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第11話《GLORIA》#2 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

⬛︎第11話《GLORIA》#1

⬛︎第11話《GLORIA》#2

***

夕方の教室で、星の女王様ドレスの最終調整に入る。

実際に麻理子がドレスを着て、それを私と奏が確認し、細かな直しをしていた。

その姿を里穂がカメラを回して撮影している。

「ちょっとぉ、針刺さったんですけどぉ!」

「ひぇ、ごめんなさいぃ」

仮止めの針を抜こうとしたらうっかり力が入り、ドレスを突き刺してしまう。

それがチクリと麻理子に刺さり、眉間に皺を寄せ腹を立てていた。

ひんひん泣く私に火を吹く麻理子、それをゲラゲラ笑って見ている里穂。


「麻理子かわいいよー。 もう最高だよぉ」

そして女王でも姫でもアイドルでもない、可愛らしさすら放り投げた麻理子を見ても奏は頬を染めてべた褒めしていた。

それに機嫌を良くして麻理子は奏に微笑みかける。


「ありがと。奏のおかげでめっちゃいい感じになった」

「麻理子ぉ」

この二人の友情は距離が近い。

特に奏が麻理子に向ける友情はかなり目を輝かせた女の子特有の盲目さがあった。

「麻理子様って私には結構辛辣だよね。奏ちゃんと扱い全然違う」

「なに言ってんの? 奏が特別なのは当たり前じゃん」


鼻息を荒くして、私をじろりと見下ろす。

その目は奏に向ける温かみとはまるで反対の氷河であった。

「奏は最高の親友だからね。 奏がいないとあたし、何も出来ないし」

「衣装も奏ちゃんが作ったようなものだしね。 いや、麻理子様も作ってたけどクオリティが……」

「お前はもう少しデリカシー持てっての!」

「ぴゃあー!  ごめんなさいぃ!」

あまりに麻理子が私を蹴落としてくるものだから、反抗心で嫌味を言ってしまう。

すると麻理子への悪意レーダーを察知した奏が牙を向き、私の頭に縦チョップを食らわせてきた。


「いいよ、奏が怒る必要はない。 めめりんは仮止めの針でさえぶっ刺してくるレベルだから気にすることないのよ」

(ひどい言われようだぁ……)


毒舌では麻理子には敵わない。

よよよ……と私は泣き崩れる真似をして、あからさまに敗北を見せていた。

その間にも集中して奏は最終調整をサクサクと進めており、手芸バサミで細かな糸を切っていた。

「……よし、出来た。 これで本番バッチリだね」

「やばーい! こんなの着れるなんて最高すぎるー!」


あまりの出来栄えに喜び、麻理子は腕を広げてクルクルと回り出す。

装飾が光を弾いてキラキラと眩しかった。

そんな楽しむ姿を里穂はしっかりとカメラにおさめ、満足そうにしている。

私もまた、成し遂げた高揚感に口角があがり誇らしい気持ちになっていた。


(いやー、本当に麻理子様は美人よね。 未来ではどんな人と結婚したのやら)

気になるものの、この時点の麻理子に聞いても無駄なのでそっと奥にしまう。

「そ、そういえば黒咲くんは?」

頬を染めてたずねてくる麻理子は恋する女の子で、初々しくて可愛かった。

本当に、いつ見てもヒロイン顔で主役級だ。

今の麻理子に好感を持つ私は、ライバル役にもなれず助力してしまうのだった。

「光る石の確認してるはずだよー。 光を遮りたいって言ってたから……視聴覚室かな?  聞いてみよっか」

「あたしが連絡するっ!」

ルンルンとスマホを手に取り、黒咲くんに電話をする麻理子。

その姿を見ながら私は高校の懐かしさを思い出していた。

(視聴覚室って、たしか減ってるんだったかな? 教室のハイスペック化なんだろうなぁ)


