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第6話《ポニーテールとシュシュ》#1拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

⬛︎第5話《BREAKOUT》#2

⬛︎第6話《ポニーテールとシュシュ》#1

2010年12月16日、木曜日。

クリスマスイブまで残り8日。
ーー年末まで15日。


「じゃーん! この写真見てみてー!」

上機嫌に長いポニーテールを揺らしながら、スマートフォン内にある写真を得意げに見せてくる麻理子。

パール系の水色お姫様ドレスを着た麻理子の写真だが、着る人が違うだけでこうもオーラが出るのかと唾を飲み込んでしまう。

これを自分が着たらちんちくりんのモッサリした田舎娘の努力にしかならない。まさにお遊戯会だ。

「わーっ!  すごいキレイ! どうしたのこれ?」

「へへん! 実はハロウィンイベントのために東京行ったときに、某ランドで着たんだ」

(リア充活動やん!)

ハロウィンの時期に行われる大人の仮装して来場出来る某娯楽施設。

そもそも都会と田舎は別世界のようなもので、この田んぼに囲まれた世界で生きる私たちにとって夢の国どころか、あの世レベルで桁違いなものだった。

そんな場所に仮装していけるのはリアルが充実して、コンプレックスさえ加工して夢にひたれるキャピキャピな人だけ。

キャピキャピどころか、アラサー以前に枯れた人生を送ってきた私には瞬殺の宝刀だ。

さすがは麻理子様。

侮るなかれ、カースト上位の女王様。

墓に入るしかない愚民には眩しすぎるワンカットだった。

「これさー、飾りつけ変えれば星の女王っぽくなるかなーって!」

「なるなる!  めっちゃなる! 麻理子様ならすっごく映えるよ!」

「え……ハエにはなりたくない」

流行していない言葉は通じなかった。

この時代、まだ〇〇映えという言葉は浸透していない。イ〇スタ映えや映えスイーツといった言葉はもう少し先のこと……。

いくら私が背伸びをしてキャピキャピになろうとしても、根が枯れ女子なので自分で自分を踏み潰す結果に終わった。

それこそ秋が終わり、もう雪に埋もれて大地へとかえる葉のように召されていく。

いくら若返ったとはいえ、アラサーが女子高生のフリをするには活力が足りていなかったようだ。

「とりあえず衣装作成してるとこの動画撮ってみるわ。あと何撮ったらいい?」

「うーん、当日撮るのはもちろんだけど。 やっぱりPR動画はほしいとこだよねー」

過去の動画は期待出来ない。

準備だけの動画だと何を紹介しているかもすぐには伝わらないだろう。

一秒が決め手となる世界に突入する今だからこそ、しっかりと練りたかった。

「過去の写真をスライドショーにするくらいしかないかな」

「やーん、そんなの黒咲くんに頼むしかないじゃーん!  あたし頼んでくるー!」

羽ばたく鳥のように、麻理子はハートを撒き散らす天使と化して走っていった。

(恋するJKは強い!)

