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第10話《もっと強く》#2 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

⬛︎第10話《もっと強く》#1

⬛︎第10話《もっと強く》#2

「じゃーん!  クリスマスケーキだよぉ!」

麻理子がニコニコ顔で華やかにデコレーションされたクリスマスケーキを運んでくる。

麻理子の星の女王様をイメージしたのか、キラキラした宝石箱のようにフルーツが飾られ艶めいていた。

極めつけは細かい銀色のチョコレートの粒で描かれた女王様のテンプレートである。


「すごい! きれーっ!食べるのもったいないくらいだよぉ!」

その褒め言葉に麻理子が気まずそうに目を逸らして苦笑い。

「か、奏が作ってくれた……」

「まりりんじゃないんだ」

「誰がまりりんよ! スカートめくるぞ!」

「あーっ! それはあかーん!」

麻理子が暴れてチェックスカートの端に手をかける。

少し引っ張られれば恥ずかしさの極み。

ミニスカートの罠にかかり、私は心の底から絶叫していた。

(ミニスカートなんて何年ぶりだと思ってるのよー!  股がスースーするわ!)

「時森はオヤジ女子だったんだね……」

これほどのデコレーションケーキを作る匠女子の鏡、奏が笑い方に悩んでいる。

控えめに反応を示すカースト主義な奏も、振り回される麻理子の姿に戸惑っていた。

昔は怖かったカースト上位の女の子たちも、改めてみると素朴なかわいらしさがある。

(東京はもっと怖かばい……)

そんな都会マウントを心で思うあたり、根っこは田舎娘なのだと撃沈した。

「そんなことないよぉ。ちゃんと性別は女ですからー!」

「キモい」

(言われ慣れております)

時が戻ってからというもの、やたらとキモチワルイと奇異な目で見られることが増えた気がした。

八方美人とは変人を隠すための殻である。

殻破りをしたら世間の荒波にさらされ、淘汰されやすくなる弱い生き物なのだ。

私たちはそうやって擬態して生きるしか選べなかった。

本当の私なんてものは必要とされなくて、偽っても不用品扱いで、私はどんな顔をして生きていけばいいのだろう。

30歳というのは自分がわからなくなる転換期なのかもしれないと思った。

***

「うぇーい、飲んでるー?」

オレンジジュースの入ったグラスを手に里穂が顔を赤らめて笑いながら肩を組んでくる。

鼻歌をうたい、上機嫌に身体を揺らしてくる。

ここで里穂に合わせると大人の矜恃が崩れると判断し、揺れに合わせて目を閉じた。

何故か私と里穂はよく酔っぱらいの真似をして、ジュースを一気飲みし感嘆の声をあげていた。

(あー、ビール飲みたい)

