【第2回・ソーラーパンク小説の書き方】チート能力も魔法も不要。「直して使う」主人公(メーカー・ヒーロー)の魅力と作り方
【あらかじめご了承ください】
主に「創作の初心者から中級者へのステップアップ」を目指す方を対象として構成しています。
筆者は公的な専門家やプロ作家ではございません。
記述の正確性には細心の注意を払っておりますが、物語を面白くするためのアイデアとして、読者ご自身の判断で活用していただくようお願い申し上げます。
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はじめに:「魅力的な主人公」の設定を考えすぎて、1文字も書けずに手が止まった経験はありませんか?
前回の第1回では、既存のSFジャンルとの「対比」から、ソーラーパンクの明るく協力的な世界観を組み立てる方法をご紹介しました。
今回は、その緑豊かな世界で活躍する「主人公のキャラクター像」をどのように描くかに焦点を当てます。
ファンタジー小説やSF小説の創作を始めたばかりの頃、次のような壁にぶつかることがあります。
「世界を救う主人公を書きたいけれど、複雑な魔法の知識や特殊な戦闘訓練の歴史などを設定する時間が取れず、筆が止まってしまう……」
仕事や家事で忙しく、創作に使える時間が限られている方にとって、リアリティのある戦闘スキルや超能力をゼロから考えるのは、少し負担に感じるかもしれません。
こうした悩みには、発想を少し切り替えるだけで、無理なく魅力的なキャラクターを作れるアプローチがあります。
本記事でご紹介するのは、特殊能力に頼らず、日常的な技能を活かす主人公の作り方です。
生活の延長線上にある特技(修理、園芸、料理など)を持つ主人公は、読者に身近な印象を与えやすい場合があります。
たとえば、第1回でも少し触れたベッキー・チェンバーズ氏の小説『ロボットとわたしの不思議な旅』の主人公は、屈強な戦士ではなく、お茶を淹れることで人々を癒やす修道士です。
チート能力も魔法も必要ありません。
まずは、この世界にぴったりな「戦わないヒーロー像」について整理していきましょう。
ー「ソーラーパンク」おすすめ作品ー
『世界の合言葉は森』
アーシュラ・K・ル=グィン(著)、小尾 芙佐(翻訳)
「森」と「世界」が同義語であるほど自然と深く融合し、「夢」を文化の核心に据えて生きてきた異星の民。
彼らの平穏な世界は、木材を求めてやってきた地球人の冷酷な資源開発によって踏みにじられていきます。
本作は、非暴力だった精神文化が搾取と暴力の嵐の中でどのように変容してしまうのかを問いかける、人類学的な視点に満ちた物語です。
侵略者の身勝手な論理と、尊厳を守るために立ち上がる現地住民の切実な葛藤が、繊細な筆致(ひっち)で対比されます。
現代の環境保全や異文化理解というテーマにも深く直結する、大人の読書にふさわしい重厚で思索的な一編です。
第1章:コミュニティを支える職人「メーカー・ヒーロー」という視点
SFやファンタジーで主人公といえば、孤独に戦うハッカーや、強大な敵を打ち倒す破壊的な戦士を思い浮かべがちです。
しかし、自然との調和を重んじるソーラーパンクの世界観では、そうした戦士とは異なるタイプの人物が活躍します。
環境破壊や中央権力の失敗を目の当たりにし、自然を守り、コミュニティを維持するために行動する職人や庭師のような存在。
本記事では、壊れた道具を修理したり、地域で必要なものを工夫して作ったりする主人公を、便宜上(べんぎじょう)「メーカー・ヒーロー」と呼びます。
2014年に発表された覚書を起点に、2019年頃に形作られた『ソーラーパンク・マニフェスト(Solarpunk Manifesto)』などの潮流でも示唆(しさ)されているように、この世界では、大量に消費することよりも、今あるものを手入れし、必要に応じて作り直す姿勢が重んじられます。
伝説の剣を抜いて魔王を倒す代わりに、壊れたソーラーパネルを修理して村に明かりを取り戻す。
そのような行動も、コミュニティを支える、印象的な英雄的行為として描けるでしょう。
主人公の職業(肩書き)として、以下のようなアイデアを参考にしてみてください。
ドローン・ドクター(廃材魔術師)
壊れた配送用ドローンや旧時代の電子ゴミを、廃材と3Dプリンターを使って修理する街のメカニック。
アーバン・ファーマー(都市農家)
ビルの屋上で、自動給水システムと土を組み合わせて野菜を育てる青年。
シード・ゲリラ(種蒔き義賊)
