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遊線からの物体V 第24話

 一週間後、学校。
 俺は不承不承、世界は広シ探検隊隊長として連中を集める。
 例によって、パソ研の部室を秋葉パワーで勝手に使わせてもらっている。
「それで、どれくらい集まったんだ?」
 服部が俺にそう訊ねる。
「そうだな、まあざっと200件近くだな」
「200件! そんなに集まったの?」
 安倍が目を丸くして驚く。
「まあ、ほとんどガセ、というか面白半分のでたらめなんだけど」
「小生のところにも情報は集まってきておりますな。同じくほとんどガセ情報でござりまするが。ひとまず今日の収穫を確認しますぞ!」
 秋葉の指示で、SNSに集まった情報を精査していく。
「うーん、なかなかまともな情報は見つからないねえ」
 しばらくして安倍がぼやく。
「あっ見て下さい服部先輩! かわいいグレイです〜!」
「おお! 確かにこれはかわいい……」
 目をきらめかせる服部。
 どうやら、俺のバズった投稿に返信されている、グレイが美少女化されたイラストを見て盛り上がっているらしい。
「しっかし、これだけ返信がもらえるのはありがたいが」
 ほとんどデマだな。まあ当たり前だが。ただ何件かは面白そうなものもある。

【夜釣りしてたら、巨大な三角形の影が無音で空を横切っていった。同僚も目撃、鳥肌立った。あの大きさはドローンじゃなかった #世界は広シ】

【とある山奥でキャンプ中、謎の光球が木々の上で浮かんでた。スマホで動画撮ったけどブレてる。友達も見たけど家族は信じてくれない! 絶対UFOだって! #世界は広シ】

【牧場で働いてるんだけど、夜、牛たちが騒ぎ出した。外に出ると謎の緑の光。画像はその時の。ちょっとぼやけてるけど。心臓止まりそうだった。 # 世界は広シ】

 添付されてる写真や動画はたしかにブレたりぼやけたりしているが、それが逆にリアリティがある。
 ああ、こうやって人はオカルトにハマっていくのだと思う。
 だって俺、ちょっと面白いもん。今。
「なあ秋葉、どう思う?」
 話しかけたが返答はない。
 猛烈な速度でキーボードをタイプしているので、見ると煽りコメントに対して強烈な反論を次々に叩き込んでいる。

【宇宙人否定こそこの時代では非科学的でござりまする。2021年米政府UAP報告書で144件の未解明現象確認、ケプラー計画で推定10億の居住可能性惑星、存在、宇宙の規模の証拠を考えれば→】
【地球外生命体がいる方が普通。それに、小生は宇宙人に遭遇できましたぞ! なんせあなたにはこうして地球の言語が通じておりませんからなあ! あなた自身が身を持って宇宙人の実在を証明なされておるのですなあ みつを】

 ダメだこいつ。
「宇宙人って言っても、範囲がかなり広くて困っちゃうね」
 確かにな。安倍の言う通りだ。
「なあ、どうにかならないものなのか?」
 そう言おうとして俺が振り返ると。

【地球外知的生命体の存在否定は、宇宙の統計的蓋然性と宇宙生物学の進展を無視している。ケプラー宇宙望遠鏡やTESSの成果は、銀河系内に数十億単位でハビタブルゾーン内の地球型惑星が存在することを示唆→】
【生命の構成元素は宇宙に遍在し、有機物の生成から自己複製に至る化学進化のプロセスは普遍的法則に則る。
ドレイク方程式が示唆するのは、N>1 の可能性の高さだ。フェルミのパラドックスは地球外知的生命体不在の証明ではなく→】
【グレートフィルターの存在(生命発生や高度文明化の困難さ)、観測技術の限界、或いは我々がテクノシグネチャー/バイオシグネチャーを未解読である可能性を示唆する。現時点での断定的な否定は、科学的懐疑主義ではなく、むしろ知的好奇心の欠如と言えるのでは?】

