遊線からの物体V 第25話
その翌日。
パソ研にて。
俺はわなわな震えていた。わなわなという言葉をリアルで使ったのは初めてだった。
「なあ」
「ん、なんだ(もちゃもちゃ)」
服部はなぜか三色団子を食べていた。
「あっはっは! 最高じゃんか!」
千里先輩は爆笑。
「お、思いのほか、似合ってるね」
安倍は間抜けなことを抜かし。
「ふっ、参りましたよ。その天才的な発想! しょせんわたしは凡人なんだとつくづく思わされてしまいますねっ……」
葉加瀬は負けてしまったにも関わらず爽やかなテニス・プレイヤー的アルカイック・スマイルを浮かべていた。
「どうでござりますかなっ! 小生の見事な宇宙人っぷりはあ!」
そこには、銀色の全身タイツに身をつつみ、腹をぶるぶる揺らしながら左に右に飛び跳ね、回転する奇妙な生物がいた。
「えっ、まさかこれが昨日言ってた……」
「そう、妙案にござりまする。斎木殿は、世界中で自分一人だけになったことがござりますかな?」
「は? え、いや、ないけど」
「世界中で一人になってしまった時、遠くの方に人間の影を見つけた。すると、思わず走り寄ったりしませんかな?」
「まあ、そりゃするけど」
「それと同じ理屈でござりまするな。題して、孤独な宇宙人誘き寄せ作戦、でござりまするっ!」
馬鹿?
馬鹿なのか?
人は頭が良すぎると、一周回って死ぬほど馬鹿になってしまったりするのか?
「しかし秋葉氏、これはまた見事な忍ぽ……あ、いや、技だな」
忍のあとに「ぽ」が来たら、もう次は「う」しかないじゃねえか!
「ええ。まったく恐ろしいです〜。まさかペッカム型擬態を用いるなんて!」
「ペッカム型擬態って?」
安倍が葉加瀬に訊ねる。
「擬態にもいろいろ種類があるのですが、いわゆる攻撃型擬態です。対象者になりすまして、近づいてきたところを捕食する……たとえばオオモズの仲間は、捕食対象の小鳥の鳴き真似をして、誘き寄せたところを襲ったりします〜」
「いやいや。擬態できてねえだろ。こんな宇宙人がいるか?」
「斎木ぃ、見たことないものを決めつけちゃいかんよ」
すっかり場に馴染んだ千里先輩にまで責められる。
俺?
俺が狂ってるのか?
その時だった。
パソ研の部室のドアが開いて、別の宇宙人が入ってきたのは。
一瞬、俺の頭の中に巨大なクエスチョンマークが浮かんだ。
え? もしかして無事に成功?
まさか。
っていうか、あれ?
宇宙人? 来ちゃった?
こんな場合どうすりゃいいんだっけ?
俺は無意識のうちに、読心を発動させていた。
(?)
(?)
秋葉、安倍ともになんの言葉も浮かんでいなかった。
虚を突かれた。まさにそんな感じだったに違いない。
入ってきた宇宙人の心は読み取れなかった。
ということは宇宙人は女?
というか、そもそも宇宙人の心なんて読み取れるものなのか?
心はあるのか?
同時に次々といろんなことを俺は考えた。
瞬間。ネットが発射された。
秋葉に。
「宇宙人、発見!」
女の声が聞こえた。
いつの間にか入ってきた銀色の宇宙人の隣に女たちがいた。
MIB! 腕章が見えた。
あの時、研究所跡地で見かけたやつらだった。
その中に一人だけ、服装の違う女がいた。和装で、百合の花を思わせる白い肌をした女だった。
「去鳶(さるとび)っ!」
服部が鋭い声を放った。
「服部姉さん」
女もまた服部を知っているようだった。
「MIB!」
千里先輩が眼帯を外した。
「斎木堂なんかとつるんで。忍は悲しいです、よよよ」
女は泣くふりをしておどけた。忍? あいつも服部と同じ名前?
ということは、俺たち斎木堂と同じようなシステムなのか。
「いまさら争うつもりはありません。こうして本物の宇宙人も無事手に入れたことですし」
女がなにかを地面に叩きつけると、もうもうと煙が立ち上った。
煙幕!
「逃がすか!」
「うかつに追っちゃ駄目だ、千里先輩! どんな罠を連中が仕掛けているか分からない!」
煙幕の中を果敢に進もうとする千里先輩を、服部が引き止める。
「なにがどうなってるんですかっ!」
葉加瀬は悲鳴を上げる。
(秋葉くん!)
安倍の、自分の身よりも秋葉を心配する心の声が聞こえる。くそっ! MIBの連中が男だったら、もう少し色々と状況を読み取れるのに!
いざって時に、俺の能力は全然役に立たないじゃないか。
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