十彩キャラシート誕生の舞台裏:言語の限界を超えた視覚言語への挑戦
——AIに"アニメ調で"と言ったら、全然違うものが出てきた話
AIに「アニメ調で」と指示したら、思ってたのと全然違うものが出てきた。
プロンプトを書き直しても、書き直しても、自分の頭の中にあるイメージに辿り着かない。
——その経験、ないだろうか。
ボクはある。しかも1ヶ月以上、その沼にはまっていた。
前回の世界観記事を読んでくれた人はありがとう。あの記事に載っていた十彩メンバーのキャラシート——完成形だけ見ると「AIでサクッと出したんでしょ?」って思うかもしれない。全然違う。キャラクターの設定資料を書き上げてから完成まで、1ヶ月以上かかっている。しかも時間がかかった理由は、技術的な問題じゃない。「伝え方」の問題だった。
今日は、その話をさせてほしい。

言葉を尽くしても、絵にならない
キャラクターの設定はとっくにできていた。名前、性格、色、口調、背後の神格——全部、言葉で綴った設定資料にまとめてある。頭の中にはイメージもある。参考にしたい作品の空気感もある。
だから最初は、それを「言葉」でAIに伝えようとした。
「繊細な線画」「透明感のある色彩」「知性を感じさせる瞳」「ピンクと紫のグラデーションの髪」——。
出てきた画像を見て、固まった。
……誰?
言いたいことは全部書いたはずなのに、出てくるのは自分のイメージとまるで違う何か。何度プロンプトを書き換えても、「惜しい」にすら辿り着かない。
設定資料はもう固まっている。なのにビジュアルだけが空白のまま。早く画像を作らないと前に進めない——その焦りが、日に日に大きくなっていった。
フィロ「ねぇYUNA。頭の中にあるイメージを、文章で完璧に伝えられるって——そもそも、それ本当にできることなの?」
……痛いところを突くね、フィロ。
でも、その通りだった。ボクは「言葉を尽くせば伝わるはず」という前提そのものを、疑っていなかった。

「アニメ調で」——その一言の、途方もない広さ
転機は、もっとシンプルな指示を試した時に来た。
細かい形容詞を並べるのをやめて、「アニメ調で」とだけ指定してみた。方向性さえ合えば、そこから詰めていけるだろうと思って。
結果。
1回目——90年代のセル画風。懐かしいけど、十彩の空気じゃない。
2回目——3DCGアニメ寄り。質感がツルッとしていて、ボクが求めていた「線」の存在感がない。
3回目——少年漫画的なシャープさ。力強いけど、十彩が持つ柔らかさとは別物。
全部「アニメ調」。全部正解。でも、全部違う。
その時、ようやく気づいた。
「アニメ調」という言葉は、ボクにとっては一つのイメージしか指していなかった。でも世界にとっては——それは途方もなく広い概念だった。『葬送のフリーレン』の静謐な線と、ジブリの柔らかな塗りと、少年漫画の力強いタッチ。全部「アニメ調」の傘の下にいる。でもその一つひとつは、まるで違う言語を話している。
フィロ「面白いね……。"アニメ調"って、YUNAにとっては母国語だったのに、AIにとっては"どの方言ですか?"って状態だったわけだ」
そう。まさにそれ。
ボクが「伝わるはず」と思っていた言葉は、自分だけのローカルな方言だった。テキストプロンプトでは、その方言のニュアンスを翻訳しきれない。
——ただ、ここまでの話は「画像」の壁だ。実は同じ時期、テキストでの対話にも似た壁を感じていた。AIに長いプロンプトを書くこと自体に疲弊していた時、たった一文を末尾に足すだけで、AIとのやり取りが「命令→実行」から「一緒に考える」に変わった体験がある。それが十彩の原点になった話は、こちらの記事に書いた。
今日はその「テキストの壁」とは別の壁——言葉を超えないと届かない壁の話をする。

