第14話《MOON》#1 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
█第13話《BALLAD》#3
█第14話《MOON》#1
どこへ向かえばいいとか、そんなこと全くわからなかった。
泣いて泣いて、ひたすら泣いて歯を食いしばって走る。
私は一番星を探している。
それだけだった。
気づいたら高校の前を走っていて、ほとんど日の落ちた世界に飲み込まれそうになる。
日が落ちるほどに星の色は濃くなるのに、私が一番綺麗だと思う星がない。
「……めめりん?」
だからその声はまるで星の導きかと思うような流れる音のように聞こえた。
前方に現れた存在に足を止め、肩を上下させる。
「ま……りこ様?」
「うわぁ、本当にめめりんなんだ。なんでここにいるの?」
「麻理子様だって」
「「……」」
お互い間抜けな顔で見つめあったあと、私の視線は下降していく。
麻理子の手に繋がれた小さな手を見つけ、その持ち主である目の大きな男の子が不思議そうにこちらを見上げていた。
「お母さん、この人誰?」
「ママの高校の友達。 めめりんだよ」
「その子、麻理子様の?」
「うん、息子の静夜。 ほら、静夜。挨拶して?」
麻理子の手を握りしめながらチラチラと上目遣いに頬を染めている。
「こ、こんにちは、母がいつもお世話になってます」
あまりの愛らしさに胸がドキドキした。
母親似の超絶美少年は将来、爆モテまったなしの王子様の輝きだ。
「こんにちは。 時森 芽々といいます。 麻理子様とは仲良かったんだよー」
「嘘つくな! そこまで親密じゃないわ!」
「えー?」
スパーンの突っ込んでくる切れ味は絶妙だ。
そして相変わらずの美人で、少しだけ儚くも穏やかさが強く出るようになっていた。
「めめりん、どうしたの? 東京行ってそれっきりだったんじゃないの?」
「……黒咲くんを探してて」
「黒咲くん? なんで……って、めめりん!?」
大粒の涙がボタボタと零れていく。
鼻水をスンスン鳴らしながら、短い呼吸を繰り返す姿に麻理子はギョッとして目を見開いた。
スッと目を細め、冷静に状況判断をすると、静夜を抱き上げて私との距離をグッと縮めてきた。
「まぁ、理由は後で聞こうかな。 急いでる?」
「急いでる! 早く黒咲くん見つけないと! 見つけないと私っ──!!」
切羽詰まって私は麻理子の腕を掴み、焼けた喉で叫ぶ。
「お願い、麻理子様! 助けて!!」
「ちょっと、落ち着きなって! どうするか考えるから状況話して!」
それから黒咲くんが行方不明なことを説明した。
詳しくは言えなかったが、命が危ないと。
聞き終えた麻理子はスマホを取り出し、親指で器用にタップして電話をかけだしていた。
「麻理子様?」
「あんたも電話するの! 探す人手は多い方がいいでしょ!?」
ビシッと指をさし、パニックになるばかりの私を落ち着かせてくれる。
女王のように強くたくましい姿に私は勇気をもらい、涙を流しながら笑みを浮かべた。
それから私は里穂に、里穂が他の知人へと繋いでいく。
麻理子は奏と拓司に連絡をしていた。
それから里穂に頼み、静夜を預けることに。
突然の訪問にも関わらず、なんとなく覚悟をしていたようでどーんと受け入れてくれた。
小さな子ども三人がグイグイと静夜を引っ張り、不安にさせる暇もなさそうなことに安堵する。
大人しそうな静夜に対して、ハチャメチャ元気っ子たちに麻理子は目を丸くしていた。
それから町中を歩いて探すも黒咲くんの手がかりは見つからない。
すっかり日が暮れ、太陽が沈んだ頃に一台の車がライトをチカチカさせ、路駐した。
中から黒髪のショートヘアの女性が現れる。
「……奏ちゃん?」
「全く、めめりんは相変わらず急に巻き込んでくるね」
「その、ありがとう。仕事とか大丈夫?」
その問いに奏はニッと口角をあげ、腰に手をあてる。
