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第14話《MOON》#2 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

█第14話《MOON》#1


█第14話《MOON》#2

「なんで、なんでだよ……」

「黒咲くんのバカッ!! バカバカバカバカーッ!!」


骨が折れてしまうのではという勢いで抱きつき、声が枯れるほどに叫ぶ。


「死んじゃやだ……絶対やだあ!! 死なせるもんか! そんなの絶対に認めないんだから!!」

「……離してくれ」


ジタバタと暴れる私の肩を押し、悲壮に満ちた目で見返してきた。

黒真珠は、今はもうドロドロに溶けて粘り気さえ帯びている。

長い時間が輝きを奪い、くすませてしまった。

黒咲くんの星は圧倒的に輝いていたけれど、現実に焼かれ続け、気づいたら溶けてしまっていた。

黒咲くんだけの光が飲み込まれていた。

まるで呪いのようにそこで咲くしかなかった黒い百合の花。


「俺にはこれしかない。俺は星の中で──」

「やだって言ってるでしょ! お願いだから私の星を奪わないで!!」

「とき──」

足が取られる苦しさもわかる。

目の前が真っ暗になり、雑音が身を引き裂く痛みもわかる。

全てが身を蝕むどうしようもない連鎖から逃れるのは難しい。

一人で立てないことなんていくらでもある。

誰かがいても立たせ方が違うと余計に重くなる。

全部わかるけど、わかってても手を伸ばさずにはいられないことだってあるんだ。


ーー呪いを解くのはいつだって、誰かを想う愛のキスだと思うから。




水が跳ね、水滴が落ちて波紋が広がる。

ゆるやかな川の流れの中、石が沈んだ場所に足を着いて私は黒咲くんにキスをした。


「……え?」

唇が離れると目を丸くして固まる黒咲くん。

私は黒咲くんの手を掴む。

「絶対死なせない。 黒咲くんは私が守るんだから……」

私の一番星。

その笑顔が消えてしまうくらいなら、私は全てを壊す。

夢も希望も呪いも、全部から引き離してみせる。


「生きて。 黒咲くんの時はまだ、動いてるんだから。……私の一番星は恐怖の大王にだって奪わせない」

黒咲くんの頬に涙が伝い、困惑して視線を彷徨わせては何度も唇を丸めていた。

ずっと泣いていなかったであろう不器用な泣き方は嗚咽が多く、息を吸うのも苦しそうだ。

掴んだ手を握り返されると、私は真っ直ぐに黒咲くんを見つめて、震えてしまう唇の端をクイッと上げた。

これが私の精一杯の、受容であり愛の示し方だった。

「ごめん。ごめんな……」

その呟きは今までで一番、黒咲くんを抱きしめたいと願う儚い星の欠片だった。



それから川から出て、私たちは河川敷に倒れ込んだ。

草むらの上に身体を寝転がせる。

冬の川に入ったことで身体はすっかり冷えていた。

しばらく荒い呼吸を繰り返し、ようやく重たい身体を起こすと気まずそうに目をそらし、小さく腰を曲げる黒咲くんがいた。


「時森、俺……」

「うっ、うぅ……うあああああん!!  あああああああん!!」

それはもう子どものような一心不乱な泣き方だっただろう。

黒咲くんに抱きつき、濡れた後頭部を引き寄せ存在を確かめる。

「生きてる……黒咲くんが生きてる。 よかった、よかったよお!  もう、黒咲くんがいない世界はやだよお!!」

「……ごめん。ごめんな、時森。 俺……俺は……ぁ、あ……ぁあ……!」


それから黒咲くんは泣き続けた。

二人して下手くそに声をあげて泣いた。

さらさらと流れるせせらぎ音と、草が揺れる音、互いの荒い息づかい、水が落ちる音。

雑音のない世界で私たちは不器用に泣いて抱きしめあっていた。

「時森、俺は……」

「何にも気づかなくてごめんね。 私、黒咲くんを助けたくて戻ったのに何も出来てなかった」