同じ相手に恋してるというのにどうしてこうも差があるのやら。行動力が桁違いだ。

顔面格差、スクールポジション、前向き思考。

考えれば考えるほど自分がいかに冴えない女子高生だったかを思い知らされ、ため息をつくことでしか慰めが出来なかった。

「麻理子様って、どう見てもヒロイン顔だよね。 私は逆転ポジションの地味子にしてはイマイチだし」

クラス一可愛い女の子にもなれず、シンデレラになれるほどの地味子でもない。

平凡と呼ぶにはなんとも言えない性格。

物語があるとしたら主人公の友達Bや、ちょっと変だけどいい子なクラスメイトくらいの紹介文で終わるだろう。

……考えただけで惨めで虚しい。
それでも今は、黒咲くんの笑顔だけを考えて突き進むだけだと両頬を叩いて気合いを入れ直した。

***

放課後、私は黒咲くんと美術室に訪れる。

絵の具と紙、粘土などの混じりあった独特の匂いがして、ようやく学校特有の香りを思い出す。

窓際に描きかけの油絵キャンバス。

その横で延長ケーブルを繋いで無理くり設置したパソコンがあり、モニターに向かって眉根を寄せてイラストレーターをいじくるのっぺり眼鏡男子がいた。

黒咲くんが声をかけると、眼鏡男子は本体をクイッと持ち上げて鋭い目を光らせる。

「ポスターとチラシを描いてほしいって?」

「あぁ、倉田は絵が上手いから頼めたらと思って」

黒咲くんが声をかけるのは「変人でくせ強いけれども悪くもない奴」な倉田  大輔くん。

黒髪で、目元にクマがあって、眉の太い……くたびれたパンダ顔の男の子だ。

その黒ずんだ顔を隠すのは黒縁メガネ。
本体と呼ぶべき代物だ。

無駄に相手の特徴を観察するようになったが、仮に私が私をどのように紹介するとしたらどうなるだろう。

赤茶色の髪した平凡な女の子のひと言で済ませるのが清々しいかもしれない。

それだけ主人公になるにはパッとせず、加えて中身はリアルに女子高生の面を被ったアラサーのため、恋の成就はおこがましいと考えていた。

未来で黒咲くんが生きていてくれればいい。
そうやって大人の顔をして、ここにいるのは年下の男の子なんだと自制した。

「星祭り。今年は頑張ってみたいんだ。倉田に力を貸してもらえたらすごく助かる」

黒咲くんはくせ強男子、倉田くんにチラシとポスターのリニューアル作成を依頼した。

なんと腰が低く、かつ爽やかな頼み方だろう。

男女問わず人気者なのは誰に対しても丁寧で平等な接し方をするからだと、初恋を拗らせたアラサーなりに誇らしくなって心の中でのみニチャニチャした。

だが黒咲くんの頼みにもかかわらず、倉田はブスっとした表情で悪態をついてくる。

「絵が描けるからといってデザインも出来ると思わないでくれないか? 絵とデザインは似て非なるものなんだ」

「そ、そっか……。ごめん、気を悪くしたなら」

(あー、昔のオタクって感じだ。 未来はもっと人権あるよねぇ)

せっかく黒咲くんが頼んでるのに陰険なヤツめ。

恋する乙女の贔屓なめんなよ?

オタクは未来でこそ地位を確立しつつあるが、元々は差別用語として生まれた単語だ。

未来でファッションオタクは増産される。

けれども古から存在するオタクとは、倉田のように偏屈でどこか一般人とはかけ離れた思考と態度をする人だった。

「ふっ、だが僕は出来る。 何故なら美大のグラフィックデザインコースを目指しているからだ」

左腕をかざす倉田。
オドオドタイプではなく、ぶっ飛んでいて気味悪がられるタイプの方だ。

いつまで厨二病を拗らせているのか。
これでは「拗らせたSCHOOL  BOY」になる。

……そんなどうしようもないアホな考えにそっと蓋をした。

「おお、すごいな! オレにはそういうの出来ないから尊敬するよ!」

「ふっ、IllustratorとPhotoshopは神器。 まかせてくれたまえ」

(発音がネイティブだな)

倉田の神器にNative boy(仮)も追加しよう。

少しの会話だけでこうもツッコミどころが満載だとある意味で飽きがこない。

ここまでクセの強い人は大人社会であまり見かけない。淘汰されやすいからだ。

「で、納期は?」

倉田の問いに、ここはアラサー社会人の出番だと私は黒咲くんの前に出る。

「何日で出来る?」

「無難なものは難しくない。 でも僕は僕のデザインしかやりたくない」

「おー、すごーい。 で、何日?  出来れば来週の頭には公開したいなーって」

納期は聞きたくないワードである。

どれだけ余裕をもって取り組んでもトラブル多発に、ダメ出し連発で追い詰められていく負のスパイラル。

気づいたときにはなんで頑張って早めに取り組んだのにこうなったと落ち込むほかない。

もっと助けてほしかった。

アラサーになっても言えなかった社会に放り出された子どもな大人の本音だった。

「善処する。 ただ選別してる余裕はないから、決定はそっちでやってくれ」

「そんなに作れるの?」

「一つで納得してもらえるほどデザイン業界は甘くない。作って作って、納得してもらうしかないからな」

(あー、これは淘汰されないタイプの方だ)

たまにこういう人がいた。

歯を食いしばりながらも、やること全てに情熱を捧げる現実主義な怪物が。

私を叩いた大人たちでさえ、潰すことの出来ない現実主義な怪物が目をギラつかせていた。

「夢を見てる余裕はないんだ。 数打ちゃ当たる論法。嫌なら他当たれ」

アーティストではないリアリスト。
なのに食らいつく姿勢はアーティストになれない自分を卑下しながらも、生き残る意地が丸見えだ。

こういうリアルな怪物に憧れておきながら、休みたいしめんどくさいが上回る私は大人にも子どもにもなれなかった。

頑張りきれなかった私は所詮、小物。

何にもなれなかった虚しさを抱いて、リアル怪物に嫉妬しながら惰性に生きる日々。

見上げる小物が、小物同士で潰し合う。

大人って、社会って、子どもより子どもだ。
素直さをなくして、陰湿に揚げ足取りをする。

安全地帯から見下ろして、大地が狭くなれば崖っぷちにいる人から突き落としていく。

それが社会の生き残りというもの。

だからこそ敗北者になった私は怪物を前にして平伏するしかなく、滅されて青く彩れない枯葉となる未来のみの末路となっていた。

「ううん、お願いします。 色んなの見れるのは嬉しい。意外と現実的なプロ志向なんだね」

声が震える。
高校生相手に何を怯えているんだろう。

いや、若い高校生だからこそ怖い。

私は昔から若者が怖かった。

若者だった私も、アラサーになった私も、ずっと若者が恐ろしくて、それはこの先も変わらない根深いものだった。

「変な奴」

(君に言われたくないなぁ。そして未来でそれは恋するフラグ扱いされるから気をつけろよ)

まさに「フッ、おもしれー女」に値するのだから。
そう、私は今だからこそおもしれー女になるしかない。

それくらいのド根性を見せなくては救える命も救えないと、未来で知ってしまったんだから。

「……よかった」

今、ここにいる黒咲くんが安堵の表情を浮かべている。
だけど元の時間軸でその微笑みがあったのか、私は知らない。

同様に、この表情を未来の黒咲くんが浮かべていたのかも……知らないままだった。

⬛︎第6話《ポニーテールとシュシュ》#2

#創作大賞2026
#恋愛小説部門
#第6話

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