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クイーンズタウン旅行記(2日目):雨上がりのミルフォードサウンド

「ミルフォードサウンドは雨が多い。でも雨の日も悪くない」

出発前にそう聞いていた。ニュージーランドに住んでいれば、そういう情報は耳に入ってくる。「そうは言っても、結局晴れた方がキレイでしょ」と内心思っていた。

当日の朝、外は曇りだった。



朝6時半、バスへ

クイーンズタウン市内を朝6時半に出発し、バスで約4時間半かけてミルフォードサウンドへ向かうというルートだ。眠い。前日の夕食をしっかり食べておいて正解だった。

バスは大型の観光バス。ガイドが英語で道中の見どころを案内してくれる。そこかしこから中国語や韓国語が聞こえてくる。乗客はアジア系が半分くらいだ。海外からの観光客もいれば、国内旅行の人も多いだろう。日本語は耳にしなかった。後ろの列にはオーストラリアからの旅行客だろうか、よく日焼けしてキャップをかぶった家族連れが座っている。平均体重100kgはありそうだ。

市内を抜けると、すぐに牧草地が広がり始める。羊が点在している。パラついていた雨がしばし止み、虹が見える。「これぞNZ」という景色に、何人かがさっそく歓声を上げた。


テ・アナウを経由して

クイーンズタウンから約2時間、テ・アナウ湖の湖畔で30分ほどの休憩が入った。テ・アナウはミルフォードサウンドへの玄関口にあたる小さな町だ。湖は静かで広い。ここでトイレ休憩と軽食。曇り空の下、湖面はグレーに沈んでいたが、それはそれで静謐な美しさがあった。朝食を抜いていたのでパイとコーヒーでひと息つく。小雨が降り始めている。肌寒い空気に、あたたかなコーヒーが嬉しい。

テ・アナウを過ぎると、景色が一変する。道路は次第に細くなり、両側に森が迫ってくる。標高が上がるにつれ、霧が出てきた。雨も強まってきた。「晴れたミルフォードは期待できないかもな」と、静かに覚悟した。


ミラーレイクとキャズム

道中、いくつかの立ち寄りスポットがある。

ミラーレイクは、その名の通り湖面に周囲の景色を映し出す湖だ。残念ながら雨と風でミラー感はゼロだったので、拾ってきた画像でも貼っておこう。

※イメージ

キャズムは峡谷の中を歩く短いトレイル。ごつごつした岩の間を水が流れ、苔が深い緑に輝いている。雨のせいで水量が増していて、音が大きかった。むしろ雨のほうが、このトレイルは迫力があるかもしれない。


ミルフォードサウンド着:最初の印象

バスがミルフォードサウンドの港に到着したのは、昼前だった。

正直に言うと、最初の印象は「思ったより地味かも」だった。霧と雲で山の上半分が隠れている。フィヨルドの全体像が見えない。雨が断続的に降っていて、フードをかぶるか迷う状況だ。

「こんな感じか」と少し気持ちが落ちかけた。

クルーズ船に乗り込んで、出航した。


船が動き出してから

しばらくして、雲が動いた。

船が進むにつれて、山の稜線が見え始めた。1,000メートルを超える岩壁が、両側から迫ってくる。そしてその岩壁のあちこちから、滝が流れ落ちていた。

一つや二つじゃない。雨のせいで水を含んだ山肌のいたるところから、白い筋が幾本も垂直に落ちている。晴れた日には枯れているような場所からも、今日は滝が出ている。雨のおかげで滝の勢いが強く、虹が見えることもある——まさにその状態だった。

「雨の日も悪くない」どころじゃなかった。雨の日の方が、圧倒的に滝が多かった。

船は滝に近づいていった。船首が滝壺のすぐそばに寄ると、水しぶきがデッキまで飛んできた。濡れる覚悟で前に出た。顔に当たる水が冷たくて、目を細めながら上を見上げると、岩壁の頂上から白い水が一直線に落ちてくる。

