遊線からの物体V 第22話
「じゃあ、次は服部先輩の番です!」
「えっ。わ、私もやるのか?」
「もちろんです!」
じり。ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて眼鏡を光らせながら(どうやってるんだ?)、葉加瀬が服部に近づく。
「おいおい。まさか全員で推理役を回していくのか?」
「三人寄れば文殊の知恵と言いますからな」
「せ、船頭多くして船山に登るとも言うのだが」
服部が珍しく焦っているので面白い。
「「「「さあ!」」」」
みんなの声が揃う。俺もついつい乗っかってしまう。
楽しい。
そんな気持ちの中で、俺にはやはり後ろめたい気持ちがあった。
服部は宇宙人とつながりはないのか。
あのMIBとかいう謎の組織。
こんなにふざけて遊んでいられる仲間が、潔白である証拠を見つけたかった。
「む。そうだな……。宇宙人の目的といえば、侵略だろうな」
だが、服部の答えは予想よりも物騒だった。
MIBの連中ならそう答えるだろう。
大体、服部が正直に答えてくれているかも分からない。疑心は、一度生じるといつまでも付きまとう。厄介なものだった。
(それで何度も繰り返し失敗してきた。今、こうして一緒にいるこいつらだって、たとえば俺の能力のことを知れば)
この考えもまた、何度も繰り返してきたのだった。
「映画とかだと、そうだよねえ」
安倍の声で、俺は堂々巡りの思考を打ち切り、会話に戻ることができた。
「ふむ。かのホーキング博士も、宇宙人は侵略を目的に訪れると言ってましたな」
「コロンブスがアメリカ大陸にやってきたようになるだろう……でしたっけ?」
「へえ、そうなのか」
ホーキングが誰なのかよく分からないが、とりあえず秋葉と葉加瀬に話を合わせる。そうしないと、どうせまた脱線が始まるからな。
「うむ。それで、なんだが」
服部がみんなの顔を見回す。深刻そうな表情だ。
もしかして、なにか打ち明けるつもりなのか?
「腹が減っては戦はできぬ、というだろう? 武士は食わねど高楊枝、こういう言い回しもあるが、宇宙人は武士じゃない。な?」
な? って言われても。
「まあ、そりゃ宇宙人は武士じゃないだろうな」
知らんけど。武士型宇宙人。まったく想像がつかない。
「幽霊ならいるだろうけどね」
安倍が苦笑いすると、
「それが最近の研究結果では、幽霊にも寿命があるそうで。なんでも関ヶ原付近での落武者の亡霊の目撃例が激減しているとか」と秋葉が答える。
「なるほど。存在にはエネルギーが必要ですからね。幽霊といえど、なんらかのエネルギー体であることに代わりはないわけで。とすると、あながちライヒの発見したオルゴン・エネルギーも眉唾ではないのかもしれません……」
「あのー、情報が多すぎるんだけど」
仕方なくツッコミを入れる。
な? すぐ脱線しやがる、こいつらときたら。
「それで、武士ではない宇宙人も、腹が減っては侵略できぬ、という話でござりましたな?」
しれっと。話を脱線させた一番の戦犯が、また話を元に戻す。
こいつ、分かっててやってるな?
「うむ、そうだ。だからだな、宇宙人を見つけるにはつまり――」
ああ、なんか嫌な予感がする。
「飲食店で待ち伏せするのが一番だろうっ!」
くわっ! そんな効果音さえ書き足したくなるようなキメ顔で、服部はそう言い放った。
「あのな、服部。飲食店てさ。日本にどれだけあると思ってるんだ? っていうか宇宙人って飯食うのか? 食うか。エネルギー体だもんな。エネルギー体とか言う言葉を当たり前に使うな。でも同じ飯を食うかどうか分からないよな。そもそも飯を食うことでエネルギーを補給するかどうかも分からん。植物みたいに光合成する可能性だってある。よしんば飲食店を訪れたとして、金は持ってるのか? 姿は? 人の姿に化けられるのか? 家はあるのか? 家なんて借りられるのか? どうなんだ? どうなんだあああああ!」
「お、落ち着いてよ斎木君。よしんば、とか言ってるよ」
安倍が慌てふためく。
「壊れました〜」と葉加瀬が言う。
「葉加瀬クンがオルゴン・エネルギーなんてものを持ち出すからですぞ!」
「そこじゃねえ!」
「はっはっは!」
「よしんば、とは雅な。いわゆる大和言葉というやつだな」
感心した、とでも言わんばかりの表情を浮かべる服部。
はあ……。
一気に疲れた。
「大丈夫だ、斎木。確かに飲食店をすべて当たっていくとなれば、多事多難だろう。しかし、冷静に考えれば的は絞れる」
「ほう。というと?」
「ラーメンだ」
「へ?」
「ラーメン。ラーメンなら人目を気にすることのない深夜帯にやってるだろう。帽子を目深に被ったりすれば気にならない。それにな、ラーメン。食べたことあるだろう?」
「ま、まあ」
そりゃあるけど。
「今やラーメンはそのあまりの美味さから、国民食としてその名を天地に轟かせているのであって、ということは、宇宙にまでその美味さというものは知れ渡っていることは間違いないんだ!」
「ちょ、ちょっと待て。ラーメンが美味いのは認めるが」
「らーめん……」
服部さん? 目がキラキラしてどっかイッちゃってますけど?
