何も期待していない、ふりをしていた
ガラス越しに、通りが見えた
どれぐらい、そうしていたかわからない
コーヒーが、少し冷めていた
気づけば、カップルばかりを
目で追っていた
見たかったわけじゃない
ただ、視線が、そこへ向かっていた
隣の席が、空いたままだった
なんとなく、手帳を開いた
バッグの、決まった場所から取り出した
小さめの、革のシステム手帳
慣れた手つきで、
予定のインデックスを開いた
映画
夕食
買い物
自分の字で、書いてあった
悪くない週末のはずだった
どれも、一人でできるものだった
誰かに、断る必要のないものばかり
手帳を閉じた
テーブルの上に、
スマホが置いてあった
画面は、暗いままだった
手を伸ばしかけて、
止まった
胸の奥が、
少しだけ、ザラついた
もう一度、手帳を開いた
来週の予定を、また探した
スマホで、映画を調べた
上映時間を、確認した
夕食の店も、探した
ページをめくる指が、
少しだけ、迷った
予約は、しなかった
冷めたコーヒーを、飲み干した
苦さが、
ゆっくりと喉を通った
手帳には、また予定が増えていた
どれも、
忘れようと思えば
忘れられるものばかり
コートを羽織って、
ゆっくりと立ち上がった
ガラスの向こうの世界へ、
そのまま溶け込めるような気がして
ドアを押した
通りに出た瞬間、
冷たい空気が、頬に触れた
誰かと並んで歩く人たちの間を、
一人で、歩いた
この数週間、
同じことを繰り返していた
そしてまた、
来週も
同じ予定を入れるだろうと
なんとなく、わかっていた