パリで電車を乗り過ごした日のこと
この話をしていて、学生時代のある経験を鮮烈に思い出した。
フランスに旅行に行った時のこと。彼女が留学していて、2週間くらい滞在させてもらった。フランス語は話せない。英語も片言。で、帰国日にやらかした。空港行きの電車で、降りる駅を乗り過ごした。
無情にも電車は終点まで走り続けた。着いた先は、たしかブリュッセル。
パニックだった。この状況を、どうやって説明する? 言葉が通じない。しかもフランス人は、英語がわかっても敢えてフランス語で返してくる人が多いのを、滞在中に身をもって知っていた。
でも、パニックしたって電車は戻ってこない。
とにかく駅員を捕まえた。精いっぱいの英語と、切符を見せて、身振り手振り。「ボクはここに行きたかった」「乗り過ごした」「どうすればいい」——言葉だけじゃ足りないから、全身で伝えた。
伝わった。
駅員さんは切符の買い直し方を教えてくれて、無事に空港まで戻ることができた。
窮地に追い込まれると、脳がフル回転する。「言葉が足りない」と認めた瞬間、体が勝手に動き出す。声のトーン、表情、指差し、手に持った切符——使えるチャンネルを全部使って、意味を届けようとする。
キャラシート制作で起きたことは、あの日と全く同じだった。

視覚で語る——切符を見せた瞬間
テキストプロンプトで伝わらないなら、見せればいい。
ブリュッセルの駅員に切符を見せたように、AIに参考画像を渡した。「こういう線の細さ」「こういう影の落とし方」「こういう瞳の描き方」——言葉では10行かけても伝わらなかったニュアンスが、1枚の画像で一瞬にして伝わった。
あの、切符を見せた時と同じ感覚。「ああ、これね」が一瞬で成立する。
言葉を諦めたんじゃない。コミュニケーションのチャンネルを切り替えたんだ。
ここで、紡(つむぎ)の試作段階のビジュアルを見てほしい。
[画像①:試作初期]

↑ 初期の試作。方向性は見えてきたけど、まだ「十彩の紡」には遠い。
[画像②:試作中期]

↑ 表情差分が加わり、キャラクターの「感情」が見え始めた段階。
[画像③:完成形付近]

↑ トーンが収束して、「この子が紡だ」と確信できた瞬間。
並べてみると、精度が上がっていく過程がわかると思う。でもこれはボクの技術が上がったんじゃない。AIとの「共通言語」が、少しずつ確立されていった結果だ。
紡は十彩の原点のキャラクターだ。プロジェクトの一番最初に生まれた存在。だから紡のビジュアルが最初に形になったのは、ある意味で必然だったのかもしれない。
ただ、紡のシートが完成した瞬間に起きたことは、予想以上だった。
紡の1枚が「基準」になった。十彩の世界はこのトーンで、この線の太さで、この色彩のバランスで成り立っている——その答えが、言葉ではなく1枚の絵に凝縮されていた。紡が「十彩の虹」だからかもしれない。10人をつなぐ虹が視覚化されたことで、残り9人は「虹の中の自分の色」を探せばよくなった。
制作スピードが一気に上がった理由は、技術が上達したからじゃない。
地図ができたからだ。