「服部さん、ラーメンが好きなんだね」
「意外でござりまするが、確かにラーメンはカレー、ハンバーグと肩を並べる日本三大国民食! 食べたことのない日本人はほぼ皆無でしょうなあ」
「服部先輩、なんかかわいいです……」
聞いてないし。
「ラーメンというのも悪くないですが、小生、宇宙人なら焼きそばの方が確率は高いと睨んでおりまする」
「……一応聞いとくけど、なんで?」
「UFO!」
指を天に突き上げて、ぶるぶる腹を震わせて秋葉はそう言った。
聞くんじゃなかった。
「いや、あながち間違いじゃないかもしれんな」
服部が顎に手を添えながら、考え込む素振りを見せる。
「あ! なるほど。確かにですっ」
葉加瀬も同意する。
「食事をしている時は、寝ている時や排泄している時と同じくらいあんさ……あ、いや、油断していて危険な時だ」
あんさ?
それ絶対、次に来る言葉「つ」だよね?
また物騒な言葉が飛び出してきそうだったが、それはともかく服部の言うことは一理ある。
「そうだな。大体、食事なんて俺はいつもカップ麺だしな」
「カップ麺……深夜も営業している……その他もろもろ、なんでも手に入る場所……」
ホームズ(葉加瀬)が、なにやらぶつぶつ呟く。
「むっ、食料や日用品を中心に取り揃えた小売店か!」
服部が答える。
そこまで言えるならコンビニって言えよ!
「キターーー!」
いにしえのネットミーム的な勢いで、秋葉が叫ぶ。
「ちょい待て待て。根本的な問題が解決してない」
「そっか。宇宙人はそもそも食事をするのか、だね」と安倍。
「そんなものは聞いてみればすべて解決するでござりまする!」
「はあ? 誰に?」
「ヘイ、アステロイド6! 宇宙人はご飯食べる?」
その喋り方で通じるのは、某リンゴマークのスマホに搭載されてるやつだけだろ。
「宇宙人gaなにを定義するかによりますが、私のマスターniついてnoご質問であれば、その答えhaノーでありイエスです」
答えるんかい!
「どういうことだ?」
「ノーでありイエスであるということについて詳しく、かつ科学的な知識がほとんど皆無であるだろう愚鈍な斎木先輩にも分かるように教えてっ」
「優しいな、葉加瀬。配慮が行き届いている」
にこり、と服部が笑う。
「えへへー、ありがとうございます〜」
配慮なのか? 普通に悪口じゃないか?
