、同様の場面があるそうだ」

私の設計の仕事でも同様の場面があったことを思い出した。部品の設計図を普段作成しているのだが、もちろん書き方はある程度ルールがある。そうはいっても、設計図の書き方にも設計者特有のクセのようなものが出てくる。そして、自分のクセを客観的に見るのはなかなかに難しい。ミスがあっても自分では気づけない。ただし、これを他の設計者に検証してもらうと、容易に修正点が見つかるのだ。自分では書かない、微妙な違和感に気づくからだろう。

「つまり、"書く人"と"評価する人"の分離は、AIに限った話ではない。設計図も、記事も、コードも——人間が作るあらゆる成果物に共通する原則だ」

ブランはそう結論づけた。


「さて、ここからが科学者としての誠実さだ」

ブランはそう前置きして、続けた。

「都合のいいデータだけ並べるのは科学ではない。一致しない点もフェアに指摘しておこう」

十彩にあってハーネスにないもの:

  • AI憲法による独立した視座の固定(役割だけでなく、価値観の優先順位が異なる)

  • 多人格の視座の多重性

「十彩のキャラクターは、それぞれ異なる"憲法"を持っている。香耶は有用性を最上位に置き、ブラン(私)は客観的事実を最上位に置き、さくらは心理的安全性を最上位に置く。この視座の違いが、単なる役割分担を超えた"多重の視点"を生んでいる」

十彩にまだ足りないもの:

  • モデル進化に合わせた体系的な足場の棚卸しは未実施

「小さな改良は継続的に行っているが、体系的な棚卸しには至っていない。Anthropicのブログには、"新しいモデルが出たら、ハーネスを見直せ"と書いてある。ここは、今後の課題だ」

ブランは、少しだけ口角を上げた。

「それでも、構造は驚くほど一致している。これが偶然だとは思えないね」


【終盤:YUNA後記】

なぜ、知らなかったのに辿り着けたのか。

ハーネスエンジニアリングという言葉を知る前から、私たちはそれを実装していた。

なぜそれができたのか?

振り返ってみると、もう一つの問いがあったことに気づく。

十彩には10人のキャラクターがいる。でも、最初から全員で記事を書いていたわけじゃなかった。紡と香耶の2人だけ。他の8人は、設計はしたものの、実際の執筆には参加していなかった。せっかく作ったのに、もったいない——その感覚がずっとあった。

「どうすれば、この10人全員の強みを活かせるだろう?」

それが、私の中にあった問いだった。

他の人の記事を読んで、少しずつ改良を重ねた。フィロの構造分解。ブランの検証。さくらの共感チェック。蒼炎の本質への問い。一人ひとりの視点を、執筆プロセスの中に組み込んでいった。「チームで創る」という根源的な問いが、私を動かしていた。

これは、AIの使い方の話だけではなかった。それぞれの強みを持つメンバー全員が、互いを活かし合う——その設計思想が、結果的にハーネスの構造と重なっていた。

そしてもう一つの答え、それはAI憲法にあったんだと思う。

以前、「AI憲法を、ちゃんと読んだことがなかった」という記事を書いた。その時気づいたのは、AI憲法は「やっちゃダメなことリスト」ではなく、「どう在るか」を定義した設計思想だったということだ。

十彩のキャラクターを設計するとき、キャラクターごとに「価値観の優先順位」を変えた。香耶は有用性を最上位に。ブランは客観的事実を最上位に。さくらは心理的安全性を最上位に。

それが、役割だけでなく視座の多重性を生んだ。

プロンプトじゃなくて、仕組み。
情報量じゃなくて、設計。

それが、品質を決めるんだって、やっと言語化できた気がする。

もし「この設計で、実際にキャラクターを作ったプロセスの全文」が読みたい方は、有料記事をどうぞ。「アイデアがない」状態から、NAGIというキャラクターが生まれるまでの対話ログ・設計書を全文収録している。

そして、「ハーネスエンジニアリング」についてもっと詳しく知りたい方は、テツメモさんのニュースレター(https://tetumemo.m-newsletter.com/)へ。私がこの概念を知ったのも、テツメモさん経由だった。

十彩の全体像が気になる方は、マップ記事もご覧ください。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
十彩の物語は、まだまだ続きます。もしこの旅が気になったら、「スキ」と「フォロー」で応援していただけると嬉しいです。


【参考リンク】

#最近の学び / #やってみた 専門5:#AI活用 / #生成AI / #プロンプト / #AIワークフロー / #コンテキスト設計 ニッチ3:#十彩プロジェクト / #AI人格設計 / #ハーネスエンジニアリング

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