第9話《To be free》#2 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
⬛︎第9話《To be free》#1
⬛︎第9話《To be free》#2
「あんたの人生、守りたい人を守れて支えられたら最高だね。知れば正しい守り方がわかるから」
「うん」
鼻をグズグズと鳴らしながら涙を拭っていると、百々が私の前髪をぐしゃぐしゃにする勢いで乱雑に頭を撫でてきた。
「暗黙とか、体裁とか、無知をつくるための毒でしかないんだから。 今、やりたいことをやんな」
それだけ言いきって頭から手を離すとパソコンを持って部屋を出ようとする。
だが足を止め、くるりと思わしげにニヤニヤと笑い出すので、私は鼻をズビズビさせたまま首を傾げて百々を見た。
「勉強はしなよ? 大学行けないからね?」
「うん、ありがとうおねーちゃん」
「で、あの動画さ。 すごい良かったしバンバン回そうよ」
目を丸くしていると、百々はさらに妖しく目を三日月型にして愉悦に浸る。
あまりの不気味さに背筋がゾッとしたのは口が裂けても言えなかった。
「大学ではあたしが周知させておくから、アンタも頑張りな」
「おねーちゃん……」
こんなにもヒアルロン酸注入の姉は優しかったのか、と心に染み渡るあたたかさに鼻をチーンと鳴らす。
妖しいなんて思ってごめんなさいと心の中で謝罪したが、そこはやっぱり百々のままで、期待を裏切らない嫌味でムカつく姉だった。
「下心……。ふっ、丸出しで頑張りな」
「も、もう! おねーちゃんのバカッ!」
大声で笑い部屋を出ていく百々の背中を叩き、力任せに扉を閉める。
ふと鏡に写った自分を見れば熟した林檎ほっぺになっており、下心が炸裂する顔を叩いて誤魔化しに走った。
ムカつくはずなのに、こんなくだらない日常がいとおしくて、涙の止め方がわからない。
止めたくもなかった。
(やっぱり諦めたくない。 ならあとは私が勝手にやろう)
復興会が絡まない学生の勝手な行動ということでやればいい。
悪く言われてもここの復興会にそこまでの対応能力はないことを逆手に取ろう。
悪知恵が働くのも、殻を破る気分で嫌じゃない。
失敗したら勝手なことをしたからだって言われ、成功したら来年に繋がるかもしれないだけの話。
世間で叩かれるようなことでもない。
映えるという行為は本来、何かを盛り上げたいという気持ちからはじまったことだと思うから。
目立てばいいのではない。
誰かのための優しい行為が拡散されたらいい。
大切な人を思っての行動が認められたとき、きっと私たちの心は満たされるから。
(そうやって盛り上がればきっと人も増えてくよ!)
絶望だらけの私の未来が希望に変わる。
まるでキラキラ輝く星空のように、私は高校生として未来を見つめていた。
すっかり見慣れたケータイ電話が鳴る。
麻理子からのメールだった。
上々な反応ににやけ顔が抑えられない。
(あとは里穂にも相談しよっと)
いま、私は私を解放して生きたい。
そう思えた日になった。
黒咲くんのことも、私は諦めない。
***
2010年12月20日、月曜日。
私たちは自分たちの出来る範囲で動画とポスターの拡散をはじめていた。
教室で上々な気分で足をブラつかせていた私のもとに黒咲くんがやってくる。
もう黒咲くんを釣るためならば手段は選ばないと決意した私は、百々のように口角をあげて不敵に笑い返した。
「時森、これって……」
「いい感じでしょ? みんなが拡散協力してくれた」
その発言を聞いていたクラスの人たちが同じようにニタァとしたり顔でピースサイン。
私では巻き込む力もないので、麻理子に頼んで拡散力の強化に務めた。
さすがは最強のキャピキャピカーストトップの麻理子であり、女王様は伊達ではなかった。
「あくまで学生がお祭り広めたいの趣旨でやってるから運営はノータッチってことで」
「でも星を投げるって」
「黒咲くんが実現してくれるでしょう? 間に合えば嘘にならないから!」
漆黒の瞳に星が宿る。
これは私がはじめたことではない。
黒咲くんがいて、みんなが黒咲くんの人柄を知って成り立ったこと。
誰かが支えようと動けば変わることもあるんだ。
流れ星を作りたい想いは実現すると、私は信じている。
そこには理屈なんてものは必要ない。
論破は想いで強行突破だ。
「私も一緒に考えるから。 もう黒咲くんを一人で頑張らせない」
立ち上がって、私は堂々と手を差し出す。
「一緒にがんばろうよ!」
「周りがなんていうか……」
「関係ない。だって個人的な宣伝だもん。 動画だって、お祭りとは別に勝手に現れますの宣言なだけ」
返されるものがないのなら私から掴む。
怯える黒咲くんの手は、私が流れ星になってその手に収まってみせるから。
その絶望は、きっと希望に変えてみせる。
「ポスターも光る星を投げることと、星の女王が現れることメインで作ってるから! 場所がたまたまお祭り会場なだけ!」
「むちゃくちゃだな」
「むちゃくちゃでもなんでも、負けられない時はある! 目標と夢のある学生を叩くことは誰にも出来ない!」
汗ばむ手は熱いのか、それとも冷えているのか。
感覚のわからない手を掴みながらも私は妙な自信をもっていた。
「むちゃくちゃでも論破せよ! 感想でも、理論でも、夢に叶うものはない!」
「うん、そうだな。 一人で頑張るのは……キツイから」
綻んでいく笑顔が愛おしい。
私は星のように一生懸命輝く黒咲くんが大好きだった。
想い続けて、拗らせて、どこまでも美化してしまうほどに恋焦がれた人。
幻想の黒咲くんと、現実の黒咲くんが混じりあう。
ここで笑っている黒咲くんが、あるべき未来だ。
「時森がむちゃくちゃな奴で良かったよ」
「えー、それ褒めてる?」
「かなり。 俺さ、今すごくワクワクしてるから」
握り返された手を離したくない。
いつか離れてしまうものとわかっていても、ここで生きている黒咲くんを忘れたくなかった。
「放課後、時間いいかな? 光る星の件、進展があるからさ!」
「うんっ!」
あなたは私にとって輝く星で、世界で一番想いを拗らせた初恋の男の子だーー。
⬛︎NEXT 第9.5話「誰が為に偶像となる」