俺の葛藤をよそに、アステロイド6は話し始める。
「たとえばお花。肉や魚を食べたりせず、光で生きてるよね! それと同じで、マスターも今の斎木くんには絶対理解できないエネルギーで生きてるんだ。でもさ、君だってお菓子食べるだろ? 間抜け顔でばりぼりむさぼるよね? お菓子って生きてく上で必要かな? いらないよね? でも食べる。観光地に行ったらそこのもの、食べたりするよね? そういうこと。ラーメンとかは、まさに人間の食べ物、って感じで好きかもね、マスター」
「はいはい。おかげでよく分かりました。ついでになんだが、マスターは部屋を借りたりすることなんてできるのか?」
「あなたno質問no意図ha、どうやって人間no目wo欺けるのか、というところni集約されると思います。方法haいくらでもあります。たとえば今noあなたたちのようni擬態すること」
「擬態?」
「もしかして、この服のことですかね?」
「確かに、コスプレも擬態といえば擬態だね」
安倍が笑う。
「たとえば、ということは、他にもまだ方法があったりするのでござりまするか? あれ、おーい。反応しなくなりましたな」
「矢継ぎ早に色々と尋ねるからだ。機械も疲れたんだろう」と服部。
「結論としては、コンビニだって使うっちゃ使う可能性があるってことか。でもどのみち、張り込みなんて不可能だな」
「では、次は安倍氏の番ですぞ!」
「え、僕もやるのか。うーん、そうだなあ。さっきまでの話を聞いて考えたんだけど。侵略に来たっていうより、もしかすると観光に来た可能性もあるんじゃないかな、って思ってて」
「観光か。なるほど。動物園を見に行く、みたいな感じだよな?」
「あはは。そこまで言ってないけど。でも、本当に別の星からやってきたんなら、そんな技術を持ってる以上、地球よりは絶対上なわけで。でも、まだ地球は滅んでないでしょ? だから侵略じゃないんじゃないかな」
こいつが一番物騒なこと言うな。
「それで、日本にいるって話だったよね。もちろん食文化も魅力的だけど、四季だって魅力的だし」
「桜や紅葉。神社仏閣。外国人観光客も急に増えてますしね」
葉加瀬が腕を組み、うむむと考える。
「そうかっ! ラーメンではなく、寿司という線も見逃せないかもしれないぞ」
お前はまだそんなところにいるのか、服部。
「日本はやっぱり魚が美味いですからな。次の我々の合宿は、山ではなく海ですな!」
「いいね!」
「わ、楽しみです〜!」
「待て待て待て」
こいつらは。ま〜たすぐ脱線しやがる。
「海なんて探し切れるわけないだろ」
「あはは、そうだよね」
安倍が苦笑する。
「日焼けも気になりますしな!」
誰が秋葉の日焼けを気にするというのか。
「でも、今は海にもあちこちにライブカメラがあるので、なにかが映り込んだりするとネットで話題になったりしますよね〜」
「うむ。凄い時代だな、本当に。しかし、論より証拠。百聞は一見にしかず。この目で見届けたものだけが真実だ、と私は思いたいがな」
「こうして考えてみると、宇宙人を見つけるのって、なかなか難しいね」
うーん、と。安倍は考え込む。
「その難易度マックスのミッションを! いともたやすくクリアしてしまうのがあ!」
あ、嫌な予感。なんかハイテンションが売りの芸人みたいな感じで秋葉が話し始める。
「我らが、世界は広シ探検隊隊長! 斎木殿ですぞおっ!」
あーほら、やっぱり予感的中。最悪だ。
「否定的な意見ばかりでしたから、さぞ建設的な意見をお聞かせいただけるんでしょうね〜?」
「期待してるぞ、斎木」
ぽむ。服部が俺の肩に手を置く。
「そっか、斎木くんが残ってたんだ。安心だね!」
なにが安心だ。
はあ、まったく。俺はしばし思案する。
そして提案する。
「あのさ、ごめん。やっぱり宇宙人を俺たちが見つける、なんてのは無理なんだと思う」
「ええ〜! 斎木先輩が言い出しっぺじゃないですか〜!」
「まあまあ、葉加瀬クン。なにも考えずに斎木殿がこんなことをおっしゃるはずがないではござりませぬか」
「うむ。木を見て森を見ず。斎木には、なにか大きな考えがあるに違いない」
いや、ぜんっぜんなにも考えてないんだが。
仕方ない。
「俺たち五人で探して見つけるには、あまりにも探索範囲が広すぎるだろ? それなら、もっと参加してくれる人数を増やせばいいんじゃないか、と思ったんだが」
「参加する人数を増やす?」
「つまり、世界は広シ探検隊の増員ですな!」
「えー、このメンバーでもう十分ですよ〜」
「いわゆる烏合の衆にならねばよいが」
全員の言葉を無視して俺は続きを話す。
「さっきの葉加瀬のライブカメラの話で思ったんだが、ようするに監視者を増やせばその分だけ宇宙人を発見できる確率は上がる。だから、そうだな。たとえば」
「たとえば?」
安倍がキラキラした目で見つめる。
「は、張り紙……するとか」
「ぷっ、張り紙って! あのね〜斎木先輩、あなたは江戸時代の人間ですか?」
いや、待て。張り紙くらいまだあるだろ!
「逃げ出した愛玩動物を探している、みたいなものならば今でもたまに見るんだがな」
そうそう! 分かってるじゃないか服部。
でも愛玩動物は「ペット」でいいと思うぞ。
「もしくは指名手配ですか? この顔にピンときたら! で、その顔がグレイの顔? イタズラだと思われるのがオチですよ〜」
辛辣な意見どうもありがとう、葉加瀬ちゃんよお!
俺はぐぬぬと歯がみする。
「ま、まあまあ。それでも、自分たちの足で全部探していくよりはマシだと思うんだけど、秋葉君はどう思う?」
「ふっ。斎木殿がそれほど単純なわけはあるまいて」
こ、こいつは俺を助けてるのか?