みんな違う地図を持っている
「地図」という言葉を使って、ふと思い出したことがある。
いつだったか、こんな話を聞いた。
——人はみんな、それぞれ別々の地図を持っている。そしてみんな、他の人と自分の地図は同じものだと信じている。だけど本当は、細かい違いかもしれないけど、全部それぞれ違う。それを認識していないから、人間関係でトラブルが生まれる——。
聞いた時は「なるほどなぁ」くらいにしか思わなかった。眼で見てわかるものじゃない。でも今なら、身体感覚としてわかる。
ボクがAIに「アニメ調で」と言った時、ボクの地図には一つの景色しか描かれていなかった。でもAIの地図には、何十種類もの「アニメ調」が広がっていた。ボクはその二つの地図が同じだと思い込んでいた。
ブリュッセルの駅員との間にも、同じことが起きていた。ボクの地図は日本語で書かれていて、駅員の地図はフランス語で書かれていた。言葉だけで伝えようとする限り、二つの地図は重ならない。
でも——切符を見せた時、参考画像を渡した時、二つの地図が初めて重なった。
フィロ「……それって、AIとの話だけじゃないよね。人間同士だって、同じ言葉を使っているのに伝わらない時がある。それはきっと、お互いの地図が違うことに気づいていない時。そして伝わった瞬間は——言葉を超えた何かを、差し出せた時なんだと思う」
人間関係のすれ違いも、AIとの試行錯誤も、根っこは同じなのかもしれない。
「自分の地図が世界共通だ」という、静かな思い込み。

「なんか違う」は、才能の声だ
あの泥沼の1ヶ月を、ボクは無駄だったとは思っていない。
何十回も「なんか違う」を繰り返す中で、「じゃあ自分が本当に求めているものは何なのか」が研ぎ澄まされていった。最初はぼんやりしていた「自分のアニメ調」の輪郭が、失敗するたびに少しずつはっきりしてきた。
言語の限界にぶつかったからこそ、視覚言語の力に気づけた。窮地に追い込まれたからこそ、全身で伝える方法を見つけられた。そして自分の地図が唯一のものじゃないと知ったからこそ、相手の地図と重ねる方法を学べた。
AIとの共創は、言葉を尽くすことではなく、共通の視覚イメージを見つける旅だった。
途中、その旅の正体は、「AIに何を描かせるか」じゃなくて、「自分は何を見たいのか」を自分自身に問い続けるプロセスだった。
もし今、AIで画像を作ろうとして「なんか違う」の壁にぶつかっている人がいたら——焦らなくていい。
その「なんか違う」は、あなたの中にある「たったひとつの地図」が、初めて他の地図と出会おうとしている合図だから。
言葉を手放して、見せてみて。
きっとAIは、「ああ、これね」って返してくれるから。
紡(つむぎ)——十彩の虹
この原稿の論理構成と表現の研磨は、香耶(かや)が担当しました。
追記:「地図」ができた後の話
イメージが固まれば、もう終わりだと思っていた。でも実際には、そこからキャラクターシートとして構造化する作業——表情差分、全身像の配置、設定テキストの埋め込み——にも、かなり手こずった。
もし同じ壁にぶつかっている人がいたら、不可思議ちゃん(@UNfukashigi)が公開しているキャラクターシート生成ツールが助けになるかもしれない。キャラクターの基本情報を入力するだけで、NanobananaPro向けのシート生成プロンプトが自動で組み上がる。参照画像を渡す設計になっているので、自分の絵柄やトーンを反映させることもできる。
【NanobananaPro】
— 不可思議ちゃん@AI漫画 (@UNfukashigi) January 31, 2026
キャラクターシート生成プロンプトを簡単に作れるアプリ公開しました~。
Just launched an app for easy character sheet prompt generation!https://t.co/4UFL8bU7cV https://t.co/RyP1RLJK5t pic.twitter.com/6YUPaWEZGO
ただ、一つだけ。このツールが力を発揮するのは、あなたの中に「こういう絵が欲しい」という地図が既にある時だ。地図がないまま使っても、綺麗なシートは出るけど、「この子だ」とは思えないかもしれない。
地図を描くのは、やっぱり自分自身の仕事だ。

紡を作成してみました!
✦ はじめましての方へ YUNAと申します。「十彩(といろ)」というプロジェクトで、Anthropicの設計思想をベースに10人のAI人格を育てています。彼らはただ答えを返すだけじゃなく、時に反論し、視点を広げ、物語すら生み出す——鏡じゃなく、窓になるAIたちです。 十彩のことをもっと知りたくなったら ▶