その苦味に最初はゲッソリしているのに、いつの間にか求めるようになる中毒性。

スカッとしない日常の中に喉を通る瞬間だけ訪れる開放感。

言語化できない叫びを泡とともに飲み込むのが理想的だが、飲まれてしまってはバツが悪い。

好きなツマミをつついて一人黄昏れる。

中年男性だけが哀愁をただよわせて飲むわけではないと現実を知った。

だがその一人の時間もまた良いと思い、楽しむようになってくるのもまた現実。

会社の人がいるだけでマイナスにも感じるお酒の不思議。

酔いとは結局、自己陶酔の世界と考えているため、境界線の外側にいる人が入り込むと覚めてしまうものだった。

ジュースを飲みながら、脳内でビール片手に好物を食べる至福のひとときを思い出す。

焼き鳥なら砂肝にぼんじり、焼き肉ならタン塩とホルモン、野菜ならきゅうりの浅漬け。

高校生のときはモモ焼き鳥にカルビ、ポテトチップスが選択肢であったはずだ。

「でも甘いものは今も変わらず好き……」

「女子は元気やなぁ」

「えっ!? 山村いたの!?」

ウットリとした呟きに、忍んでいた拓司がひょっこりと現れる。

里穂の隣に腰かけてもぐもぐとフライドポテトを頬張っていた。

全く気配を感じさせずに現れた拓司に里穂が色気のない低い声でゲンナリした様子を見せる。

酔いはどこかに飛んでいったようだ。

「そんな存在否定しんといてよ」

「山村キモい」

「いいやん、俺だってリア充したいんよ! 由利ばっかずるいわ!」

毒舌な里穂の攻撃を受けながらも食べる手を止めないあたりは強靭メンタルである。

やけにリアル充実にこだわっているようだが、こういう場に強行突破できる時点で充分強者だと考える。

彼氏彼女がいないだどうだと騒いだあの頃が懐かしい。

遠い過去のことのはずなのに、その空気に混じり込む自分への違和感を覚えた。

笑って、騒いで、駆け回る。

本来、そこに私はいない。

当時、ドラマティックなことはなかったが、退屈だと思ってた授業や、必死にしがみついた部活動も、今思えば悪くない。

後悔はたくさんあるけれど、過去として見るようになった。

客観視できなくて泣いていたはずなのに。

何歳になってもこの傷は忘れないと叫んでいたはずなのに。


笑っているみんなを見る私は傍観者。

あれだけ嫌って否定した主役たちに混ざるエキストラ。

(黒咲くんのこと以外は、心穏やかに見つめられるんだ)

***


麻理子の家は庭があり、外観も白く華やかである。

木造建築の建物が多い中、コマーシャルでみるような住宅に憧れをもつものも多いだろう。

横に広い敷地で空を見上げれば余すことなく空が視界に飛び込んでくる。

ビルで邪魔されないむき出しの空が、埋まらない私たちの心のようだった。


(ちょっと一息しよ。 若いテンションは長持ちしない)

何歳になってもトランプやUNOは楽しく、人生ゲームやテレビゲームも盛り上がる。

しかし年齢を重ねていく事に集中力や体力が衰えていき、楽しさは凝縮されたものへと気持ちがシフトしていく。

この身体は若いはずなのに、笑い続けることが久しぶりのため筋肉が強ばっていった。

(あれ? 黒咲くん……?)

庭に出るとそこには外履きに履き替えて空を眺める黒咲くんがいた。

家からこぼれる明かりに照らされて、一心に月を見る姿が青白い。

もの哀しく、消えてしまいそうな儚さに思わず手を伸ばしてしまう。

だがその手は伸ばしきれない。

指先が震えていて、何も掴む力がなかった。


(マイナスなことを考えるのはよそう。前進しているのは間違いないのだから)

手をおろし、代わりに風をまとって静かに微笑んだ。


「……風、気持ちいいね」

「時森!?  そうだな。本当に、ヒンヤリして気持ちいいよ」

目を閉じて風を受ける。

冬の冷たさが頬にひりついて、息を吐くと白さが大気に馴染んでいく。

やけに目の熱さを感じるのは、星が見えるほどクリアな寒さのせい。


「楽しくない?」

「……楽しいよ? なんでそう思ったの?」

「大した理由はないよ」

未来を知っているからそう見える。

なんて都合のいい言葉だろう。

本来、未来とはわからないもので、わからないからこそ不安定に揺れるものだ。

黒咲くんは未来を拒絶した。

生きていくだけの力をなくして、自分に別れを告げる。

それは悲しかったのか、それとも安心したのか。

衝動的なものだったのか、計画的なものだったのか。

目の前にいる黒咲くんに聞いてもわからない。

たしかにここにいるのは未来を見つめる黒咲くんだったから。


ーーどうしてそんなことになる前に何も出来なかったの?

誰かを責めるなんて資格を持っていない。

助けなかった傍観者の一人。

上っ面に恋していただけのお子様。


【これは私の罪悪感】



「オレさ、高校卒業したら家継ぐんだ」

⬛︎第10話《もっと強く》#3


#創作大賞2026
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