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フジファブリックというバンド【後編】2015-/逸脱を引き受け続けること

フジファブリックの歴史を総浚いし、その稀有な歩みを批評的に紐解く記事シリーズの後編。前編は↓。こちらを先に読んでいただきたい。

志村正彦は“イメージ”を重視しつつ、遺作となった『CHRONICLE』で内省を深めた。3人体制となってからもフジファブリックらしさという“イメージ”に応えつつ、『LIFE』で山内総一郎がフロントマンとして、表現者としての内省を行なった。どちらの時期もイメージから内省というプロセスを経て成熟したのが最初の10年だ。そしてその後、約10年間に渡る直近に歩みの主題は“逸脱”にある。前編と比べるとやや後ろ向きな記載が多いことは了承願いたい。これは彼らを冷静に捉え、活動再開を願うための思考整理の記録だ。



バンド像を引き受ける

9thアルバム『STAND!!』(2016)は3人体制としてのスタンダードを確立した1作に思う。先んじてリリースされたEP『BOYS』ではストリングス、続くEP『GIRLS』ではホーンセクションを外部アレンジャーを招いて導入し、華やさを強調しバンドを刷新した。本作はその延長として相応しいストレートな楽曲が耳に残る。これまでは歪さがバンドらしさとしてあった分、王道のJ-POP的な意匠が従来のフジファブリック像を逸脱させることに繋がっていった。

トキメキをもっとちょうだい
飽きるほどもっとちょうだい
まだまだ行けるさ
明日をもっと信じたいんだ

「SUPER!!」

ああ僕らはどこまでも行けるさ
この場所から見える景色超えて
君をそっとたぐり寄せ囁く
波の音に邪魔されないように

「the light」

素っ頓狂なギターリフやファニーな鍵盤の音色といったこれまでストレンジさを印象づけていた要素が減退したことによって、堅実なリズムと清廉なウワモノだけでもフジファブリックは成立し得るか?という命題に挑み、シンプルだが確固たる美学を詰めた本作。歌詞は再び3人体制に戻り、『STAR』期のように想いは一塊に。そして楽曲には新たな場所へ向かおうとする言葉が揃った。しかし当時のようにがむしゃらなものではなく、冷静かつ力強い等身大の前進だった。


この時期を前後に2007年にリリースした「若者のすべて」が広く定着しつつあった。2010年のBank Bandのカバー、2013年のドラマ『サマーヌード』での引用など数多くのきっかけがあるが、2016年頃から夏フェスで頻繁に披露されるようになった影響も大きいだろう。享楽性の高い楽曲が台頭し、レジャー化したフェスシーンにおいて彼らが奏でる「若者のすべて」の“情緒”は希少で、その普遍性も相まって着実にシーンの内外で再評価されたのだろう。

2018年はCMでのんが「若者のすべて」をカバー、同年秋には「茜色の夕日」が重要な役割を果たす映画『ここは退屈迎えに来て』が公開されるなど様々な場所で彼らの残してきた楽曲が新たなイメージをもたらすようになる。フレデリックやマカロニえんぴつといった彼らの影響が色濃い後輩たちの躍進も手伝い、風格や円熟味が増していく。このような状況でも『LIFE』と『STAND!!』で成した自己確立によって、周囲の変化に振り回されることはなかった。


年々オーダーの増えるタイアップ曲をEP『FAB FIVE』にまとめ、全曲アルバム用に書き下ろした『F』(2019)はそんな勢いづく状況を受け止めて再びストレンジなバンド像に向き合うことで、前作のストレートな作風からの逸脱を試みている。他者から求められるものではなく自分たちの想う1度フジファブリックらしさを捉え直し、再評価の渦中にある“情緒”的な部分とともに変態性や奇抜さを再解釈しオリエンタルさや歌謡性をリブートするに至った。

山内:(「前進リバティ」について)どこに進むのか。このまま進んでいいのか。もしかすると終わりに向かって進んでいるのかもしれないし、かといって進んでいかないとバンドが止まってしまう。バンドを長く続けていたら、いつも、イケイケドンドンな勢いだけではなく、テンションが下がる時だってありますし、加藤さんはこの曲でそういうバンドのありのままの姿を描く役割を担ってくれたんです

オフィシャルインタビューより

金澤:アルバムタイトルは“FUJIFABRIC”の『F』であり、“FUTURE”の『F』でもあるからね。だからといって、この先のことを考えたら、決して気楽な気持ちではいられないんですけど、バンドは過去最高の状態なのは間違いないですし……

オフィシャルインタビューより

セルフタイトルと同義の題を冠し、未来志向な楽曲が多いアルバムだが創作の苦悩や漠然とした不安が隠さず描かれた1作である。「若者のすべて」を始めとする志村のカラーが濃い名曲たちも聖域化させることなく主体的に鳴らして現役のナンバーとして保持しながら、志村時代を越える数の楽曲を作り、前作からの逸脱をバンドに課し続ける。自分たちが望んでトライしていることとは言え、フジファブリックの継続には想像を絶するバランス感が必要なのだと察せられる。


逸脱の困難さ

山内:僕らは“解散しない”と決めているバンドなので。後は自分たちが真摯に音楽を作っていって、ちゃんと伝えようという気持ちで毎ステージやれば続いていくのか、いかないのか……。

金澤:いくでしょ!