そっと頬を伝う水を親指で拭い、私は安堵して力の抜けた笑顔を浮かべていた。

「生きててくれて……ありがとう」

「……会いたかった」


背中に手を回され、耳元で黒咲くんの息づかいが聞こえる。

とても弱々しく、身体も細く、髪も伸ばし放題になってきた。

「ずっと、時森に会いたかった。 俺にとって時森は、光だったから」

「……手紙、読んだよ。 あんなの残して死のうとするなんてずるい」

「あ……」

その言葉に日が沈んでもわかるくらい黒咲くんの頬は真っ赤に染まった。

きっとこれが私と黒咲くんを繋ぐ縁。

星を駆け、お互いが星に思い寄せたからの奇跡であった。

「俺は……ずっと時森のこと」

「私ね、ずっと黒咲くんが好きだったんだよ?」

ずっと言えなかった私の心。

もう躊躇いなんてない。


「ううん、今も好きなの。私、アラサーになってもまだ黒咲くんが好きなんだよ!!」

私はこの想いを誇らしく想っている。

それだけたった一人を愛し抜けたことは、あまりに一途で尊いものだと感じていた。

拗らせていようが、黒咲くんのために出来ることを考え行動出来る私は凄かったんだ。

私の原動力はいつだって黒咲くんだった。


「ずっと、黒咲くんを忘れられなかった。 拗らせて拗らせて……やっとここに来ることが出来た」


指先で黒咲くんの髪を撫でる。

まだしっかりした艶やかさがある。

身体も少し痩せてはいるが、美味しいものを食べて森林でも歩けば大丈夫。

なんだったら一緒に山へ昇って星を見ればいい。

そのまま朝日を見たっていいんだ。


「まだ世界は終わってないよ? だから……私と未来を歩んでくれませんか?」

黒真珠に光が戻り出す。

艷めく光が涙に揺れ、私の目を真っ直ぐに見つめてくれた。

くすぐったくなり、私は黒咲くんを抱きしめなおし、耳元でささやく。

「あの漆器を持って、私のところに来てくれないかなぁ?  って、私は支えられるだけの経済力とか何にもないけど気持ちだけは──」

「時森が好きだ。 ずっと、ずっと好きだった」


ーーこの瞬間だけは、時が止まったかのような気がした。

内側にゆっくりと染み渡る愛の言葉を認識するのに時間がかかってしまう。

顔を紅潮させ黒咲くんを見ると、目元をくしゃくしゃにして、懇願するように頭を垂れていた。

「そばに……そばにいてほしい。もう、一人はいやだ……」

「ーーはい」


私は黒咲くんの頬と耳を両手で包み込む。

そして額を重ね合わせ、自然と満たされた笑顔で向き合っていた。

「私の一番星!  大好きな黒咲くん、やっと捕まえた!」

「ーーありがとう」


そして私たちは限界に達し、その場に倒れ込んだ。


***


「ねぇ、あれって……」

「めめりん!!」

「由利っ!!」


捜索を続けていた麻理子たちが二人を発見し、車から降りて河川敷へと走ってくる。

「びしょ濡れ……まさかこんな時期に川に入ったの!?」

「救急車呼ばなきゃ。 山村、体温確保して!!」

「由利、由利ぃ……」

この状態に対するそれぞれの反応に麻理子は青ざめる。

「……この町から離れていた間に何があったっていうのよ。なんで……黒咲くん、めめりん……」

涙をこぼしても、二人の目は覚めない。

やがてサイレン音が近づいてきて、二人は担架に乗せられ隣町の病院まで運ばれていくのであった。

【2022年12月12日(月)】

二日後にふたご座流星群を予定。

黒咲くんの自殺は回避された。

だが時間はまた続く。
何も終わっていなかった。

ボロボロになった私たちの人生は、これから新しく始まっていくのだからーー。


█NEXT

第14.5話《黒く咲いた百合の花》#1


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