ガンバルマン(ブタゴリラ)VS.枢破天狗(キテレツ)『スーパー天狗』/正義のヒーローごっこ④
古くから、「仮面ライダー」派か「ウルトラマン」派かという血を見る争いがあるが、僕は断然後者であった。自分の素性を隠して戦う主人公だったり、巨大化しての戦闘だったり、ウルトラマンと対決する怪獣だったりが好きだった。
ウルトラマン派の人たちに共通するが、何よりも怪獣に魅力を感じていた僕は、怪獣大図鑑の諸データを丸暗記するほど読み込んでいたし、怪獣カードや怪獣消しゴムも集めていた。
正義のヒーローの魅力を引き出すためには、ヒーロー以上に魅力的な悪役の存在が必要となってくる。ウルトラマンにおける怪獣(宇宙人)に心を奪われたのは、そうしたヒーローものの構造をしっかり掴んだ制作者の狙い通りだったのである。
ヒーローごっこをしたがる藤子キャラは多いが、彼ら(彼女ら)はすぐに悪役を求める傾向にある。それは、ヒーロー(自分)が輝くためには、強大な敵を見定めて、撃退することが必須であると直感しているからである。
過去の記事で取り上げたお話では、ジャイアンやQちゃんといったキャラクターが、突如ヒーローを名乗るが、戦う敵がいなくてイライラするというシーンが描かれていた。
敵を求めるヒーローというのは、ある種の論理破綻をしているが、その気持ちは理解できなくもない。
本稿では、正義のヒーローに目覚め、戦う敵を求めているうちに自ら人々の敵となってしまう男が登場する。また、お話の後半では、ヒーローも楽ではないという、藤子F作品ではお馴染みのテーマも描かれる。
「正義のヒーローごっこ」の集大成のような作品なのである。
「キテレツ大百科」『スーパー天狗』
「こどもの光」1976年11月号/大全集2巻
皆が集まる空き地の土管の上で、ジャーンと登場したのは、お手製の凝ったマスクと大きめの風呂敷をまとったブタゴリラ・・・ではなく、正義の味方ガンバルマン。
かなりダサいネーミングだが、皆に向かって「お前ら、何か困った時にはガンバルマンを呼べ」と上から目線で声を掛ける。腕力には自信があるらしく、「このたくましい腕で救ってやる、遠慮せずに呼べよ」と言って去っていく。
キテレツやみよちゃんやトンガリは、ブタゴリラがいなくなった後、「いい年してウルトラマンごっこだって、あのバーカ」と悪口言いたい放題。ところがすぐに「俺を呼んだか」と、ガンバルマンが空き地へと戻ってくる。
ヒーローとなったからには早く活躍をしたいブタゴリラは、「早く呼べ!俺は腕を振るいたいんだ」と、とことん自分勝手なのである。
ただ、普通の小学生たちの暮らしの中で、ヒーローの助けを借りる場面など早々ない。ガンバルマンは、そんなことはお構いなしに、何かないかと皆の後をつけ回すのであった。
仕事の依頼がないことにイライラを募らせたガンバルマンは、キテレツに対して「もう待てない」と言って追い回し、逃げたキテレツが子供とぶつかったのをチャンスとばかりに、キテレツをボコボコにしてしまう。
そしてようやく腕力を示すことができたガンバルマンが、「悪は滅び、正義が勝つのだ!!ワハハハハ」と悪の権化のような笑い声を上げるのであった。
「あんな正義の味方があるか」と激怒するキテレツ。部屋に戻って大百科の一巻目をパラパラと開き、「枢破(すうばあ)天狗製法」という項を見つける。ページには天狗のイラストが描かれており、枢破天狗というスーパーマンを作り出すことができるらしい。
枢破天狗は二つのアイテムで構成されている。一つは「怪力面」という天狗を模したお面で、もう一つが「羽うちわ」である。それぞれの効力は下記のとおり。
怪力面・・・この面をつけると、筋肉・骨格の細胞が変質し、強化され、十万馬力の怪力となる。目はX線眼となり、壁を通して見られる
羽うちわ・・・強風を呼ぶ。うまくあおげば空を飛べる
さっそく実験しようとお面を被ろうとするキテレツ。コロ助が「ワガハイ被ってみたいナリ」と駆け寄ってきたところをキテレツが軽く振り払うと、勢いよく押し入れの襖へと飛び込んでしまう。
ヨロヨロと這い出てきたコロ助にうちわを軽くあおぐと、またまた襖へと飛び込むコロ助。お面と羽の効果がわかったが、その代償に二つの大穴が空いてしまうのであった。