山内:その姿勢の先に見える未来っていうのが、15年目以降なのかなと。今までよりちょっと険しくはなりそうですけど、自分たちも現状に満足せずに。今の音楽の流行りも考えると、面白い音楽もたくさん生まれてますし、もっともっと独自性が必要だなという風に痛感することもあるので、より頑張った先に未来が見える気がしています。

Real Soundインタビュー

デビュー15周年の2019年、夏にはベストアルバム『FAB LIST』を2作リリース。同時期には「MUSIC STATION」に初出演して志村のボーカル映像とともに「若者のすべて」を歌唱。また秋の大阪城ホールでのワンマンライブでは志村の内省が濃い『CHRONICLE』から「バウムクーヘン」を3人体制で初歌唱。大きな支持を得た楽曲、志村のパーソナルな楽曲を立て続けに引き受けたフジファブリックだが同居する過去と未来の引力は”逸脱“の道筋を迷わせていく。


さらに2020年はコロナ禍によってツアーが中断。これまで楽曲制作に還元されてきた彼らのアイデアの発信源たるライブ活動が封じられてしまう。しかし絶え間なく制作を続け、11thアルバム『I Love You』(2021)が完成する。本作はストリーミングサービスが中心となったリスニング環境に対応すべくギターワークを工夫した作品であり、ファンクやソウルの要素をスタイリッシュにまとめあげたポップアルバムだ。時代と連動する形で前作からの逸脱を果たしたのだ。

山内:今回はあんまり和音で埋めていくようなプレイじゃないんです。というのも、今の音楽シーンのレンジ感というのは上と下が伸びてきていて、それをサブスクリプションのストリーミングやCDで再生するとなると、ギターのパワー・コードは歌を殺しちゃうところもあるんですよ。だから今回は“カッティングが中心になるんだろうな”と思っていましたね。その中でも、いわゆるギター・ボーカル的な感じではなく、ほかの楽器を聴かせるギター・プレイを心がけるようにしました。フジファブリックがデビューした頃の自分の立ち位置に近いような。

Guitar Magazine Webより

サウンド面も特徴的だが、これまでとの大きな違いがゲストボーカルの招聘である。JUJU、幾田りら、秦基博というフジファブリックと音楽的な共通項は希薄だが個性的な歌声を持つ面々とともに歌声を響かせている。また小林武史やトオミヨウといった初タッグの編曲者も参加。「愛」という具体的なテーマの配置をはじめ、バンドの内部ではなく外部を従来と異質なものにすることでフジファブリック像の大きな逸脱を図ろうとしていた時期だったことが察せられる。


この1年後、2022年には山内総一郎による初のソロアルバム『歌者-utamono-』 が完成。歌詞を自作のプロットを基にして作った短編集のような1作だが、「白」は簡潔かつ素直な言葉で自分自身やバンド、そして志村について歌っている。フジファブリックの主体としては出すことのできない素の表情を刻んだ本作もまた”フジファブリックの表現に活かす“前提で生まれたものだ。『LIFE』のようなプロセスに再度挑み、次の内的変化を起こす準備を整えたのだ。


そしてコンスタントなリリース重ねた先、12thアルバム『PORTRAIT』(2024)を発表。デビュー以来培ってきたあらゆるアイデアを注ぎ込みつつも、過去の再現や“らしさ”の追想を行うことなく真新しいカオティックな作品となった。どの曲も極端なまでに振り切れている。特に最初と最後を飾る「KARAKURI」と「ショウ・タイム」はプログレや組曲と形容するほかない複雑怪奇な楽曲である。バランス感や整合性を排したデビュー20年目の大いなる逸脱である。

ただ僕は祈ってる
解放の時は来ると言ってくれ
出してくれ籠から食い破れば
鳥のように飛びたって

「KARAKURI」より

誰しもこんな気持ちになるんかな
何もかもがやる気の出ん時
民生の新譜が良かったよなぁ
歌詞は何だっけか、なぜか震えたんだ

「音楽」より

ドロドロした表現欲求や口語のメモ書きまでを丸ごと放り込んだ、まさにポートレイト=肖像と呼ぶに相応しいアルバムだ。後に明かされるのだが本作の制作中に金澤から「アルバムに自分の全てを注ぎ、20周年イヤーを全力で駆け抜けたあと、バンドを脱退したい」という要請があり、活動休止に至ったという経緯がある。もはや出し惜しみするものなどなく、裏も表も全てを開示して刻みつけることがひとまずの集大成には必要だったと言えるだろう。