 カタカタカタカタ。猛烈なスピードでまだレスバトルをしていた。
 しかも、むちゃくちゃ専門用語連発しながら。
「おいおい、宇宙人探しっていう本題から外れてるだろ。ちょっとなんとか言ってやってくれよ」
 服部――。そう言おうとして服部の方を見ると。
「天網恢恢疎にして漏らさず。古来からそう言うが、なかなかどうにも見つからないな」
 信じられない高速で首を振りながら、次々に投稿をスクロールしている。
「服部さん、すごい勢いだけど、それちゃんと読めてるの?」
 安倍が目を丸くして驚く。
「高速で動いているように見えるけどあれは反対にものすっごいゆっくり動いてるんだよなあ〜、なあそう見えない? 見えてきたよな?」
 もうやけくそで俺はそう答えた。
「あまりにも情報量が多くて、精査するのも大変です〜」
 葉加瀬の言う通りだ。このままじゃラチが開かないな……。
「う〜む、それでは777不思議の一つ、噂の目安箱に頼ってみますかな」
「目安箱?」
 なんだそれ。
 っていうかまだ777不思議とか言ってるのか、こいつは。
「生徒会の目安箱だよね、特に失くし物は100%の確率で見つかるとか」
「宇宙人は失くし物じゃないだろ!」
 つい大声で安倍にツッコんでしまう。
 大体、目安箱て。今時まだそんなものがあるのか。
「でもさすがに100%というのは非科学的ですね〜、千里眼を持ってる訳でもないでしょうに」
 葉加瀬が言う。うんうん。あり得ないだろ、千里眼なんて。
 千里眼。……千里眼?

「話は聞かせてもらったあ!」

 その瞬間。
 ガラッとドアが開いて、入ってきたのは。
「千里先輩!?」
「宇宙人は存在する……インターネットにッ!」
「「「な、なんだってーーー!」」」
 男三人、まるで地球最後の日が訪れることを知ったと言わんばかりに声を揃える。
 なぜか女子は入ってこない。なぜだ。
「斎木殿、こちらの女人とお知り合いですかな?」
「ああ、この人は千里先輩」
「あたしは斎木千里。今言ってた生徒会の副会長。よろしくな!」
 間髪入れない千里先輩の自己紹介に、全員の時が止まる。
 そして。

「「「「ええーーー!」」」」

 驚きの声、重なる。
 いや、正確には各々、独自の悲鳴を上げていたのだが。
「ど、どういうことですかな斎木殿!」
「斎木君、結婚してたの?」
「待て、どうして結婚にまで飛躍する? きっとあ、姉に違いない、なあ、そうだろう斎木?」
「これは犯罪の匂いがします〜!」
 ああ、もう、だからあえて俺は名前だけで紹介したのに! 
 これくらいの未来を見通せずして、なにが千里眼か!
「いや、あのな、違うんだ、信じられないかもしれないが、本当に、偶然、たまたま、同じ名字なだけなんだよ」
「言い訳にしては苦しいですぞ!」
「ますます怪しいよね」
「な、姉なんだろう?」
「ワトソン君!」
 ワトソンは関係ないだろ。
 そのあと俺は懸命に言い訳を続け、どうにかみんなを説き伏せることに成功した。千里先輩は全然協力してくれなかったが。
「でも、あの生徒会の人が宇宙人探しに協力してくれるなら助かるよね」
 安倍が喜びの表情を浮かべる。
「そうだ! あたしに任せろ!」
「失せ物探しの達人ということは、千里先輩は占い師の眷属か?」
「けんぞく?」
 服部の言葉に千里先輩は首を傾げる。
 リアルであんまり使う人はいない言葉だもんな。
「ええ〜、わたしも占ってほしいです!」
「ありがたい話ですが、小生は辞退しまする。自分で自分の道を切り開くことをモットーとしているがゆえ」
 誰もお前を占うとは言ってないだろ。そして無駄にかっこいいのはなんだ。
「なかなか濃いメンツだな、オイ」
 千里先輩に肘でつっつかれる。いや、あんたも充分濃いんだが。
「わざわざみんなと合流する必要はあったんですか」
 小声で千里先輩に言う。
「あたしが掴んだ情報によれば、どうやらMIBが動き出しているらしい。それに、服部忍がどんな人間かも見ておきたかったしな」
 なるほど。
 千里先輩には、服部はどう映っているのだろう?

