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第5話《BREAKOUT》#1拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

⬛︎第4話《Beginner》#2


⬛︎第5話《BREAKOUT》#1

「いいなー!  アタシも早く変えたーい!」

麻理子の友人、お団子頭にシュシュをつけた遠藤  奏がオーバーリアクション気味に目を輝かせて羨ましがっている。

過疎化に向かうこの田舎ではスマートフォンの普及はかなり遅かった。

ほんの少しの最先端が町では憧れの対象となる。

それはかつて渋谷のコギャルがカリスマだったかのように崇拝されていた。

私が進学で都会に出たときにはもうスマホになってる人が多かった。

つまり田舎は今が変化するときである。

これから急速にガラケーからスマートフォンの所有率があがっていく。

すでに都会は進んでいて、時代は変わりだしているんだ。

ここを逃しては時代の波に乗れぬと、私は気合いを入れて立ち上がると麻理子のもとへ駆け出していた。


「麻理子様にお頼み申すっ!」

「ギャーッ!?  と、時森さん!?」

ほとんど会話もしたことないクラスメイトが突撃してきて、さすがの麻理子も余裕な顔を失い目を見開く。

元々大きな目が更に大きくなり、眼力の強さに滅されそうになるも、なんとか堪えて深々と頭を下げた。

「どうかそのスマホ様麻理子様のお力をお貸しください!」

「はぁ!?」

キャピキャピしてかわいく眩く女子でさえ、なんだコイツはと険しい表情をする。

この程度の嫌悪は慣れたものだ。
社会人たるもの、苦手な相手にも営業スマイルは貼り付けるもの。

なりふり構っていられない私は大の苦手なセールストークなるものをはじめた。

ようするに事情を説明しただけである。

話し終えると麻理子はニヤリと口角を上げ、肉食女子の表情を浮かべた。

「ふーん、黒咲くん困ってるんだ」

たった今、女王様が降臨したと昔の勘が語りかけてきた。

幻覚とはいえ、ポニーテールを結うシュシュがティアラに見えてくるほどにギラギラしていた。

「いいよ?  力貸してあげても」

「ありがとう女王様!」

調子に乗って麻理子に抱きつくと、教室に響くほどの悲鳴が美少女から発せられた。

当時と違い、今の私は高校生相手に怯える必要はないと、わずかな自覚で崩れそうな心に喝を入れる。

無理やり叩いてるうちに慣れてきて、若者怖いといった独自の劣等感は麻痺し、壊れる恐怖を失った鋼が出来上がっていた。

対して麻理子懐かれて邪険にするほどあからさまないじめっ子ではないはず。

むしろ打算的、いわゆるあざとい女子のようで私に抱きつかれて驚きはしても悪い気はしていなさそうだった。

「女王様……」

とはいえ、初耳であろう呼び名に反応は困っているようだ。

麻理子の戸惑いに対し、群がるカースト上位の友人・奏の方が私の暴走にドン引きをしている状態だった。


***


授業を受けたりと、しばらく時は流れ休み時間。

麻理子はスマートフォン片手に強調しながら私の席まで奏をつれてやってくる。

「で? 動画ってどんなもの撮るつもりよ?」

高圧的な態度に私は口を大きく開く。

(しまった!  その辺考えてない)

肝心なところでポンコツを発揮してしまう。

考えなしに猪突猛進な性格はなかなか治らない。

「えーっと……」

ヘラヘラと笑いながらパッと思いつきの発言をする。

思い浮かんだのはショート動画でありそうな小石投げで何回跳ねるかチャレンジであった。

「なんかいい感じの曲にのって小石投げるとか?」

ふたご町の星祭は夜に川に向かって石を投げるのがフィナーレイベントとなる。

どうも星に願いを発端に石を投げているそうだが、それを知っている人は少数だろう。

「意味わかんねぇ」

麻理子はたった一言で伝統行事をバッサリと切りつけた。

この時代にバズるとか、映えとか、そういった言葉はまだないはず。

注目を浴びることを美徳としていない。

つまり星祭の広報も従来のままで、新しいことに挑戦しないのがなんともお堅い考えの田舎らしかった。

柔軟なはずの学生もまだまだ顔出し等は抵抗が強い。

箱庭が世界であり、ネットで繋がる相手も顔見知りで構成されるのが常だった。

「でもさぁ、編集次第ではリズミカルな映像になるんじゃない?」

未来を知らないはずの麻理子が未来の学生発想を口にする。

魅せることを常に考えている現役女子高生の柔軟さは素晴らしいものだ。

カーストトップの言葉は簡単に賛同を得てしまう。

「たしかにー! 麻理子なら映像でも絶対かわいいし、みんな食いつくんじゃない?」

「えー?  そうかなぁ?」

頬を染めて腰をくねくねする麻理子。

それをみて私は音と映像美が融合した幻想世界を想像し、色鮮やかな星の流れがふたご町を染める輝きに胸を高鳴らせた。


「そうよ、それよ! 星の女神ってことでどう!?  いや、星の女王!」

麻理子の手を取り、私はカースト差なんて忘れてはしゃぎ出す。

だが奏が容赦なく私の手をたたき落とした。

まさに麻理子は学園のアイドルであり、限られた人しか近づけない鉄壁に守られた存在であった。

「あんたさぁ、さっきから女王女王って何なわけ!?」

「いや、いいよ。 なんか女王様って悪くない」

目くじらを立てる奏に対し、麻理子は妖艶に微笑みながら口元に指を滑らせる。

「姫より身分高いじゃん?」

(上から目線だぁ)