「アタシ、フリーで働いてるから。にしてもここに来るのは久しぶりだなー」
麻理子に聞くところ、奏は隣町で一人暮らしをしているそうだ。
ハンドメイド作家としてネット通販メインに活動しているらしい。
急なことにも関わらず駆けつけてくれたことに、じわりと涙が滲んだ。
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら私は気合いを入れ直す。
「ありがとう。 私、他の場所も探してみる! 見つけたら連絡お願いね!」
がむしゃらに走り、私は黒咲くんを探す。
車のある奏と麻理子は他の場所を探すことにした。
離れる間際に二人の会話がぼんやりと聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
「あの子、変わってない気がするのはなんでだろう?」
「アタシらとは違う関係を繋いでたんだよ。 ……距離感、ちょうど良かったんじゃない?」
「そっか。……さ、黒咲くん探さないとね。 あたしが先に見つけたらカッコ悪いの、わかってるのかなぁ?」
「そこまで考えてないよ。めめりんはがむしゃらおバカが取り柄なんだから」
「そうだね」
「おーい、メッセージ見たぞぉ!」
スーツを着た拓司とすれ違い、麻理子たちに大きく手を振っているのを尻目に見た。
「遅い! あんた黒咲くんの自称・親友でしょ!?」
ヨタヨタした拓司に麻理子は掴みかかり、思いきり力を込めて肩を叩いているようだった。
「まったく……無言にならないでよ! まずは探さないと! 心当たりは片っ端から行くからね!」
「うぅ。由利、ごめんなぁ」
「いいから動く!」
「あだァ!? ……いた……ぃいい!!?」
(あぁ、心強いな)
一人じゃない。
みんな、離れ離れになってもあの日の輝きを覚えている。
あの日の色鮮やかさが、黒咲くんを助けたいとみんなをつき動かしていた。
***
神社の石段をおりたあと、すっかり暗くなった辺りに気持ちがざわつく。
空を見上げると月が少し欠けて輝いている。
まるで一人では埋めることの出来ない心の穴のようだ。
足を止め、ボーッと目を奪われているとサラサラとしたせせらぎ音が聞こえてくる。
そして風が草木をくすぐる音をたて、冬の寒さに紛れたしっとりとした空気が頬を撫でた。
「光る……石」
ハッとして前を見たとき、河川敷の方向から水の跳ねる音が聞こえてきた。
何も考える余裕はない。
ただ走って走って、気づいたら月明かりが照らす川を見つめていた。
高校生最後の星祭り、私たちは願いを石に込めて川へと投げた。
どれだけ願っても願い事は簡単には叶わない。
打ち砕かれたことの方が多い。
血を吐きそうになり、地面を這うことだってある。
どうしようもなく泣き叫んで周りから変な目で見られることだってある。
それでも本当に諦められないことは、最後の最後に残って顔を出してくるんだ。
「私は黒咲くんに会いたいっ! 私は!! 黒咲くんを抱きしめたいんだ!!!」
ゆらゆらと滲む月に手を伸ばして飛び込む。
ーー欠けていた場所に一番星が光っていた。
そこはまるで宇宙空間。
星々が光る夜空の下で私は水に溺れゆく一番星を捕まえた。
思いきり引き寄せて、水面へと顔を出し息を吐き出した。
「うっーー! ゴホッ……ゴホッ……!」
「黒咲くんっ!!」
「……時森?」
困惑して水に濡れた手で頬に触れてくる。
感触を確かめるように震える指先が輪郭をなぞってきた。
「これは、また夢……?」
星が交わる。
私は過去に想いを馳せて変わることを期待した。
夢だろうが、黒咲くんが自殺する未来を回避したかった。
何をしても変わらなくて……ここで泥に沈むように死に咲こうとする。
(あぁ、もう……なんだっていい)
目の前にいる愛しい人を抱きしめた。
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第14話《MOON》#2