 各々自己紹介を済ませると、千里先輩はまず全員のパソコンに同時に、宇宙人に関する投稿を表示させた。いや、全員のパソコンだけではなく、情報室のパソコンすべてに表示させた。
 で、千里先輩が眼帯を外した。隠されていた目が現れる。
 普段見えている千里先輩の目は薄いブルーのような色だが、眼帯に覆われたその目は金色に輝いている。
「いわゆるオッド・アイというやつでござりまするか!」
「あ、これ、カラーコンタクト。はは」と千里先輩は言う。
「力はイメージで、イメージは力だから。想像しうることはすべて起こるから」
 千里先輩はなにからぶつぶつ呟いている。一体なにが始まるのか、みんなも固唾を飲んで見守っている。
 そして、目を閉じた千里先輩は。
「闇の帳(とばり)に閉ざされし我が隻眼よ! 今こそ、忌まわしきこの眼帯を解き放ち、真実を写す鏡となれ! 万象の理(ことわり)、森羅万象の過去、現在、未来! 時の鎖を断ち切り、星々の囁きを捉え、深淵に潜む真実を暴き出さん! 我が名において命ずる! 開眼せよ、全てを見通す《千里眼》!」
 突然、呪文を詠唱しだした! 
 なんで? 前はそんなことやってなかったのに! 
 みんなもあんぐりと口を開けて千里先輩を見つめている。
 っていうかなに、その厨二病的な呪文!
「うおおおお! これは血がたぎる、たぎりますぞ! 小生もいきますぞお!」
 ええ? なぜお前まで? 
 くるくる回りながら、秋葉も負けじと大声でなにかを唱え始める。
「三次元の重圧にも屈せぬ、我が豊満なる聖域(ボディ)よ! 幾星霜の夜を超え、積み重ねし知識(ゲームクリア数)と脂肪(マッスル)こそ我が力の源泉! 鳴り響け、我が胃袋の聖鐘(ゴング)よ! 脂よ、滴りて聖油となれ! 肉汁よ、溢れて生命の泉となれ! いざ、刮目せよ! これが我が魂の叫び! 《神々の晩餐(ゴッド・ディナー)! 》 !」
 なに言ってんのこいつ? 
 え、っていうかこれ収拾つけるの? 俺が?
「二人とも、最高にかっこいいです〜!」
「すごいよ! 僕にもそんなことができればいいのに」
「熱き魂のぶつかり合い、しかと見せてもらったぞ!」
 あ、勝手に収拾ついてる。
 むしろ秋葉のおかげで、千里先輩が特殊な人間だと怪しまれず済んでる……。
「斎木のところのパソコン、もう少しスクロールしてくれ」
 カッと目を見開いた千里先輩が言う。
 俺は頷き、どんどんスクロールしていく。
「そこっ! ほら、自称宇宙人たちがいっせいに投稿してるぞ」
「おお、本当だ」
 それは去年の6月24日だった。
「ふむ、いわゆるUFOの日というやつですな」
【今日は #UFOの日 だそうだな。 地球の皆が空を見上げ、未知との遭遇に想いを馳せる日…か。 案外、その「未知」はもう君たちのすぐそばにいるかもしれないぜ? 例えば…そう、この俺みたいにな。 #灰色暮霊 #ハイイログレイ #俺が宇宙人だ】
「灰色暮霊か〜、こいつ、結構人気あるんですよね」
 葉加瀬が呟く。そうか、葉加瀬もVTuberだもんな。その辺、肌で感じるものもあるだろう。
 ……VTuberってのは、別に女性だけじゃないんだな。
「なんか、宇宙人系VTuberも、いつの間にかたくさんいるねえ」
 安倍の言う通り、「#UFOの日」を調べると、次から次へとVTuberの投稿が出てきた。

