「ニワトリ、さばいてみるか?」と言われた林間学校の下見の日~食材オリエンテーリングで学んだ「いただきます」の意味~|学級経営#19
多くの学校は、夏休みに入った頃でしょうか。
夏になると、毎年のように思い出す林間学校があります。38年間の教員生活の中で、さまざまな場所へ子どもたちと出かけました。
今回は、そのたくさんの思い出の中から、今でも忘れることができない林間学校の出来事を紹介します。
そのきっかけは、下見の日に農家の方から言われた、この一言でした。
「ニワトリ、さばいてみるか?」
「えっ?」
思わず耳を疑いました。
1.村だからこそできる体験を子どもたちに
この出来事は、私が勤めていた学校のある自治体が、ある村と姉妹都市提携を結んだ最初の年のことです。
この村での林間学校は学校にとっても、そして村にとっても初めてのことでした。
せっかく新しい場所へ行くのですから、どこでもできる体験ではなく、この村だからこそできることを子どもたちに経験させたい…案内してくださった観光課の方と、そんな話をしながら、村を回りました。
途中、畑で作業をしている、一人の農家のおじさんに出会ったとき、私は何気なく、
「へー、玉ねぎやアスパラって、こんな風に畑に植わってるんですね。これ、都会の子どもたちに見せたら喜ぶだろうな~。」
と話しかけたのです。
すると、その方は少し笑いながら、
「ふ~ん。私らには見慣れたものだけど、そういうものなんだね。良ければ、見るだけじゃなく、何なら生徒たちに収穫させてみたらどうだい?」
と答えてくれたのです。
この瞬間、学校と村が一体となって作り上げる、一大プロジェクトが始まりました。
2.畑から食材を集める「食材オリエンテーリング」
それは、村を回って、自分たちで畑からBBQの食材を集めて来る、題して「食材オリエンテーリング」です。
まず、観光課の方が何軒もの農家に声をかけ、どの畑でどんな野菜が収穫できるのかを調べてくださいました。
次に、協力して下さる農家の畑の場所と、育てている作物を示した地図まで作ってくださったのです。
今振り返ると、学校だけでは到底実現できなかった企画です。
子どもたちのため、村の多くの方々が、本当に親身になって協力してくださいました。
そして、そんな打ち合わせの中で、ある農家の方が笑いながら言った一言が…
「せっかくだから、ニワトリをさばく体験もやってみるか。」
だったのです。
一瞬、頭の中に林間学校当日の光景が浮かびました。
生徒たちがニワトリを前にして、どんな表情をするだろう。
確かに、命をいただくという学びとしては、これ以上ない経験かもしれない。でも、初めての林間学校で、中学生全員が向き合うには大きすぎるテーマでもありました。
ですから、ありがたい申し出でしたが、その案は丁重にお断りしました。今でも思い出すたびに、思わず苦笑いしてしまう思い出です。
3.「玉ねぎって、こんなふうになってるんだ!」
そして、いよいよ迎えた林間学校の2日目。
生徒たちに渡したのは、買い物かごと畑の地図でした。これからBBQをすることは知っています。
でも、その食材を自分たちで集めるとは思ってもいなかったようで、
「えー!」
「めんどくさい」
「なに言ってんだよ。面白そうじゃん。」
わいわいがやがやと話しながら、班ごとに地図を広げ、畑を探して歩き始めました。

「あった!」
「こっちにもある!」
あちこちから楽しそうな声が聞こえてきます。ところが、収穫は思ったほど簡単ではありません。
野菜は土の中にしっかり根を張っています。
スーパーに並んでいる野菜しか知らない子どもたちにとって、それは新鮮な驚きでした。
「抜けない!」
「手伝って!」
一人ではびくともしない野菜も、二人、三人と力を合わせると、ようやく土の中から姿を現します。
(絵本『大きなかぶ』のように力を合わせる班もあって、ほほえましい光景でした。)
中でも、特に歓声が上がったのは、玉ねぎでした。スーパーで売られている玉ねぎは何度も見ています。
でも、根が付いたまま土の中から抜けてくる玉ねぎを見たことがある生徒は、ほとんどいなかったのです。
「玉ねぎって、こんなふうになってるんだ!」

私たち大人には当たり前の光景でも、子どもたちにとっては大発見だったのです。
農家の方の笑顔とともに、子どもたちの驚きの声が、畑いっぱいに響きました。
軍手は泥だらけになり、買い物かごには少しずつ食材が増えていきます。
オリエンテーリングのゴールには、地元産のおいしい肉が用意されていました。(もちろん、自分たちでさばいたのではなく、地元の精肉店から仕入れたものです。)
4.いつもより少し重みのある「いただきます」
いよいよBBQ。もちろん肉は大人気でした。
でも、生徒たちが何度も話題にしていたのは、自分たちで収穫した野菜のことでした。

「あれ、私が取ったやつだよ。」
「このトマト、甘い!」
「玉ねぎのこんな端っこまで食べるの、初めてだ(笑)」
そんな声が、あちらこちらから聞こえてきました。
今振り返ると、生徒たちが一番楽しんでいたのは、BBQそのものではなかったように思います。
地図を見ながら畑を探したこと。
野菜がなかなか抜けなかったこと。
玉ねぎを引き抜いて歓声を上げたこと。
泥だらけになって笑い合ったこと。
そうした時間があったからこそ、その後の食事が特別なものになったのでしょう。
村の観光課の皆さん。
協力してくださった農家の皆さん。
そして、初めて訪れる学校を温かく迎えてくださった地域の皆さん。
多くの方の力があって実現した林間学校でした。
しおりには、ただ「BBQ」と書かれていたかもしれません。
けれど、あの日の子どもたちにとっては、ただのBBQではありませんでした。
自分たちで探し、収穫し、運び、そして食べた昼食。
その一つひとつの体験があったからこそ、食事は特別な時間になったのだと思います。
あの日の「いただきます」は、いつもより少しだけ重みがあったように思います。
皆さんにも、今でも忘れられない学校行事の思い出はありますか。
(編集後記)
※この記事は、現在「学級経営シリーズ(学活実践編)」として整理しています。学級づくり全体の考え方や、他の実践はマガジンからご覧ください。
※また、38年間の授業実践をもとにした 「三四郎の社会科教室」 を開講します。ご興味のある方は、入学案内をご覧ください。
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