荒れ果てた土地やコンクリートの隙間に、在来種の種を蒔いて緑地を回復させる旅人。
💡案内人からのワンポイントアドバイス
「主人公には特別な力が必要だ」と思い込んでいると、設定のハードルが高くなってしまいます。
もし戦闘シーンや魔法のルールを考えるのが難しければ、まずは「村の壊れた機械を直せる近所の優しい修理屋さん」を思い浮かべる方が、筆を進めやすいかもしれません。
手始めに、この等身大の頼もしさを持つ人物を主人公に据える形を目指してみましょう。
第2章:手元にある資源を活かす「Jugaad(ジュガード)」の精神
こうした主人公の発想を考える際に参考になるのが、インドで使われる「Jugaad(ジュガード)」という言葉です。
Jugaadには、限られた資源や厳しい条件の中で、手元にあるものを工夫し、即興的に問題を解決するという意味があります。
本記事では、この考え方を創作のヒントとして取り入れます。
新品の道具をすぐに買うのではなく、使える部品を探し、手元の材料を組み合わせて問題に向き合う。そうした過程を描くことで、主人公の知恵や経験を表現できます。
これは、現代社会で注目されている「適切な技術(その地域の身の丈に合い、住民自身で維持管理できる技術)」や、「修理する権利(メーカー頼みではなく、ユーザー自身の手で直す権利)」といった現実のムーブメントとも地続きの考え方です。
物語では、複雑な仕組みそのものよりも、限られた材料から実用的な解決策を生み出す過程に焦点を当てるとよいでしょう。
こうした発想を支える技能としては、修理、園芸、木工などが考えられます。
また、自然の生態系を参考に、農業や暮らしを持続可能に設計する「パーマカルチャー」の思想も、世界観づくりの参考になるでしょう。
公開されている設計図や製作手順を参考にしながら、地域の資源で必要な道具を工夫して作る。
地域の工具共有サービスや図書館のような施設を活用して、仲間と道具を貸し借りしながら作業を行う。
こうした場面では、技術を受け身で利用するだけではなく、市民自身が地域づくりに参加する姿を表現しやすくなるはずです。
☕ちょっと一息
難しいイノベーションの手法や技術用語はさておき、この段階では「足りないものは、今あるもので工夫して直す」という精神だけを頭の片隅に置いておけば大丈夫です。
魔法で無から有を生み出すのではなく、「知恵と手作業で工夫する姿」が、この主人公の最大の魅力になります。
第3章:チート能力に頼らない──「直して使う」キャラクター創作3ステップ
ここまで見てきた「メーカー・ヒーロー」と、限られた資源を工夫するという考え方を、実際のキャラクターづくりに取り入れてみましょう。
最後のまとめでは、主人公の特技、コミュニティの課題、解決の工夫を順番に考えていきます。
ステップ1:主人公の「生活に根ざした特技」を一つ決める
初めに、主人公が持つ日常的なスキルや特技を一つ設定します。
ここで選ぶのは、特殊な戦闘訓練や魔法の知識ではなく、「料理」「園芸」「機械の修理」「大工仕事」「裁縫」といった、生活の延長線上にあるものです。
たとえば、「若い頃に工場で働いていた経験から、古い機械の構造に詳しい」「趣味で家庭菜園を続けてきたため、土の配合や植物の病気に詳しい」といった具合です。
生活に根ざした特技を持たせると、主人公の経験や能力に納得感を持たせやすくなります。
ステップ2:コミュニティが直面する「小さなトラブル」を設定する
主人公の特技が決まったら、次は、その能力が役立つ状況を考えます。
ここで重要なのは、最初から世界規模の危機を用意する必要はないという点です。
コミュニティの生活を少しだけ脅かす「日常のトラブル」を設定してみましょう。
たとえば、「村で共有している浄水装置のフィルターが詰まり、きれいな水が出なくなった」「共同菜園の土が痩せてしまい、秋の収穫が危ぶまれている」といった、生活に関わる困りごとです。
トラブルの解決手法について、ジャンル別の違いを比較してみると、ソーラーパンクの特徴がよくわかります。
異世界ファンタジー:
チート魔法や伝説の武器で、力づくで一発解決する。サイバーパンク:
ネットをハッキングしてシステムを破壊、または敵を暗殺して逃亡する。ソーラーパンク:
廃材と3Dプリンターデータを組み合わせ、近所の人と汗を流して「修理」する。
🔑ひらめきの鍵
事件の規模が小さすぎると、物語が地味になってしまうのではと不安になるかもしれません。
もし壮大な展開を作るのが難しければ、まずは「村のちょっとした不調」に焦点を当てる方が、筆を進めやすい場合があります。