【ヤッホー!みんな、今日は #UFOの日 なんだってね!  ってことは、キララみたいな宇宙人の日ってことじゃん?!イェーイ!  キララ、シリウスから地球に遊びに来てるんだ〜! みんなと早くお友達になりたいなっ☆  もし空飛ぶキラキラを見かけたら、それは私かもだよ!手振ってねー! #キララアストロメリア #星の民 #宇宙人VTuber】

【ふむ、本日地球暦6月24日は #UFOの日 であるか。 未確認飛行物体、ね。私からすれば、そのほとんどが「確認済み」なのだがな。 地球人類が我々のような存在を認識し、宇宙へと意識を向ける日というのは興味深い。 だが忘れるな。我々は常に君たちを観察している。…その進化の行く末を、な。 良き日だ。空でも見上げて、思考を巡らせるがいい。 #プロフェッサーゼノン #ウォッチャーの観察記録 #異星知性体】

【もにゅ〜…きょうは #UFOの日 なのじゃ? ゆーふぉーって、おいしいの? お空を飛ぶお菓子ですの…? もにゅも、お空ふわふわ〜って飛べるのじゃ! だから、もにゅも「ゆーふぉー」さんなのじゃ? 地球のごはん、おいしいから、ついつい長居しちゃうのじゃ〜。みんなも、もにゅを見かけたら、美味しいものくれると嬉しいですの〜 #もにゅふにゃあ #ふわふわ宇宙人 #UFO食べたい】