しばらく、言葉が出なかった。


クルーズの後半:晴れ間がのぞく

クルーズの後半、雲の一部が切れた。

山の上半分が姿を現すと、その規模のスケールが初めてわかった。これまで霧に隠れていた部分がいかに巨大だったか。雲がかかっていた状態でも十分に圧倒されていたのに、全体が見えると、さらに別の次元の景色になった。

光が差し込むと、水面の色が変わった。グレーだった湖が、少し青みを帯びてきた。

晴れたり曇ったり、その繰り返しの中で、ミルフォードサウンドは何度も違う顔を見せた。「天気が変わりやすい」という条件が、むしろ一日で複数の表情を見せてくれる理由になっていた。


帰路:フライバックのはずが

復路は飛行機で帰る予定だった、いわゆる「フライバック」プランだ。空からの景色を楽しみながら、約30分の空路でクイーンズタウンに戻れる。ホテルで熱いシャワーを浴び、少しゆっくりしてから夕食へ——のはずだった。

ミルフォードサウンドについてバスから降りるとき、スタッフから告げられた。「強風と雲のため、飛行機は飛ばない可能性が高い。クルーズから戻ってくるころには分かるから、とりあえず一回ここに帰ってきて」

NZあるある、ではある。とはいえ、来た道をさらに4時間半かけてバスで戻ることになった。空はその頃には少し明るくなっていた。飛べる天気に見えなくもなかったが、小型機の基準は厳しい。仕方ない。

帰りのバスの中で、ガイドが「フライトが飛ばなかった人、何人いますか?」と聞いたら、隣に座っていた老夫婦が手を挙げた。顔を見合わせて少し笑った。上品なご婦人に、「きっと神様がまたおいでっておっしゃってるのよ」とウィンクされた。


夕食:Tatsumi Japanese Dining

クイーンズタウンに戻ったのは、夜になっていた。

ミルフォードに行って、長時間バスに揺られて帰ってきた体に、日本料理が待っていた。予約しておいて正解だった。フライバックがキャンセルになった瞬間、時間変更の連絡をしたのだ。

Tatsumi Japanese Dining。クイーンズタウンにある日本料理店で、現地在住の日本人の間でも評判がいいと聞いていた。

結論から言うと、レベルが高かった。刺身の鮮度、出汁の引き方、ご飯の炊き方——どれも「観光地の日本食」ではなく、ちゃんとした日本料理だった。味だけでなく、プレゼンテーションも美しい。NZに来てから和食の外食には慎重になっていたが、評判なのが納得である。

最後に味噌汁が出てきたとき、ほっとした。ミルフォードサウンドの余韻と、飛行機が飛ばなかった疲れと、和食の安心感が混ざって、なんだかとても良い夜になった。長い一日の、最後にふさわしい〆だったと思う。


おわりに

「雨のミルフォードサウンドは悪くない」という話を、出発前に何度か聞いた。決して間違いではないのだが、やや控えめな表現だと、実際に行った今では思う。雨のミルフォードサウンドは、晴れの日とは別の体験だ。 滝の数が違う。水の量が違う。霧が山を隠し、雲が動き、晴れ間がのぞく。その変化そのものが景色になっている。

飛行機が飛ばなかったのは残念だったが、バスで戻る4時間半も、窓の外の景色を眺めながら過ごした。それはそれで悪くなかった。

NZの自然は、計画通りにいかないことも込みで楽しむものだと、改めて思った。

初日の記事はこちら。

3日目の話は、次の記事で。


こんにちは、あるいはこんばんは。

現在、ニュージーランドにある日系企業の社長として、現地のスタッフを率いている。言葉も文化も異なる環境で、どう意思決定し、どう伝えるか——日々の実践から得た学びを共有している。

海外赴任を考えている人、今まさに孤軍奮闘している人に届けば幸いだ。


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