フジファブリックの多声性

"バンドを解散させない"前提を守るために足を止める。この選択から伺えるのは主体の多声性である。多声性とは複数の独立した声部が同時に響き合うことをいう音楽用語であると同時に、他者との考えの違いを同居させる対話の様態を示す言葉としても用いられる。今は山内、加藤、金澤のバンドであり、運営や作品の方向性を決める主体は3人だ。しかし同時に志村が残した言葉や歌を参照にしながらバンドを動かしてもいる。志村もまた主体を成す"声"なのだ。

3人の声と志村の声は時を超えて常に折り重なっており、フジファブリックという主体を多声的に構成する。だから生まれ続ける新曲と同じ位相で志村が残した楽曲も封じられることなく鳴らされる。真新しいアプローチとともに過去の"イメージ"を投影しつつ楽曲は作られる。アルバム制作における"逸脱"や、"志村が始めたバンドだから解散できない"という前提条件は特定の誰かが着想して言い出したわけではなく、バンド内で多声的に芽生えてきた意志なのだ。

志村:曲ごとに色んなドラマチックな事があって演奏のアプローチがあって、いつもワクワクできる物がやりたいなっていうのがあって。アルバム制作を控えて曲を作っていく段階で、中盤くらいになると「こういう曲があったらビックリするな」っていう考えが出てくるんで。凄い“いびつ”だと思うんですけど、いびつな物がたくさん集まって結局は面白い形でまとまる、みたいなアルバムになりましたね。

billboard JAPAN『FAB FOX』インタビュー(2005)

金澤:自分たちだけで制作していると、知らず知らずのうちに自分たちの常識ができてくるんですよね。それをどんどん崩していかないと楽しくないんですよね。そもそもフジファブリックってデビュー前から『色んな曲を作り続けたいよね』って思い続けてきて、つねに音楽性を更新し続けてきたバンドであって。

DI:GA ONLINE『STAND!!』インタビュー(2016)

山内:「アルバムごとに違うものを作ろう」というのは志村(正彦)くんとも話していたし、決めていたことでもあって。今回のアルバムもそこに忠実だったと思います。前に進めたいメンバーばかりだし、模索しながらではありますが、その心持ちでここまでたどり着いた感覚があるので。

ナタリー『PORTLAIT』インタビュー(2024)

全員の意志として逸脱という自由を探究しつつ、「自由であり続けねばならない」という使命感を背負っていたとも言えるフジファブリック。常に前と異なる姿へと逸脱し続ける、そんな自分たちと繰り広げる猛スピードの追いかけっこは過酷なはずだ。活動休止によってそのスピードを落とすことはどの"声"も壊すことなく、主体の多声性を保持する唯一の手段だろう。この選択もまた、重ねてきた全てを守るための険しくも温かな逸脱だと言えるのかもしれない。



私が最後にフジファブリックを観たのは昨年11月、大阪城でホールでのライブだった。4年半ぶりに彼らのライブに参加し驚いた。フロアでペンライトが輝き、また「ミラクルレボリューションNo.9」や「Feverman」では振り付けによって盛り上がっていたからだ。しかし強制力は感じない。観客もバンドも思い思いに高揚している。これほどまでにフジファブリックの表現は拡張し、共有された。観客までも内包した多声性を誇るバンドになったのだ。

思い返せば私とフジファブリックの出会いは不思議なものだった。2005年秋頃、当時アジカンが好きだった私はバンドのWikipediaでアジカンが“エモーショナル・ハードコア”とジャンルづけされていることを知る。その項に飛ぶと、そのジャンルのバンドが一覧化されており、そこにフジファブリックがいたのだ。今となってはどこがエモコアなのかと思うし、初めて「銀河」を聴いた時はひっくり返った。あまりにも未知なる音楽だったからだ。

あのWikipediaを編集した人にとってはエモコアとして響くバンドなのかもしれない。そして誰かにとってはペンライトを振りながら熱狂したくなるバンドなのかもしれない。そんな風にリスナーの数だけイメージを植え付けながらフジファブリックは唯一無二な歴史を辿ることになった。そのイメージはメンバーさえも把握しきれないし、メンバーごとにも差異があるはず。ゆえに様々な"声"が個として存在して響き合う多声的なバンドであり続けたのだ。


私はきっとこの活動休止はいつか解かれると確信している。休止も逸脱の一環だとするならば、また次の逸脱として活動再開は必須だからだ。フジファブリックでこそ表現したい風景を捉えた時。フジファブリックでこそ捉えたいイメージが見つかった時。きっともう1度、フジファブリックを動かすための”声“が響き合う瞬間が来るはず。今はその時を静かに待ちたいと思う。



#フジファブリック #批評 #音楽



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