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「落ち着きがない」の前に,脳が忙しすぎるのかもしれない― 困った行動ではなく,脳の処理の違いとして見る

脳のお話を少し……
こちらの話の続きです

「落ち着きがない」
「集中が続かない」
「すぐに席を立つ」
「話を最後まで聞けない」
「ちょっとした音や刺激に反応してしまう」
「注意すると,余計に荒れてしまう」


時折,私のもとへ,SNSやメールを経由して,質問をいただきます
有り難いことです

さて,教師人生を長く続けていると,
教室の中で,上記のような子どもの姿に
出会うことって,あるんですよね

担任教師としては,なんとか落ち着いてほしい
授業に参加してほしい
友だちと同じように活動してほしい
って,願います
そう願うからこそ,

「きちんと座りなさい!」
「ちゃんと聞きなさい!」
「しっかりやりなさい!」
「今はそれをする時間ではありません!」
「何回言ったら分かるの!」

と声をかけたくなる……いや,しちゃってます?

もちろん,集団生活の中では,ルールや約束は必要です
危険な行動や,人を傷つける行動をそのままにすることはできません

けれど,ここで少し立ち止まって考えたいのです……

その子は,本当に「落ち着こうとしていない」のでしょうか
本当に「聞く気がない」のでしょうか
本当に「わざと困らせている」のでしょうか

もしかすると,その子の脳は,私たちが思っている以上に
忙しいのかもしれないのです……


「落ち着きがない」のではなく,処理している情報が多すぎる

教室は,意外と刺激の多い場所なんです

 先生の声
 友だちの話し声
 椅子を引く音
 廊下の足音
 鉛筆の音
 掲示物
 黒板の文字
 隣の子の動き
 次に何をするのか分からない不安
 水槽のエアポンプの音
 電気の明るさ
中には,この電気が通っている機械などの
音が聞こえる子どももいるそうです

大人は,必要な情報を選んで,
必要でない情報を流しながら過ごすことができます
でも,子どもによっては,それが難しいことがあります

 聞かなくてよい音まで聞こえてしまう
 見なくてよいものまで目に入ってしまう
 一つのことに注意を向けたいのに,別の刺激に引っ張られてしまう
 切り替えたいのに,前の活動の興奮が残ってしまう
 不安が強くて,先生の説明どころではなくなってしまう
のです……

そう考えると,「落ち着きがない」という見え方は,
少し変わってきませんか?

その子は,何も考えていないのではなく,
考える前に,脳がたくさんの情報を処理しようとしている
のかもしれないんです……

多動・不注意・過敏さは,意志の弱さ?

多動,不注意,衝動性,感覚の過敏さ……
こうした特徴は,
単なる「わがまま」や「努力不足」では説明できないんです

たとえば,授業中にすぐ立ち歩く子

「座っていられない子」
と見ることもできます

でも,別の見方をすれば,
体を動かすことで,
自分の状態をなんとか整えようとしているのかもしれません

話を最後まで聞けない子がいます

「人の話を聞かない子」
と見ることもできます

でも,別の見方をすれば,
聞きたい気持ちはあっても,
注意を保つ力が途中で切れてしまうのかもしれません

すぐに怒る子がいます

「我慢できない子」
と見ることもできます

でも,別の見方をすれば,
刺激や不安が積み重なり,
脳の中ではもう限界に近づいていたのかもしれません

ここで大切なのは,
 行動を許すことではなく,
 行動の意味を考えること

です

「困った子」と見るか
「何かに困っている子」と見るか

この見方の違いが,支援の方向を大きく変えます

注意しても変わらないとき,必要なのは「叱り方」ではなく「環境の調整」かもしれない

同じ注意を何度もしているのに,なかなか変わらない
そんなとき,私たちはつい,

「もっと強く言わないと伝わらないのかな?」
「家庭でも言ってもらわないと……」
「本人の意識が足りないのでは?」

と考えてしまいます

でも,もしその行動の背景に,
脳の処理の難しさがあるのだとしたら,
必要なのは,より強い注意ではないですよね

必要なのは,環境を少し変えることです

たとえば,

 説明を短く区切る
 見通しを先に示す
 黒板に手順を書く
 一度に出す情報を減らす
 座席の位置を工夫する
 音や視覚刺激を減らす
 動いてよい場面をつくる
 待つ時間を短くする
 選択肢を示す
 できた瞬間に認める

こうしたことは,特別な配慮というより,
子どもの脳が処理しやすいように,
学びの入口を整えることです

これは,特別支援教育の視点そのものです

特別支援教育は,「特別な子」だけのものではない

特別支援教育というと,
特定の子どもへの個別対応を思い浮かべることがあります

もちろん,一人ひとりの特性に応じた支援は大切です
でも,特別支援教育の考え方は,特定の子どもだけのものではありません

 見通しをもつ
 刺激を整理する
 手順を分かりやすくする
 選択肢を用意する
 できたことをすぐに返す
 困ったときに助けを求められるようにする

これらは,支援が必要な子どもにとって助けになるだけではありません
多くの子どもにとっても,学びやすさにつながります
まさに,単元内自己決定型学習には,どれも必要な手立てです

