脳は,安心しているときに学び出す― 安心は,甘やかしではなく,学習の土台である
ちょっと脳のお話
きっかけは,「ショート動画依存症」の記事にいくつか触れて,
少し考えてみました
「ちゃんとしなさい」
「何回言ったら分かるの」
「早くしなさい」
「みんなはできているよ」
家庭や教室の中で,つい,
口にしてしまう言葉があります……
もちろん,親や教師は子どもを困らせたくて
言っているわけではありませんよね
子どもに分かってほしい
次は失敗せずに,できるようになってほしい
集団の中で,学びに向かってほしい
そんな願いがあるからこそ,強い言葉になることがあります……
けれど,子どもの側から見ると……
その言葉は少し違って届いているかもしれませんよ……
「怒られた」
「また失敗した」
「自分はできない」
「ここでは間違えたら危ない」
そう感じたとき,子どもの脳は,
学ぶモードよりも,
守るモードに入りやすくなっちゃうんです
人は,不安や緊張が強いとき,
落ち着いて考えることが難しくなります
これは,気持ちの問題だけではありません
脳の働きとしても,強いストレスがかかると,
注意を向ける,
考える,
判断する,
切り替える
と,いった力が発揮されにくくなることがあるんです
つまり,
子どもが「分からない」のではなく,
分かるための状態になっていない
ということがあるのです。
「安心」は,甘やかしではない
学校では,ときどきこんな言葉を聞くことがあります
「そんなに優しくしていたら,子どもが甘えるのでは?」
「厳しさも必要でしょ?」
「社会に出たら,そんなに甘くないんだよ!」
たしかに,子どもに何でも許せばよいわけではありません
約束やルールも必要です
自分の行動を振り返ることも大切です
努力する経験も,踏ん張る経験も,子どもには必要です
でも,ここで考えたいのは,
厳しさの前に,
安心があるか
ということなのです
安心があるから……
子どもは間違えることができます
「分かりません」と言えます
もう一度やってみようと挑戦します
他人の考えを聞き,自分の考えを変えることができます
安心は,子どもを弱くするものではありません
むしろ,挑戦するための土台になるんです
心理学者のジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論では,
「安心」「安全」「探索」が,キーワード
人が健やかに成長し自立するために,
深く結びついている重要な概念になります
子どもは,守りながら学ぶことは難しい
たとえば,授業中に手を挙げない子がいます
教師から見ると,
「考えていないのかな」
「やる気がないのかな」
「もっと参加してほしいな」
と思うかもしれません
家庭では,親が,どうしたいのか!と聞いているけど,
答えない子がいます
でも,その子の内側では,こんなことが起きているかもしれません
「間違えたら笑われるかもしれない」
「変なことを言ったら,注意されるかもしれない」
「友だちよりできないと,思われたくない」
「どうせ自分の考えは,合っていない」
「自分の考えは、認められない」
って……
この状態の子にとって,
手を挙げることや自分の考えを親に伝えることは,
単なる発表や意見表明ではありません
自分をさらす行為になるんです
間違えるかもしれない危険に,自分を出していく行為です
だから,子どもは
黙る,
目立たないようにする,
分かったふり,
友だちやきょうだいの様子を見る
姿を見せます
時には,
ふざけたり,
反抗したり,
寝たふりをしたり,
笑ったりします
それは,学びから逃げているように見えるかもしれません
でも,見方を変えると,
自分を守っている姿なのかもしれません……
叱る前に,「今,この子は何から身を守っているのか」と考える
もちろん,家庭や学校では指導が必要な場面があります
危険なことをしたとき
人を傷つけたとき
物を壊したとき
学級の学びを妨げる行動が続くとき
親や教師が何も言わないわけにはいきません
ただ,そのときに大切にしたいのは,
行動だけを見るのではなく,その奥を見ることです
そう,子どもの背景に何があるのか……です
「なぜ,この子はこの行動をとったのか」
「何に困っていたのか」
「何が不安だったのか」
「どうすれば,次は別の行動を選べるのか」
行動を叱るだけでは,
子どもは変わりにくいことが多いです
なぜなら,その行動が,
その子にとっては自分を守るための方法になっている場合があるから
です
だからこそ,親や教師のまなざしは,こうありたいです
この子は,困った子,育てにくい子なのではない
何かに困っている子なのかもしれない
この見方は,特別支援教育の基本でもあります
よく言われる実態把握と背景理解です
そして,すべての子どもを見るときにも,大切な視点です
安心できる教室とは,静かな教室とは限らない
少しが高に限定してみると……
安心できる教室というと,
静かで落ち着いた教室を思い浮かべるかもしれません
もちろん,落ち着いた環境は大切です
でも,安心できる教室とは,単に静かな教室のことではありません
間違えても大丈夫
分からないと言える
途中までの考えを出しても大丈夫
友だちの考えを借りてもよい雰囲気
やり直しができる機会がたくさんある
先生が,子どもの失敗を責める前に,意味を考えてくれる
こういう教室だと,嬉しいですよね
そして,子どもたちは,少しずつ自分の学びに向かっていきます
「安心」とは,何もしなくてよい空気ではありません
「安心」とは,挑戦しても大丈夫だと思える空気です
学校改革の出発点は,安心である
個別最適な学び
授業改善
自由進度学習,本校で言うと,単元内自己決定型学習
形成的評価
ICTの活用
あゆみの見直し
これらは一見,別々の話に見えます
でも,根っこには同じ問いがありますよね
子どもは,安心して学べているか
自分のペースで進めること
分からないところに戻れること
すぐにフィードバックが返ってくること
友だちの考えを参照できること
評価が序列ではなく,次の学びへの手がかりになること
これらはすべて,子どもが安心して学びに向かうための仕組みです
学校改革とは,特別なことを次々に増やすことではありません
子どもが学びやすくなるように,学校の当たり前を見直すことです
その第一歩が,
安心は甘やかしではなく,学習の土台である
という共通理解が大切なのでしょうね
学びに向かえる場所に
子どもは,安心しているときに学び出します
安心しているから,
挑戦でき,失敗でき,人の考えを聞き,自分の考えを変えることが
できるんです
私たち教師がつくりたいのは,
子どもを守りに向かわせる教室ではありません
子どもが,少し勇気を出して学びに向かえる教室です
そのために,まず私たちが問い直したいのです
この教室は,
子どもにとって安心して間違えられる場所になっているだろうか
この学校は,子どもが守りに入らず,学びに向かえる場所になっているだろうか
脳は,安心しているときに学び出す
この視点から,もう一度,
教室,そして学校を見つめ直してみますね
次……