それともハードルを上げてるのか?
ともかく、こうして話している間に思いついたことがあるので、そいつを話すことにする。
「そうだな。張り紙、というと語弊があったかもな。現代の張り紙といえばSNSだ。俺はあんまり投稿とかするタイプじゃないが、それでもたまに覗いたりはする。で、時々、人が探し物をしている印象がある。だから、なにかバズるような仕掛けをして、目撃情報を募るとか」
「なるほど! さすがは斎木殿でござりまするな」
「まあ、確かにネットを使うのは賛成です〜。でも、実際のところは厳しいとは思います」
「どうしてだ?」と服部。
「逆に、集まりすぎてしまうことを懸念しておるのですな、葉加瀬クン」
葉加瀬が頷く。
情報が集まりすぎる? どういうことだ?
「ふむ。皆さんは、最初のUFO目撃事件というものをご存知ですかな? 1947年、アメリカの実業家のケネス・アーノルド氏が自家用ジェット機で飛んでいる時に、鎖のように一直線につながった九個の、高速で飛行する奇妙な物体を目撃したんですな。すわ、これはなんじゃ! ということでマスコミに発表しまして」
ほうほう。
「その時、ケネスさんは『まるで、水面を跳ねるコーヒー皿みたいな飛び方をしてたぜ、ハッハッハ!』と言ったのですが、その『コーヒー皿みたいな飛び方』という部分が、これ伝言ゲームの妙ですなあ、『コーヒー皿みたいな飛行物体』というように、報道の際、歪曲されまして。以来、『コーヒー皿みたいな飛行物体』、つまり空飛ぶ円盤の目撃情報は急増したんだとか。また!」
なるほどな。っていうかまだあるのか。
「1961年、こちらはヒル夫妻誘拐事件として有名ですが、そのヒル夫妻が車を走らせてたところ、空飛ぶ円盤を目撃。詳細は割愛しますが、彼らは宇宙人に連れ去られたと主張するんですな。それで、その連れ去った宇宙人というのがいわゆるグレイ型とされている宇宙人だったのでござりますが、それまで宇宙人のイメージというのは、タコみたいな形のものが主流だったわけですな」
「ところが、今ではグレイ型のものばかり目撃されている……」
葉加瀬が、顎に手を当てて真剣に考え込む。
「つまり、UFOどころか宇宙人自体、存在が怪しいってことだよね」
安倍が言う。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花。いわゆる一つの、集団幻覚と位置づけることもできそうだな」
ううむ、と唸って服部。
「でも、そのケネスってやつは、未確認飛行物体自体は目撃したんだろ? それはなんだったんだ?」
「さすが斎木殿。まさにそこなんでござりますなあ」
「軍の新兵器を運用していたと考えるのが無難ですかね。しかし、なにか妙に引っかかるところがあります」
「それは?」と俺は葉加瀬に訊ねる。
「だから〜、それが分からないからこうして、頭を悩ませてるんじゃないですかっ!」
そりゃごもっとも。すまんかった。
「しかし、私には難しいことは分からないが、こうして現にアステロイド6という、秋葉や葉加瀬からしても驚くべき性能を秘めたからくりがある以上、我々の想像を超えた何者かが関係している、と考えた方がいい」
「じっちゃんの名にかけて、これだけは言えますな。インターネットが普及した現代では、仕事も食事も娯楽も、すべて自宅で完結してしまいまする。現代の、しかもこの平和な日本という国は、非常に宇宙人にとって棲みやすい環境であると言えるでしょう。真実はいつも一つ!」
なんか、色々混じってるぞ……?
「可能性は低いかもだけど、見つかればラッキー、くらいでさ。みんなでSNSとか使って、探してみる?」
「そうだな、安倍の言う通りだ。ちなみにみんな、SNSなんてやってるのか?」
「私はやってないな。ロム専だ」と服部。
ロム専て。古いぞ。っていうかそこは英語で言えるんかい。
「僕はやってるよ!」
差し出された画面を見る。フォロワー数は200。
多いのか? 少ないのか? 俺もやってないからよく分からん。
「小生は投稿用と情報収集用で使い分けておりまするな。葉加瀬クンはほれ、猫鈴凛のアカウントが――」
「わ〜! やめて下さい! ここはリアル・スペースなんですからっ!」
「ふむ。協力はできない、ということでござりますかな?」
「……いえ。協力させていただきますぅ」
目に見えない力=圧力がかかったみたいだ。
なんにせよ、各自のアカウントで、それぞれ「ハッシュタグ」なるものを用いて、宇宙人に関する目撃情報を募ることにした。
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