一人の子どものために整えた環境が,
結果として,学級全体の学びやすさになることがあります

これが,特別支援教育の大きな力なんですね
特殊教育が,変遷して,特別支援教育になったのですが,
一部の教育が,今は,全体へと広がっている視点なのです

「みんなと同じように」ではなく,「学びに参加できるように」

学校では,どうしても
「みんなと同じようにできるか」
が見えやすくなります

 同じ時間に始める
 同じ姿勢で聞く
 同じ量を書く
 同じペースで進む
 同じ方法で発表する

でも,子どもの脳の働き方は,同じではありません

 音に敏感な子
 視覚情報に強い子
 言葉だけの説明が苦手な子
 体を動かすことで考えやすくなる子
 切り替えに時間がかかる子
 不安が強いと固まってしまう子
 興味があることには深く集中できる子

LDの定義として,
Learning Difference(ラーニングディファレンス)
日本LD学会で,上野一彦先生が,
昔から言われ続けている視点でもあります
「私たちの教え方で学べない子には,その子の学び方で教えよう」

そう考えると,目指すべきは,
「みんなと同じようにふるまわせること」ではなく,
それぞれの子どもが,学びに参加できるようにすること
ではないでしょうか……

静かに座っていることが,学びとは限りません
ノートをきれいに書いていることが,理解していることとも限りません
このような状態を保っている学級担任が,指導力のある教員ではありません
逆に,子どもの体が動いていても,
頭の中では一生懸命考えていることがあるのですから……

私たちは,表に見える姿だけで,
子どもの学びを判断しすぎていないのか
今,もう一度,問い直したい……

「困った行動」は,支援の入口である

子どもの言動には,理由があります

もちろん,子ども自身もその理由を言葉にできないことがあります
 「なんで立ったの?」と聞いても,
 「分からない」と答えることもあります

でも,分からないからこそ,教師がいっしょに考える必要があります

 いつ起きるのか
 何の前に起きるのか
 どの場面では起きにくいのか
 誰といると落ち着くのか
 どんな活動だと集中しやすいのか
 どんな言葉かけだと崩れにくいのか
まさに,応用行動分析の「先行条件」のみとりです

行動をよく見ると,
その子が困っているポイントが見えてくることがあります

「立ち歩く」ことだけを見るのではなく,
「いつ,何に困って,立ち歩いているのか」を見る

「聞いていない」ことだけを見るのではなく,
「どの情報が多すぎたのか」を見る

「怒った」ことだけを見るのではなく,
「怒る前に,何が積み重なっていたのか」を見る

困った行動は,子どもを責める材料ではありません
支援を考えるための手がかりなんですよね

学校改革は,子どもの見方を変えることから始まる

私的には,やっぱりここに帰ってきてしまいます……

 個別最適な学び
 単元内自己決定型学習(自由進度学習)
 特別支援教育
 形成的評価
 学級経営

これらは,別々の取り組みに見えるかもしれませんが,
根っこには同じ問いがある……

子どもは,
 どのように学ぼうとして,
 何があると,学びに向かいやすくなるのか
 逆に何があると,学びから離れてしまうのか……

「落ち着きがない」と決めつけるのではなく,
「脳が忙しすぎるのかもしれない」と見る

「聞いていない」と決めつけるのではなく,
「聞くための条件が整っていないのかもしれない」と見る

「わざとしている」と決めつけるのではなく,
「別の方法をまだ知らないのかもしれない」と見る

この見方の転換が,授業改善,
そして,学校改革の出発点になる気がしています

困った子どもに出会って「ぱわぁあっぷ」

困った行動は,子どもからのメッセージかもしれません
 「分かりにくい」
 「多すぎる」
 「不安だ」
 「切り替えにくい」
 「どうしたらいいか分からない」

そんな言葉にならないサインを,行動として出しているのかもしれません

私たち教師にできることは,
その行動をただ止めることだけではないですよね
まずは,その子が学びに向かえるように,
環境を整えることです
 分かりやすくする
 見通しがもてるようにする
 選べるようにすること
です
そして,できた瞬間を見逃さないことです

子どもを変える前に,環境を変える
行動を責める前に,意味を考える
同じようにさせる前に,参加できる形を探す

よく言われる,
「他人と過去は,変えられない」
ですね

これらのことが,特別支援教育の視点です
そして,個別最適な学びの土台でもあります

子どもの脳が,安心して,少し静かになったとき,
子どもはようやく,学びに向かい始めるのでしょう

次……


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