100円の豆腐が、安すぎると気づいた日。中学校の『遠回りな授業』で伝えたかったこと|食×授業#7
「先生、これって本当に豆腐になるんですか?」
選択教科の授業で、水に浸した大豆を机に置いたとき、生徒は半信半疑の表情を浮かべていました。
スーパーで当たり前に並んでいる、白くて四角い豆腐。
その姿と、目の前の大豆は、どうしても結びつかなかったようです。
この授業で扱ったのは、「豆腐づくり」。
でも本当のねらいは、豆腐を作ることそのものではありません。
作った“あと”に、何を感じ、何を考えるかでした。
選択教科だからできた、遠回りの授業
当時の中学校には、「選択教科」という時間がありました。
決められた内容を一斉に進めるのではなく、生徒が学びたい教科を選び、時間をかけて取り組める授業です。
もちろん、すぐに入試で使う学力がつくわけではありません。
でもその分、好奇心を高めたり、思考を深めたりできる時間でした。
大豆から豆腐を作る――
今思えば、まさに選択教科向きの題材だったと思います。
1.大豆が、豆乳とおからに分かれるまで
一晩水に浸した大豆をミキサーですり潰し、鍋で煮る。
調理室には、普段の授業とはまったく違う匂いが広がります。
それを布で絞ると、鍋には豆乳が、布の中にはおからが残りました。
せっかくなので、出来立ての豆乳を紙コップに注ぎ、みんなで一口ずつ飲んでみました。
「あ、いつも飲んでるのと違う」
「思ったより豆の味がする」
「甘くない」
「これ、苦手!」
それもそのはずです。
これは、砂糖も香料も加えられていない、“本物の豆乳”。
いわば、商品になる前の、途中の姿です。
普段口にしている豆乳が、どれだけ飲みやすく“調整”されているかを、説明なしで実感する瞬間でした。
2.できたのは「よせ豆腐」だった
温めた豆乳ににがりを入れて、ゆっくりと固めていきました。
「わー、本当に豆腐みたいになってきた」
「でも、なんかトロトロだよ」
生徒たちが作ったのは、型に入れて固める前の、いわゆるよせ豆腐。
いちばん原初的で、いちばん柔らかい豆腐です。
完成品ですら、まだ“途中”の姿。
ここで初めて、生徒たちは気づきます。
豆腐って、完成までに、こんなに工程があるんだ。
授業時間の関係もあるので、固めることはせず、ここで試食タイム。
まずはそのままのよせ豆腐を一口パクリ・・・
その後は各自が好きな食べ方をしました。
もちろん、どれが正解、という話ではありません。
醤油をかける生徒
ネギやカツオ節、生姜をのせる生徒
中には、キムチや納豆を持参して混ぜた生徒もいました。
3.主役じゃない「おから」を、家に持ち帰る
豆腐ができたあと、必ず残るものがあります。
それが、おからです。
この授業では、それを捨てませんでした。
生徒たちはおからをタッパに入れて家に持ち帰り、
それぞれの家庭で調理し、翌週に報告することしました。
すると、翌週
クッキーにした
ハンバーグに混ぜた
煮物にした
家族に驚かれた
正直、あまりおいしくならなかった(笑)
と様々な反応が・・・。
授業と家庭がつながった瞬間と感じました。
4. そこで投げた、たった一つの問い
報告が一通り終わったあと、私はこう聞きました。
「ところで、なんで町の豆腐屋さんって、最近少なくなってきたんだと思う?」
生徒たちは、自分たちの体験をもとに考え始めます。
手間がかかりすぎる
安く売れない
大量生産の方が効率がいい
スーパーの豆腐が安すぎる
誰も教科書の言葉は使っていません。
でもそこには、
効率
価格
人件費
跡継ぎ問題
という、社会の構造がはっきりと見えていました。
5.100円の豆腐が、急に高く感じた日
この授業のあと、生徒の見方は少し変わります。
「100円の豆腐って、安すぎません?」
以前なら、何気なくカゴに入れていた豆腐。
でも一度でも作ってみると、その裏にある手間と時間が見えてしまう。
安い=価値が低い
ではありません。
安い=誰かの無理や工夫の上に成り立っている
そんな想像ができるようになります。
6.豆腐は、地域と歴史の食べ物でもある
実は豆腐は、地域によって好まれる形や固さが違います。
柔らかい豆腐をそのまま味わう文化もあれば、しっかり水切りした豆腐を使う地域もある。
さらに江戸時代には、『豆腐百珍』というベストセラーもありました。
豆腐は、安いだけの食べ物ではなく、工夫して楽しむ文化的な食材でもあったのです。
生徒たちが作ったよせ豆腐は、
そんな長い豆腐文化の、いちばん入口にありました。
まとめ:大豆一粒で、社会を一周する
この授業は、調理実習ではありません。
理科だけでも、家庭科だけでもない。
選択教科の中の社会科でした。
途中の豆乳を飲む
おからを家庭で調理する
豆腐屋が減った理由を考える
完成品だけを見ていたら、きっと気づかなかったことです。
食べ物は、完成した姿だけを見ると簡単に見えます。
でも、一度“途中”を知ってしまうと、もう元には戻れません。
大豆一粒から始まったこの授業が、
生徒たちの中で「社会を見る目」を少しだけ変えてくれていたら。
それだけで、この遠回りは十分に意味があったのだと思います。
食は、いつだって社会の入口なのです。
今日の話が、社会科の面白さを思い出すきっかけになれば嬉しいです。 このテーマを「中学社会科の視点」で読み解く授業は、メンバー限定でお届けしています。 土曜夜の社会科教室で、学びなおしを一緒に楽しみませんか。
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