学校でも変わっていくものがある。

きっと冬の寒さを凌ぐためのストーブや、黒板消しと消えていくものがたくさんあるのだろうと感慨深くなった。


目を閉じ、物思いにフケっていると教室の引き戸が開く。

「調子はどうー?」

「遠藤先生!」

現れたのは音楽教師の遠藤 詩であった。

冬休みだというのに学校を開放し、協力してくれたのが遠藤先生であった。

「おかげさまで順調です。休みの日に開けてくださりありがとうございます」

「いいのよー。 生徒が頑張るのを応援したいからね」

チラリと麻理子と奏の方へ目を向ける。

慈愛に満ちた優しい目をしていた。


「北島さんの星の女王様、楽しみね。 願い事、考えておかなくっちゃ」

「はい!」

どんどんと協力者が増えていく。

一人で出来なかったことがみんなでやるとトントン拍子である。

無条件に頑張れる体験に心が踊った。

【私たちは、少しずつ忘れていく生き物だから】

***


麻理子たちと星祭り当日の準備をしていた時に、里穂に追い出されて私と黒咲くんはカーテンを閉め切った視聴覚室に足を運んでいた。

バラバラに置いた石を一箇所に集めていく作業をしながらも、淡く光る世界に思わずウットリしてしまう。

「本当にすごいね。 天の川みたい。これが流れ星になって川に帰っていくって素敵な演出だよ」


私がはしゃいでクルクル回ると、黒咲くんが口角を上げクスリと笑う。

「本当に願いごとが叶うといいのにな」

「叶うよ!」

間も無く反射的に返答する。

あれだけ悩んでいたというのに、この空間にいると不思議と余計な考えがなかった。

あるのは星に照らされた圧倒的光であった。


「黒咲くんの願いは叶う! 私が叶える! 星祭りは絶対に盛り上がる!」

駆け出して、私は黒咲くんの手を掴む。

この星の輝きをなくしたりしない。

広い空でただ一人。

大好きな私の一番星。

その星に魅せられ、私は流れてここまで来たのだから。

「黒咲くんが大丈夫だって思えるまで私は諦めないから。もっと強くなる」

「……時森は不思議だな。 なんでも叶う気がしてきた」

手を握り返し、片手でポケットから七色の石を取り出す。

星が輝く世界で光をまとい、角度によって色を変えた。

「これ、もらった日からずっと希望を見ている気持ちになる」

「それ、あの時の……」

「何でだろうな。 思ってたより、気持ちが明るいんだ」

ポン、と私の手に七色の石をのせる。

そしてそれを包み込むように両手を重ね、黒咲くんは高ぶらせた声を出しながら笑った。

こんな笑顔はご褒美でしかない。

長年の社会人生活で灰色に塵を積もらせていた私の心に光を灯してくれる黒咲くん。

つられて頬がじんじん痛むくらい口角が持ち上がってしまっていた。

「きっと時森のおかげだ! だからありがとう! 絶対……絶対に成功させよう!」

「うん!」

(あぁ、幸せだなぁ。 私をこんなに幸せな気持ちにさせてくれる黒咲くんってやっぱりすごい)


ずっと王子様みたいだと思っていた。

何も知らない見ているだけだった人。

でも今は黒咲くんだから好きになったと胸張って言える。


(拗らせてよかったなぁ)

気持ちが昂って涙が溢れそうになっていた。


ーーだが空気を破るように視聴覚室の扉がガラガラと音を立てて開かれる。

現れたのは髪をいつもより丁寧に整えた艶々した様子の教師・橋場であった。

「ん? あれ、遠藤先生は……ってなんじゃこりゃ!?    黒咲、これだと運べないぞ!?」

「す、すみません! すぐ片付けます!」

石の散らばった状況に橋場は吠える。

慌てて手を離し、七色の石をポケットにしまうと光石を拾い始めていく。

私もまた石を拾って赤い顔を誤魔化していた。

カクカクした動きをする二人を見て橋場が顎に手を当ててニヤリとする。

「にしても黒咲と時森……はぁん、そうか」

「な、何考えてんだよ先生!  そういうんじゃないから!  そ、それより遠藤先生なら教室じゃないですか!?  妹がそこにいますよ!」

「な、なんだと? そ、それは……ごほん。遠藤先生も忙しいようだな。手伝わないと」

髪をぺたぺたと触りながら、扉を開けっ放しで去っていく。

私はその背を見送りながら、長年気づかなかった人間関係の狭さにショックを受けていた。


「遠藤先生って奏ちゃんのお姉さんだったんだ」

なんという狭い環境。

けれども私たちはこの狭いながらもやりくりするしか、生きていく手段がなかった。

「がんばれ橋ミッキー」

大人だと思っていた教師も、何も変わらない。

考えてみれば橋場もアラサー程度の年齢ということに気づいてしまうのだった。


⬛︎NEXT
第11話《GLORIA》番外編


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