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第11.5話《誰がために協奏する》拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

█第11話《GLORIA》番外編

█第11.5話《誰がために協奏する》

【side:奏】

2010年12月30日、木曜日。

星祭りに向けた最後の準備だ。

荷物を搬送し、あとは本番を待つだけの段階となり、高校生組は解散する。

テントの中では黒咲くんだけ備品の最終確認を行っていた。

「あれ、北島帰らないのか?」

帰ったはずの麻理子が戻ってきて、黒咲くんと向き合う。

白い息をはきながら、真っ直ぐに見つめていた。

「……ケジメ、つけたくて」

「ケジメ?」

「あたし、黒咲くんのこと好き」

一呼吸を置くこともなく、ストレートに想いをぶつける。

思わぬ告白に黒咲くんは目を丸くし、戸惑っていた。

「えっ? ……えっと」

それでも反らされない目に本気だと理解し、覚悟を決め向き合う。

余計な荷物は全て手放していた。

「ごめん。俺、北島のことは友達としてでしか見れない」

「……そっか。うん、わかった」

麻理子はわかっていた。

黒咲くんは全く麻理子を恋愛対象として見ていない。

だからこれはただのケジメ。

麻理子が先へ進むための決別であった。

「ありがとう。これでスッキリした。 明日、星の女王になりきれそう」

「北島は大丈夫だよ。北島がいなかったらたくさん進まなかったことあったから」

こんなに順調だったのは麻理子の力が大きい。

人を巻き込む華やかさと力を備えていた。

「ありがとう。 ……星の女王様、楽しみにしてる」

「一生モノのキレイな姿、見せてあげるから。 言っておくけどあたし、めめりんより美人なんだからね!」

「え、ええ?」

動揺する黒咲くんにチクリと嫌味をさす。

麻理子らしいスパっとした切れ味であった。

「めめりんはフラフラしてるからガシッといかないと掴めないよ?」

「……うん」

「……顔色伺うもの同士って大変だね」


小さな呟きは、麻理子だけのもの。

絶対、聞かせたりしない麻理子の吐露だ。

「……ごめん、何て言った?」
 
「ううん、なんでもない。 また明日ね。最高の年越しにしよう」

石を一つ、手に持っていく。

笑って手を振り、黒咲くんに背を向けテントから出ていった。

(ねぇ、それを見ていたアタシはどんな声をかければいいのかな?)