「これは自分たちのチャンネルの宣伝ですね〜」
「さすがは猫鈴凛ですな!」
 秋葉が茶化すと、葉加瀬は頬を赤く染めてしおしおと小さくなる。
「そういえば、最近スパチャが問題になってるらしいね」と安倍が言う。
「スパチャ?」
 千里先輩も、どうやらこの手の話には疎いようだ。
「スーパー・チャットの略だ、千里先輩。いわゆる投げ銭で、動画配信を行なっている人に、言伝や金銭を送ることができる」
 なんでスーパー・チャットは言えるんだ、お前。
「服部先輩、いつの間にか、かなり詳しくなりましたね〜」
「ああ、推しに課金しているうちにな。で、なにが問題なんだ、安倍」
「いつも高額な投げ銭を行ってる人に近づいて、自分にも高額な投げ銭をしてもらおうとする人たちがいるんだって。凛ちゃんは大丈夫だよね?」
「わたしは三次元世界では葉加瀬ですっ!」
 みんなが話しているのを、俺はぼんやり聞いていた。
 葉加瀬は三次元世界では葉加瀬だが、二次元世界では猫鈴凛になることができる。二次元では自由に見た目を変えられるわけだ。
 宇宙人型のVTuberたちも中身は人間なんだろう。
 そう思い込むことを逆手にとっているとしたら?
 木を隠すなら森の中。
 宇宙人を隠すなら? 
 宇宙人の中。
 陰謀は、隠し事は、いつの時代も堂々と行われる。
 まさか俺や千里先輩が超能力者で、服部が忍者だったなんて、誰も思っちゃいないように。
 それなら?  
 俺は心の中で思い浮かべていたことをいつの間にか口にしている。
「本物の宇宙人が、宇宙人のVTuberをやってるって可能性はないか?」
「いやいや、さすがにそんな」
 葉加瀬が手を横に振りながら否定する。
 だよなあ。俺がそう言いかけた時だった。
「それだ。斎木、間違いない」
 鋭い声で服部が言う。
 千里先輩が服部を見て、それから俺の方を一瞬見る。読心など使わずとも分かる。
(服部への注意を怠るな)
 そんなところだろう。分かっている。そんなことは。
「ふむ。我らが『世界は広シ探検隊』隊長、それから切り込み隊隊長の服部殿が言うのならその可能性は非常に高い。こりゃあ本格的に取りかからねばなりませぬなあ」
 珍しく秋葉も真面目モードだ。
「切込隊隊長……」
 服部が呟く。どこか嬉しそうなのは気のせいだろうか?
「あのなあ。俺のなんの確信もない話を、どうしてお前らはそう真に受けるかねえ」
 俺がそう呟くと、秋葉は笑いながらこう言った。
「宇宙人に確信が必要なら、我々が生まれて今ここでこうしているのにも確信が必要だと、斎木殿はおっしゃりますかな?」
 秋葉のくせに。
「良いこと言うね、秋葉君。僕もそう思うよ」
 にこりと安倍も笑う。それは俺が言う台詞だったんだぜ、安倍。
 秋葉だけじゃなく、お前までまるで俺の心を読めるみたいじゃないか。
「演繹的思考法にまったく沿っていませんね、まず前提となるデータが圧倒的に不足している。となるとわたしの嫌いな帰納的思考法で考えるしかないです。つまり、〈斎木先輩のことをレジェンダ・リーは信頼している〉→〈レジェンダ・リーをわたしは信頼している〉→〈よってわたしは残念ながら斎木先輩を信頼せざるを得ない〉→〈なにより服部先輩を信頼している!〉こういうことですね」
 全然意味分からんぞ。
「ふうん」
 にやにやと千里先輩が笑っている。なんだよ。
「いい仲間じゃん、斎木〜」
 そりゃどうも。
「ちなみに」と俺は言う。
「確信はないが、根拠ならある」
「根拠?」と安倍。
「そう。ちょっと馬鹿げた推察なのかもしれないが聞いてくれ。まず、身の回りに葉加瀬がいたことが大きかった」
「えっ? わたしですか?」
 予想外の俺の言葉に、なぜか頬を赤らめる葉加瀬。
「大胆だな、お前」
 千里先輩がにやにやしながら言う。
「あ、いや。そういう意味じゃなくて。葉加瀬っていう身近な存在がVTuberをやってるってことがヒントになったんだ」
「な、なんのことですか?」
 必死にしらばっくれようとする葉加瀬。
「誰もがとっくに知っているぞ」
 ぽん、と服部が葉加瀬の肩に手を置く。
「葉加瀬がVTuberになった姿を出してくれないか、秋葉」
「了解でござりまする!」
「ぎにゃ〜〜〜やめんかい〜〜〜!」
「葉加瀬ちゃんが変になってる……」
 葉加瀬を無視して、秋葉が触っているパソコンに猫鈴凛の姿が映し出される。
「まあ、これが小生の偉大な発明、Vキャラットによる美麗なデザインでござりまするな」
「ま、まあ? そりゃ、なんといってもわたしですし?」
 眼鏡をくい、としながらまんざらでもなさそうな葉加瀬。
「それだよ秋葉。Vキャラットってのはなんだっけ?」
「端的に言うと、カメラの前に立つことで、該当の人物の生態データを一瞬にして読み取り二次元化、そしてアバターを作成するツールでござりまするな」
「二次元化ってのは?」
