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第13話《BALLAD》#3 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

█第13話《BALLAD》#2

█第13話《BALLAD》#3

新幹線に乗っていると、今まで目に止まらなかったものが目に入ってくる。

田んぼが広がる世界で一台の車が走る。

山と山に太陽の光が差し込み、空の青さに対してグラデーションが発生した。


『本日はご乗車いただき誠にありがとうございます。ただいま進行方向右側に見えます山の隙間から太陽の光が差し込む絶景がございます。新幹線の旅の思い出にぜひ、窓の外をご覧ください』


(あぁ、キレイだな……)

こんな世界を穏やかな気持ちでゆっくり眺めるのは久しぶりだった。

毎日を急かして生きていたような気がして、景色を見る余裕がなかった。

癒されようと人工的な世界を観に行ったりしたが、意識して観るものとハッと飛び込んで見えたものの違いを認識した。


新幹線を降りてそこからローカルな電車で移動をし、最後にバスに乗る。

移動だけで時間は過ぎていき、それでも日々の疲れがゆっくりと剥がれていくような感覚がした。



『次はふたご町、ふたご町です。 お降りのかたはブザーでお知らせください』

バスのアナウンスを聞き、ブザーを押す。

早くも日が傾き始めていて、空色と黄昏色が混じりはじめている。


『次、止まります。バスが停車してから席をお立ちください』

変わらない景色、変わらない空気のはずなのに、不思議とはじめて見るような感覚。

幻想のなかで高校生になっていたとしても、身体はもう何年もここから離れている。

この年齢で感じる風は思っていたより肌をしっとりさせてきた。


「ふたご町~、ふたご町です」

バスが停り、車掌が知らせてくれると立ち上がり、乗車券と小銭をあわせて払おうとする。


「……時森?」

車掌に急に声をかけられ、顔を上げるとどことなく見覚えのある顔があった。

お祭りで髭を触り、ふたごやきを作っていたおじさんの顔によく似ている……少し若い顔だ。


「……虎箔(こはく)くん?」

「なんだ、久しぶりだなぁ。 帰省か?」

同級生の蒲田  虎箔だ。

星祭りの日にふたごやきの屋台を出していた箔史の息子であり、元チビガキの泣きべそだ。

チビガキどころか、厳つい顔となり面影がない。

子どもと大人はこうも顔が変わるものだなとおかしくなり、クスリと笑ってしまった。


「ん、そんなとこ」

「そっか、ならこっちにいる間に飲みにでも行こうや。百々さんに連絡いれとく」

百々と繋がりがあるのか、と驚きつつもそんなものかと割り切る気持ちがある。


「わかった。それじゃ、仕事頑張ってね」

ヒラヒラと手を振り、降車する。

走り去るバスを見送り、しばらくして私は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。


「意外と話せた……のか?  でも緊張はするよぉ」

頬を叩き、拳を握り締める。

(気を取り直して行こう。 まずは黒咲くんの家を目指そう)

鼻息を荒くして、傾きのスピードを早めていく太陽に向かって歩き出した。

田園風景を見ながら歩くもほとんど人がおらず、いても田んぼで作業する人がチラホラいる程度だ。

大半の人は隣町に行っているのだろうか。

大型ショッピングモールが出来て、そこに働きに出る人が多いと里穂が言っていたはずだ。



ーーキーンコーンカーンコーン……。

(あ、学校のチャイム。正直、昨日まで聞いていた感覚で懐かしさがない)

だが少しずつ、違う。

こんな野ざらしな田んぼや畑が多かっただろうか。

木造の家は人気のないものもある。

錆が縦線をひき、葉っぱが絡みついている。

虫の鳴き声、水の音、風のやわらかさ。

さっきまで感じていたのに、匂いが変わったようだ。

とても澄んだ空気のはずなのに、やたらと寂しさが強い。


こんなに狭かった?

もっとバス停から歩いたとき、遠出をした気分だったはずなのに今はあっという間だ。

景色ってこんなに他人事だったか?