意外とやべぇ奴だったと思ってしまった。

当たり前の話ではあるが、可愛い子は可愛い自覚がある。

そんなことないよ、なんてものは不和を招かないための謙遜。可愛くなければオシャレなんてものはハードルが高く、凡人は無難な格好をするもの。

そればかりは過去だろうが未来だろうが、不変の真理だった。

「でも石投げる女王ってどうよ? なんかダサくない?」

「うん、意味わかんないわ」

しかしかわいさには厳しいかな、麻理子は私のアイディアを容赦なく斬り捨てる。

麻理子の壁は高かった。
鉄壁を易々と越えられるほど私のポジションはカースト上位の人たちの目に止まらないものだった。

結局、アイディアはここまでしか出ず。

それでも確かな進み具合に高揚し、私はトリプルアクセルさえこなす感動に舞い上がっていた。

***


更に時間は進んで、昼休み。

現状報告というていで黒咲くんのもとへと行く。

間近でみる黒咲くんの漆黒の瞳は深くて吸い込まれそうだ。

まつ毛も長くて、キレイという言葉がピッタリである。

やっぱり好きだなぁと年甲斐もなくキュンに震えていた。

「へぇ、なんかすごいな。 そんなこと思いつかなかった」

「ホームページとかに載せてみようよ。 動画編集見てくれる人いるかも」

ホームページに動画を載せるくらいなら容易だろう。

テキトーな考えで私は口にしていったが、想像よりも黒咲くんの反応は苦々しい。

「あー、うん。 そうしたいよなぁ」

盛り上げたい気持ちはあるのに妙な渋り方だ。

「何か問題でもあるの?」

気になることは空気も読めずズバズバ聞いてしまう悪癖が出てしまい、黒咲くんは色褪せた微笑みを浮かべて生々しい現実を口にした。

「ホームページに新しいページ作ったりすると結構金かかるんだよ。 そんなお金を出すのは……厳しいかな」

「あー、そうだよね」

こればかりは残り少ない時間でどうなる問題でもなく、また高校生の力で解決出来ることでもない。

お金の問題はシビアだ。

学生が何を言っても説得力もない。

ましてや貧困層の多い町で簡単に資金は出ない。

何かしら理由をつけて出来ない理由を作り、腰をあげないのが上にふんぞり返る役職者という生き物なのだから。

町の財政事情には口も出せないので、私は肩を落として俯くしかなかった。

「芽々!  なんか面白そうなことやってんじゃん?」


背後から聞き慣れたアルト声がして振り返ると、期待に目を輝かせたお調子者の親友・里穂がストラップだらけのガラケーを持ち立っていた。

話を聞いていたのか、里穂は鼻を鳴らして誇らしげに口角をあげる。

「ホームページ、いじるくらいなら出来るかも」

「えっ!?  里穂、そんなこと出来るの!?」

「ブログやってるからねー。 実は従姉妹に教えてもらって自分でWebページ作ってるんだぁ」

新情報であった。

そういえばホームページ制作が密かに人気だった時代もあったと思い出す。

知識のない私には技術が進化していて、どれだけの工数があるかは想像出来ないけれど。

在宅ワークとしてWeb制作が稼げると言われているが、メジャーになりすぎて争奪戦である未来。

だがこの時代ではまだ貴重な技術のはずだ。

「サーバー代のお金ないから趣味程度だけど」

「里穂すごい!  ただの噂好きのミーハーじゃなかったのね!?」

「はぁ?  あんたそんなふうに思ってたの!?」

再び飛び出した直球の言葉に里穂はありえないと煙たそうに私を手で払う。

埃扱いだが、里穂が本気で邪険にすることはないと知っている。

未来にも続く友人関係をありがたく思い、調子に乗って里穂に抱きつき擦り寄った。

「うそうそ、里穂は情報収集がうまくて行動も早いからすごいと思ってた!」

「嘘くせーな」

そう言いながらも頭をよしよしと撫でてくる里穂は世話焼きさんで、年齢の割に達観していた。

何歳になってもよしよしされるのは嬉しいものだ。

(私ってこんなに物怖じせずに気持ちを言えたんだ……)

ずいぶんと忘れていた感覚。

いつの間にか口を開くのは良くないことだと考えるようになり、思ったことも全部飲み込んで後から悶々と抱え込む日々を送っていた。

気軽に甘えることの出来る友人はありがたいと、じんわりあたたかさを身に染みて体感した。

私の素を知っても何年も関係の続く友人はとても大事で無くしたくない。

初恋相手も失いたくないと思うのは当然だろう。
そうでなければアラサーになっても忘れられず、恋愛も出来ずに拗らせたりしていない。

命を諦められるほど安っぽい気持ちではなかったと、より一層想いは強くなった。

同時に星祭りまでの時間、順調に協力者が増えていくことに心はワクワクと期待に踊っていた。

⬛︎第5話《BREAKOUT》#2


#創作大賞2026
#恋愛小説部門
#第5話

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