「そうですなあ。まず二次元美少女が三次元のおなごとどう違うのか。これはなんと言ってもその巨大な頭部と巨大な目にありまする。それに簡略化、つまり記号化された鼻と口ですな。ハッ!? まさか斎木殿」
 みんなの頭にはまだ疑問符が浮かんでいるが、先に秋葉は気づいたようだ。
「試しにさ、頭髪のない二次元キャラをVキャラットで作って表示してくれないか?」
 秋葉が作り終えたVキャラットのデザインを見て、最初に声を上げたのは服部だった。
「これは……」
 そうだ。
「うわあ、これって」
 安倍が、感心するような口調で言う。
 まさしく。
「なるほどなっ」
 千里先輩は楽しそうだ。
「こ、これだけではただのこじつけと言える段階です。しかし……」
 葉加瀬はなにやら自前の小型ノートパソコンに色々と打ち込んでいる。
「まさしく、グレイですな」
 秋葉が頷く。
「実際、葉加瀬の言う通り、ただのこじつけっちゃこじつけさ。葉加瀬が猫鈴凛に姿を変えるように、普通の人だって誰でも好きな見た目のアニメキャラになれる時代だ。そもそも宇宙人が本当にグレイの姿をしているのかどうかなんて分からない。俺が言ってることは、空の雲がなにかの形に似ていた、とか、そんな他愛もない話にすぎない」
「牛に引かれて善光寺参り、だな。いいじゃないか、斎木」
 出た! だから、なにそのことわざ!
 っていうか、ことわざなのかそれ? 聞いたことないんだけど。
「なあ秋葉。ちなみに、たとえば犬や猫をVキャラットに映すとどうなる?」
「まあ、アバター化することもできなくはないと思いまするが」
「じゃあ、虫や木は?」
「その場合は難しいですな」
 ということは、宇宙人の見た目があまりにも想像できないものだとするなら、Vキャラットでアバター化することはできないということか。
「ちなみにグレイは?」
「もちろん試したことはござりませぬが、おそらく問題なくアバター生成できるかと」
「数うちゃ当たる、じゃないけど、この自称宇宙人のVTuberたちの配信に、なにかヒントみたいな言葉を書き込んでみるってのはどうだ?」
「ヒントみたいな言葉って? わーむほーるとか?」
 安倍が言う。
「うーん、もっと俺たちとその宇宙人にしか分からない共通の記号があれば」
「それなら一つ見落としてるぞ、斎木」と服部。
「え?」
「お前のスマートフォンに入ってきたものはなんだ?」
 そうか!
「アステロイド6!」
 そうと決まれば。
 俺たちは自称宇宙人たちが、いつこちらからのコメントを読み上げたりする配信をするのか調べることにする。
 調べる、と言っても、千里先輩が能力を使って一瞬で把握してくれた。
 当然みんなはそれに気づかず、千里先輩のことを熱烈なVTuberマニアだとして受け入れただけだったが。
「ところでさ」
 安倍がぽつりと言う。なんだ?
「僕、もう一人宇宙人VTuberに心当たりあるんだけど」
 もう一人? リストアップは済んだはずだが。
「こんなキテレツな連中が、まだいるっていうのか?」
「うん、その……」
 安倍が言ったその名前を聞いて、一同は口々に「そういえば!」と呟いた。
「よく考えれば、そうだったな」
「灯台下暗し。普通なら真っ先に思い当たるはずだが」
 服部が訝る。
「大正デモクラシー。これは胡乱でござりまするな」
 秋葉は眼鏡をくいと釣り上げる。
 葉加瀬も真似して眼鏡を釣り上げる。真似する要素あるか?
「スコトーマってやつだな」
 そう千里先輩は言う。
「スコトーマ?」
「えーと、なんていえばいいのか」
「視覚の盲点を指す言葉ですが、現在では心理的な盲点を指す言葉としても使われてますね」
 葉加瀬が解説してくれる。
「そう! それそれ! あたし、目に関する言葉は覚えるようにしてんだよね」
 覚えてなかったじゃん。
「ま、これで自称宇宙人たちは出揃ったわけだ」
 どうやら今晩、奇遇にもどの宇宙人VTuberも配信を行うらしい。
 秋葉と葉加瀬でそいつら全員のスーパーチャットに投稿してくれることになった。
 家に帰って、俺はそれぞれのVTuberの配信を回る。この中の誰かが本物の宇宙人かもしれない。宇宙人だったとして、どうなるんだ? 斎木堂はどうするのか? MIBとかいう連中は? 
 ……しかし、特にどのVTuberからもリアクションは特になかった。
 何度か秋葉と葉加瀬はコメントを投げてくれたが、それでも「アステロイド6」という言葉は、スーパーチャットの濁流に虚しく消えた。
「やっぱり、見当違いみたいだったようだな」
 今後の作戦を相談しようと持ちかけた秋葉との電話で、俺はそう答えた。
「うーむ。はっ、小生、妙案を閃きましたぞっ!」
「え、なになに」
「明日の放課後、またパソ研の部室でお会いしましょうぞ!」


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