「麻理子……」

「奏!  まだ帰ってなかったの!?」

「麻理子が心配で……」

俯いて麻理子の目を見ようとしないアタシに、麻理子は困ったようにクスリと笑う。

「そっか。黒咲くんとの会話、聞いてた?」

「……ごめん」

「別にいいよ。 奏には報告しようと思ってたし」

風が吹き、アタシたちの間に沈黙が走る。

長い髪を抑えながら麻理子が口角をあげ、もの寂しそうな顔をして微笑みかけてきた。

「……ね、ちょっと付き合ってよ」


今までのあどけなさを捨てた初めて見る表情に頷き、目を逸らす……。

胸がキュッと痛くなって、足元をずっと見下ろしたまま草を踏みつけていく不安定さに脂汗を滲ませた。


「この辺でいいかなー」

月明かりの下、河川敷で足を止める。

遠くに住宅の灯りとさらさらした水音が閑散として少しだけ切なく見えてしまう。

観客のいない二人だけの世界。

せせらぎ音に混じって聞こえてくるのは……緊張と動揺を秘めた呼吸音。

「……麻理子?」

「とりゃーっ!!」

月に投げるように光る石が上へ上へと軌道を走らせる。

やがて重さに耐えられなくなり、あっという間に落ちていき水の中に沈んでいった。

波紋が広がる見えない夜の水に浮かぶは、揺れる鏡写しの月だった。

「あー、スッキリした」

「麻理子、今のは……」

「投げ星。一日早いけど投げちゃった」

くるりと振り返り、歯を見せて笑う。

もう見慣れたポニーテールもシュシュもない。

髪を下ろした大人びた女性がいた。

「めめりんと黒咲くんが結ばれますようにって。 あと、あたしは黒咲くん以上に素敵な人と結婚出来ますようにってね」

「ーー出来るよ!    ……麻理子なら大丈夫」

どうしてあのバカめめりんのようにぶつかれないのだろう。

こういう時、親友として麻理子を全肯定し励ましたいのに心はうらはらだ。

誰にも言えない秘めた心が声にのって震え出す。

それを理解しているのかしていないのか、微笑むだけの姿からは読み取れなかった。

「……奏、ずっと一緒にいてくれてありがとね」

麻理子がアタシの手を取り、星の女王様になりきれないお姫様との中間みたいな微笑み方をする。

あまりにもそれが綺麗で、かわいくて、愛おしさに直視できない。

「アタシは麻理子といたいからいるだけで……」

「それが嬉しいの。 奏が絶対肯定してくれたから励みに出来たし、見栄もはれた」

「……違うよ。そんな、麻理子が思ってるような理由じゃ……」

麻理子は世界一、輝いている。

絶対に負けそうにない華やかさをもちながらも、常に足元を気にして陰る憂いさえ目が離せなくなる。

黒咲くんが好きだと語るのを応援し、笑って話を聞きながらも内側に湧いてくるドロドロからは目を逸らしたくてたまらなかった。


【黒咲くんって全然麻理子の魅力に気づかないじゃん。麻理子の良さがわからない奴の何がいいの?】

【アタシの方がずっとずっと麻理子の良さ知ってるし。麻理子を傷つける奴は滅びてしまえ】


麻理子はみんなのアイドルで友達も多い。

その魅力に惹かれてみんなが寄ってくる。

笑顔で対応する麻理子は素敵だ。

だけどーー。


【なんで他の女の子と仲良くするの? アタシが一番でしょ?  なんでそんな頬を染めて麻理子を一番にしない奴のところに寄ってくの?】


何度、口に出しそうになったか。


【黒咲くんって麻理子のこと、好きじゃないよ】

【よく麻理子に告白してくる男子がいるけど、本音をわかってる?】

【麻理子を抱きたいだけだよ】

【ふざけんなよ。キモチワルイ】

【麻理子を大切にしない奴に渡すものか!】

だから気づかれない程度に誘導する。


『本当に麻理子が好きならそんなことしない。考える必要もないよ。放っておいちゃえ』


ーーあぁ、なんて……。


【独占的で、浅ましいの】



「麻理子は本当にキレイで、かわいくて。 好きで好きでたまらないの」

涙がこぼれ落ちる。

わがままな理由で泣くこの姿は麻理子にどう映る?

見た目は透明でも、実際はドロドロで粘着質な液体が流れているだけ。

時々、この気持ちはなんだろうと考える。


【アタシは、麻理子を恋愛として好きなのだろうか?  それともこれは友情の延長線?】

執着ばかりが増えていき、麻理子の行動さえも支配したくなる。

好きなのはありのままの麻理子のはずなのに、この手は麻理子を押さえつけ抱きしめようと手を伸ばす。


【あなたに否定されたらアタシの世界は崩れるほどに】

「麻理子の負担になってることはわかってる。 アタシがずっと夢見ていられるように……」


涙が止まらない。

こんな自分勝手な理由で泣くのはキモチワルイ。

自分のことなのに自分の気持ちが一番わからない。

麻理子が息一つつくだけで怖くなり、頭の中にたくさんの考えが過ぎっていく。

色つきリップクリームの塗られた小さな唇が開くだけで、何度も恐怖する。


「奏が言うほどキレイじゃないよ。 そんなすごい人間じゃないのになって」


実際に麻理子がアタシを傷つけることはないのに、アタシの中は不安と恐怖に満ちている。

ただ麻理子に着いていくのが精一杯で、まるで忠犬のように思えた。


「でも奏はそれでも好きだって言ってくれるから。何を見せても肯定してくれるから、だんだんと等身大でいいんだって思えた」

手を伸ばし、涙を拭ってくる白くて細い指。

髪をシュシュで飾らなくなった姿は偶像ではない。

生身の麻理子だった。

「奏がいないとかわいくあろうと努力も出来なかったかもしれない。奏はあたしの絶対的な安心だったから」

麻理子が大きく腕を広げる。

華奢でキラキラした宝石のような女の子だったはずなのに。

今はどうしてか、飾るものもないのにこれまで見てきた姿の中で一番キレイだと思った。


「大好きだよ、奏。 ほら、おいで」

手を伸ばさずにはいられない。

小さなその身体に抱きしめられるのは、アタシの特権だから。


「麻理子は麻理子だよ。 アタシの大好きな麻理子だ」

「うん」

手を伸ばして頭を撫でてくる。

いつか、同じように飾りつけていたそれを手放せる日がくるまで……どうか。


「明日、がんばろうね。 奏の誘導がないと台無しなんだからね!」

「……うん!」

麻理子の音に合わせて震えているのに気づかないでほしい。

お互いに飾る必要がなくなるまで。

きっと隣で音を奏で続けるーー。

█NEXT
第12話《My soul,your beats》#1


#創作大賞2026
#恋愛小説部門
#第12話

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