わざとらしく騒ぐ気持ちはある。


(これがエモい?  ……なんという皮肉)

昨日までここにいた私と、十二年離れていた私のごちゃ混ぜな感覚は思っていたほど違和感なく見ることが出来た。

こうなるとわかって景色を見ていたからかもしれない。

ここはもう、私の故郷でありながらも居場所ではないことを痛感した。


「黒咲くんはずっとここを守ってきたんだね。 ここが黒咲くんの世界で、全てだった」

頬に涙が伝う。

それを拭い、唇を固く結んで前を見る。


「まだ、間に合う。だって、まだ事は起こってないはずだから」

足を早めて目的地に向かう。

やがてたどり着いたのは昔ながらの一軒家という雰囲気の大きな家だった。

カーテンが全てしまっている。


「ここが……黒咲くんの家」

(あ、なんだか緊張してきた)


心臓がバクバクと鳴り、ザワザワする胸に手を当てあたりを見渡す。

誰も見ていないというのに、妙に悪いことをしているみたいで肩を狭くした。

(ええい! こんなのは勢いだ頑張れ芽々!)


ーーピンポーン。

人差し指でインターフォンを鳴らす。

だがいつまで経っても反応がかえってこない。


「……いないのかな?」

(怖い。なんで反応ないの?)

汗の滲み出す手を伸ばし、玄関のドアノブに触れる。

思い切って引くと扉が無言で中への入口を開いた。

電気がついていない。

こもった空気。

汗とホコリが入り混じったどことなく酸っぱい匂い。


「黒咲くん、いませんかー? と、時森でーす……」

やはり返事はない。

「……黒咲くん、入るからね! お邪魔しますっ!」

入った部屋は荒れていた。

手入れがされてない。

ずっと放置されたような状態だ。

ゾッとする惨状に冷たい汗が流れる。

不法侵入だなんだの体裁を気にしている場合ではない。

これはもう、生命の危機が漂っている。

黒咲くんが自殺しそうな要因を見逃してはいけない。

私が欲しいのは、俯いていた私に笑いかけてくれた黒咲くん。

泣いている私に手を差し伸べてくれた黒咲くんなんだ。

あの時から私の一番星になり、どんな時も私の中で誰かを好きになる喜びを照らし続けてくれた人だから。


「黒咲くん、黒咲くんっ!!」

家の中に黒咲くんはいない。

なら次へ行こう。

(私はあなたを諦めない)


***


家の外に出ると近所には大きな木造の建物があった。

ずいぶんと年月が経過しているのか、重厚感がある。


「ここは……倉庫?  作業場?  ……黒咲くん?」

引き戸を開き、中を覗くも誰もいない。

木と漆、独特の匂いがする空間。

静寂に満ちたそこは崇高さもありながら、消えない人の想いに満ちた場所でもあった。


(やだ、まさかもう。……ううん、まだ大丈夫。間に合わせてみせる)

不安が心臓を握って苦しい。

歯を食いしばってでも、立ち上がりたいから。

だから私は涙を拭って立ち上がる。


「……あれって」

一瞬、キラリと光ったものに気づき、足を止めてしまう。

引き寄せられるようにゆっくりと近づいていくと、私の瞳に淡く優しい光が映りこんだ。


「……これ、光る石? それにこれ、なんだろ」


星祭りのときに使った光る石が木箱の上にのっていた。

石を手に取り、木箱に心が惹かれた。

それが自然のことだと勝手に手が伸びて、箱の蓋を開ける。

そこには朱色と黒色の二つの漆椀が並べてしまわれていた。


「……すごい」

漆の艶に目を奪われる。

それはキラキラしているわけではなく、触れたくなるような淡い艶めき。

内側に染み渡るような優しさにじわじわと胸が熱くなる。

箱の中に小さなメモ紙が入っており、それを手に取って文字を詠む。

溢れ出す涙に、言の葉が滲んでいった。


(あぁ、私はやっぱり黒咲くんが好き。諦めたくない。会いたいよ、今のあなたに──!)


紙を握り締め、私は外へと飛び出していった。


█NEXT
第14話《MOON》#1


#創作大賞2026
#恋愛小説部門
#第13話

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