自分で選ぶと,脳は動き出す― 自己決定は,放任ではなく,学びへの入口を子どもに返すこと
こちらの話の続きです
「どれから始めてもいいよ」
「自分で選んでごらん」
「今日は,どの方法で学ぶ?」
「分からなければ,友だちの考えを見てもいいよ」
「先生のところに来てもいいし,もう少し自分で考えてもいいよ」
こうした言葉を聞くと,
子どもたちの表情が少し変わることがあります
もちろん,すべての子がすぐに動き出すわけではありません
むしろ,最初は戸惑う子もいます
これは,自然なことです……
「え,どれでもいいの?」
「先生,決めてよ」
「何をしたらいいか分からない」
「自由って言われると,逆に困る」
そんな姿もありますよね
けれど,子どもたちは,さすがです
少しずつ見通しがもてるようになり,
自分で選べる範囲が分かってくると,
子どもたちは自然に,変わり始めるのです
「今日はここからやってみよう」
「昨日は友だちの考えを見たから,今日は自分で進めてみよう」
「この問題は難しそうだから,先に練習問題をやろう」
「分からなくなったら,先生のところに行こう」
学びが,先生に動かされるものから,
少しずつ,自分で動かすものに変わっていくんです
自分で選ぶと,学びは「自分ごと」になる
子どもは,指示されたことをこなすだけでも学ぶことはできます
一斉授業にも,大切な意味があります
教師が整理して説明すること,
みんなで同じ問いに向かうこと,
学級全体で共有すること
それらは,学校の学びにとって欠かせない時間です
でも,それだけでは届きにくい子どももいます
もう少し考える時間がほしい子
先に進みたい子
友だちのやり方を見てから取り組みたい子
一度試してから説明を聞いた方が分かる子
言葉で聞くより,図や操作を通した方が理解しやすい子
先生に確認してから安心して進める子
全体を見据えてから,個の課題に取り組む子
課題の順番に取り組んで最後まで仕上げる子
子どもによって,学びに入る入口は違います
だからこそ,自己決定や自己選択が大切になります
「何を学ぶか」を子どもに丸投げするのではありません
「どこに向かうか」は教師が示します
単元計画や教材作成に教師の指導性を発揮させるんです
その学習計画や教材で,
「どこから始めるか」
「どの方法で進めるか」
「誰を参照するか」
「どのタイミングで助けを求めるか」
を,子どもが少しずつ選べるようにする……
このとき,学びは
「先生にやらされるもの」から,
「自分で進めていくもの」へと変わっていくのです
自己決定は,放任ではない
ここで気をつけたいことがあります
「子どもに選ばせる」と言うと……
「自由にさせるということですか」
「好き勝手になりませんか」
「学習規律が崩れませんか」
という不安が湧いてくるようです……
でも,その不安は,とても自然です
実際,準備のないまま,
「自由にやっていいよ」
と言えば,子どもは困ります
何を選べばいいのか分からない
どこまで進めばいいのか分からない
困ったときにどうすればいいか分からない
自分ができているのかどうか分からない
この状態は,自己決定ではありません
ただ,子どもを不安にさせているだけです
自己決定とは,放任ではありません
自己決定とは,
学びのゴールと道具と計画(見通し)を用意した上で,
子どもが選べる余地をつくること
です
教師の準備があって,
選択肢が整理されていて,
困ったときの戻り方が分かっていて,
はじめて子どもは選び,決定することができるのです
つまり,子どもの自己決定は,教師が手を離すことではありません
教師が,子どもが自分で進めるための足場をつくることなのです
選ぶためには,見通しが必要である
子どもが自分で選ぶためには,見通しが必要になります
今日,何を学ぶのか
どこまでできるようになることを目指すのか
どんな方法があるのか
困ったときには,どうすればいいのか
終わったら,どう確かめればいいのか
これが見えていないと,子どもは選べません
だから,自由進度学習では,
「自由に進める」こと以上に,
見通しをもてるようにすること
がもっとも大切になります
ほかにも,
学習計画表
単元のゴール
子どもが決めた今日のめあて
選べる課題
参考にできる友だちの考え
先生に聞ける場所
確かめる問題
振り返りの欄
だからこそ,
学習準備は,単元で行います
こうしたものは,子どもを管理するためだけのものではありません
子どもが自分で学びを動かすための地図のような存在になります
だから,
子どもは進み,戻り,別の道を選べるのです
「選べる」ことで,助けを求めやすくなる子もいる
自己決定というと,
「自分でどんどん進める子」のためのものだと思われることがあるようです
でも,実際には逆です
自分でどんどん進める子だけでなく,
困っている子にこそ,選べる余地が必要です
たとえば,一斉授業の中で分からなくなった子がいるとします
その子は,授業の流れを止めたくない
友だちの前で「分かりません」と言うのが恥ずかしい
先生に聞きたいけれど,いつ聞けばいいか分からない
そうして,分かったふりをしてしまうことがあるのです……
でも,自由進度の中で,
「先生のところに聞きに行く」
「友だちの考えを見る」
「ヒントカードを見る」
「前の問題に戻る」
という選択肢があると,
助けの求め方が変わります
「分からないから止まる」のではなく,
「分からないから,次の手を選ぶ」ことができるのです
これは,子どもにとって,
一斉授業とは,大きな違いです
支援とは,教師がずっと横について教えることだけではありません
子どもが困ったときに,
別の進み方を選べるようにしておくことも,支援です
子どもは,選びながら自分を知っていく
自分で選ぶ経験は,学力だけでなく,自己理解にもつながります
「自分は,最初に説明を聞いた方が分かりやすい」
「図にすると考えやすい」
「友だちの考えを見てから,自分の考えをつくる方がよい」
「朝のうちは集中できるけど,後半は短く区切った方がいい」
「難しい問題からやるとやる気が出る」
「簡単な問題で自信をつけてから進む方がいい」
こうした気づきは,教師が一方的に教えるだけでは生まれにくいものです
選んでみる
うまくいく
うまくいかない
別の方法を試す
振り返る
その繰り返しの中で,子どもは少しずつ,
自分の学び方
を知っていくんです
これは,個別最適な学びのとても大切な部分です
個別最適な学びとは,
教師が子ども一人ひとりに別々のメニューを
完璧に用意することだけではありません
子ども自身が,自分に合う学び方を見つけていくことでもあるのです
そのためには,選ぶ経験が必要です
次……