空を飛ぶ練習もして、いよいよ枢破天狗となって、飛び出していく。
ブタゴリラ演じるガンバルマンは、その後標的がさっぱり見つからなかったようで、「もう何でもかんでも暴れるぞっ」と闇落ちしてウオーと皆を追い回している。
そこへ空中から舞い降りたのが枢破天狗である。正義の味方は俺だぞといきり立つガンバルマンに、「どっちかと言えば君は悪の味方だね」と皆の溜飲を下げる指摘をする。
「言ったな」と怒り狂ったガンバルマンは、パンチを繰り出したり、バットで殴りかかったり、石を投げつけたりするが、枢破天狗はまるでビクともしない。
「今度はこっちの番だ」とガンバルマンのマント(風呂敷)を掴んでグルングルンと宙で回して、ぶん投げると、道路に頭から突っ込んでしまう。絵柄的には即死してもおかしくない突き刺さり方である・・・。
本物の正義のヒーロー誕生に、一度は喜ぶトンガリたちだが、すぐに冷静になって「呼んでやらないとうるさいだろうな」と危惧する。
ブタゴリラと違ってキテレツは別に力を誇示したいわけではないので、トンガリたちのヒーローへの配慮はありがた迷惑で、この後キテレツに大いなる負荷をかけることになる。
最初に説明がなかったが、誰かが枢破天狗を呼びたいと考えると、怪力面が「うおん」と声を上げる仕組みとなっている。「エスパー魔美」や「中年スーパーマン佐江内氏」の呼びベルのような働きである。
面をかぶって出動するキテレツ。すると最初の頼みは物置の片付け。さらにお風呂に入っている間に呼び出されて、飛んでいくと買い物の頼まれごと。さらにさらに夕ご飯を食べている時に呼ばれていくと、夕食をつまみ食いしすぎたトンガリがママをやっつけてほしいと言う。
さらにはガンバルマンを卒業したブタゴリラに呼ばれて、「宿題をやってくれ」とお願いされる。スーパーヒーローではなく、超人パワーを持った便利屋扱いなのである。
「パーマン」などの記事でも何度か書いているが、ヒーロー活動にとって重要なのは、時間の確保である。困った人は24時間365日いるわけで、それらをまともに相手にしていては、自分の時間が取れなくなってしまう。
なので「パーマン」においては、自分の代わりとなるコピーロボットが必須なのである。
枢破天狗となったはいいが、自分の宿題をする時間すら取れないキテレツは、天狗セットを庭に埋めてしまう。お面の「うおん」という唸りを聞くと、飛んでいかずにはいられないので、聞こえなくしてしまおうということである。
その夜。地面の中からうおんうおんと声が響く。部屋で爆睡していたキテレツだが、寝たままムクリと起き上がり、フラフラと庭へと歩き出すと、グウといびきをあげながら、天狗セットを掘り起こす。
そしてパジャマのまま、「グウグウ」と言いながら飛んでいき、ガジャーンとガラス窓から飛び込んだところは、みよちゃんの家である。
部屋には刃物を持った強盗がみよちゃんとママを威嚇している。「来てくれたのね!!」と喜ぶみよちゃん。そして刃物を突き立ててくる強盗を軽くひねり倒すと、あっと言う間に空を飛んで帰って行ってしまう。
みよちゃんたちは「どこのどなたか知らないけれど、どうもありがとう」と感謝の意を述べる。なお、この言葉は、「どこの誰かは知らないけれど」という、月光仮面の歌の歌詞から取ったものと考えられる。
キテレツは終始寝たままで、枢破天狗を演じ切り、天狗セットも再び庭に埋めてしまう。つまり、みよちゃんを救った本物のヒーロー活動を一切覚えていないということである。
翌朝、みよちゃんが友人たちに、「夜空を飛んで助けに来てくれた、かっこ良かったわよォ」と昨日の枢破天狗のことを話している。その話を聞いたキテレツは、「他にも正義の味方が現れたらしい、誰だろう」と訝しがるのであった。
・正義のヒーローになりたがるガキ大将
・敵を求めすぎて闇落ちする自称正義の味方
・ヒーローへの依頼は雑用ばかり
・ヒーロー活動をしていると自分の時間が無くなる
・寝ている間に、大活躍
本作は、以上のような藤子作品に頻出するテーマをうまくひとまとめにしたエピソードであった。
中々の完成度であるので、是非とも原作を読んでない方はチェック願いたい。(ただしてんとう虫コミックスにはなぜか未収録であるが・・)