日常のトラブルを解決することが、結果的に「住民たちの平穏な生活を守る」というヒロイズムに直結することを意識してみてください。
ステップ3:「ありあわせの素材」で解決する過程を描く
困りごとを設定したら、次は主人公がどのように解決へ向かうのかを考えます。
お金で新しい部品を買ったり、魔法で瞬時に直したりするのではなく、「廃棄された部品」や「手作りの代替品」を使って問題を乗り越えさせます。
たとえば、浄水装置の故障に対して、「主人公は、既存の濾過装置(ろかそうち)を修理するため、廃材の山から必要な部品を探し出し、手元にある材料を組み合わせて、故障した装置を動かすための簡易的な仕組みを作る」といったアプローチです。
高度な最新技術を持っていなくても、知恵と工夫でその場を凌(しの)ぐ。
その過程を丁寧に描写することで、主人公の工夫や手仕事の魅力を伝えやすくなるでしょう。
📝書き手向けメモ
修理や工夫の過程を描く際は、技術的な専門用語を並べるよりも、五感に関わる描写を加えると、作業の場面を具体的に想像しやすくなる場合があります。
以下の描写フレーズを参考にしてみてください。
【視覚・触覚】:
「3Dプリンターが小刻みに駆動する熱気」
「植物由来のバイオプラスチック特有の、わずかにざらついた手触り」
【聴覚】:
「ソーラーパネルがチチチと日光を吸い込む微かな音」
「雨水を蓄えるタンクの中でゴボゴボと鳴る水流」
【嗅覚】:
「古い機械オイルの匂いと、堆肥(コンポスト)の放つ豊かな土の匂いの混ざり合い」
まとめ
ソーラーパンクの世界で活躍する主人公を作る際、特別な才能やチート能力を無理にひねり出そうとするプレッシャーを感じる必要はありません。
「生活に根ざした特技」を持つ主人公を置き、コミュニティの「小さなトラブル」に対し、「ありあわせの素材と工夫」で立ち向かわせる。
複雑な設定を最初から作り込むのが難しい場合は、身近な技能から主人公の役割を組み立ててみるのも一つの方法です。
ここまでの内容を、実際の主人公づくりに使いやすい形に整理してみましょう。
次のワークシートでは、「特技」「トラブル」「解決の工夫」を順番に書き出します。
✍️ あなたのメーカー・ヒーローを組み立てるワークシート
主人公の生活に根ざした特技は?
──[ 例:趣味のDIYと、古い家電の修理 ]コミュニティの小さなトラブルは?
──[ 例:日照不足で、共同温室の暖房が止まってしまった ]ありあわせの素材を使ってどう解決する?
──[ 例:廃棄されたパソコンの冷却ファンと空き缶を組み合わせて、簡易的な太陽熱温水ヒーターを自作する ]
ここまでが、今回ご紹介した「直して使う」主人公のキャラクター像を組み立てる方法です。
主人公の特技と、その力を発揮する場面が見えてきたら、次は主人公が暮らす場所にも目を向けてみましょう。
住まいや水、電気、食料などの仕組みを考えると、ソーラーパンクの世界をより具体的に描きやすくなります。
次回は、実在する環境配慮型住宅「アースシップ」を参考に、暮らしを支える住まいやインフラを物語の中でどう描くかを考えます。
アメリカ・ニューメキシコ州の「アースシップ・バイオテクチャー」などの現実の取り組みも、大いに参考になります。
チート能力を持たない主人公を描く際、物語のリアリティを支えるのは、生活を支えるインフラを、物語の中でどのように設定するかです。
ただし、実際の建築や水利用の仕組みは、地域の気候や法規によって異なります。
物語を書く上では、「現実の垂直農法では数ヶ月かかる栽培が、特殊なLED光で数日で収穫できる」といった、フィクションならではの「都合の良い技術(SFの嘘)」を交えても構いません。
廃材の活用、熱質量や自然換気を利用した温熱環境、雨水の収集、温室での食料生産などを、創作のヒントとして取り上げる予定です。
生活感を描くことで世界観にリアリティを加える手法を探り、読者が没入できる説得力のある日常風景を組み立てるための法則(チェックリスト)をご紹介します。
次回は【第3回・ソーラーパンク小説の書き方】生活感を描いてリアリティを加える。環境配慮型住宅「アースシップ」に学ぶ日常描写のコツ です。
お楽しみに。
この記事を読んで感じた点や、実際に試してみた感想があれば、ぜひ教えてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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