遊線からの物体V 第32話
俺たちは改めて磐座の周囲に集まる。
「しかし、一体こんなものを使ってなにをしようってんだ」
「おそらくこれもUFOなのでござりましょうな。隕石に込められた宇宙エネルギーが時空の偏在をうんたらかんたら」
自分で言ってて飽きてる秋葉。
「情報生命体にUFOなんて必要なのか?」
しれっと。千里先輩が一番聞きたいことを聞いてくれる。
すると。
「必要ないですヨ?」と星緑。
「え、じゃあ、これはなんなの?」
安倍が巨石を指差す。
「? これは隕石ですネ」
「だから、その隕石の宇宙エネルギーだかなんだかを利用するんだろう」
「斎木先輩。宇宙エネルギーなんて言う大雑把なエネルギーは存在しません」
俺の言葉に葉加瀬がツッコむ。
いや待て、お前の尊敬するレジェンダ・リーが先に言ってただろ!
「あ〜、これは単純に見てみたかっただけでス」
「へ?」
「じゃあ、湖を割ったのは?」
「かっこイいかナ、って」
「え? 目的は?」
「だから〜最初に言ったじゃないでスか、アステロイド6があった場所を見てみたいっテ。でもバスの中で服部さンのお話を聞くと、たぶんそこにはMIBって組織がすでに訪れてるだろうから、本体は回収されているに違いないって言うシ〜」
ああ、そんな話してたな。
「え、じゃあ、なんでここに来たの?」
「そノ時、隕石が落ちた話をしてたカら。まア、観光つイでに見てやロうか、って。でも〜〜、なんカ不気味でしたね、こレ」
どこからか話がこんがらがってる……。
「じゃあ、まったく無意味だったってことか」
「いえ、そうでもありませんヨ」
「え?」
「気づきました。ワレワレがどうすればよいノか。斎木さン、アステロイド6をいただいてもいいですカ?」
俺は頷き、スマホを取り出して、アプリをタップする。
泳ぎ回るイルカが現れる。
「マスター、よくぞ無事de」
機械的な音声と、吹き出しの中にテロップが浮かび上がる。
「ああ、どうぞもらってくれ。こっちは大いに助かるよ」
時々夜中に勝手に立ち上がってはいろいろ喋ったりしてたんだよな。
「で、一体どうすんだ?」
千里先輩が言う。
「さっき、あのイタコとイう女を見ているうちに気づいタんだけど、あれってまさシく2050年以降の人間そノもノなんですよネ。世界ガ一斉にデジタル化した原因ってノははっきりと分からなクて、これハ未来の都市伝説なンだけド、その中ニ『斎木堂』の名前が出てくるんでス。不老不死を目指した女によっテ設立された、表向きハ宗教団体。そノ実、超能力とITノ融合を目指した科学者たチによる秘密結社だっテ」
「確かに、彼女の主張と星緑さんの話にリンクするところはいくつもありますね。それにあのロボット。レジェンダ・リーくらいの知性でなんとか現状形にできるような、凄まじいレベルのものでした」
眼鏡をくい、と指で押し上げて葉加瀬が言う。
いや、凄すぎるだろレジェンダ・リー。あれ作れんの?
「ま、真実ハ分かりません。ワレワレに分かったのは一つ。それは、命を手に入れる必要があるということです」
「命を手に入れる必要?」
服部が、星緑の言葉を繰り返す。
「それってどういうこと?」
安倍が訊ねる。
「ワレワレはワレワレ自身にイつ爆発するか分からナい時限爆弾ノようなものを組み込むわけでス」
「それって……」
葉加瀬が息を呑む。
「つまり、端的に言うと、ウイルスを自分に打ち込むということですかな?」と秋葉が言う。
「ウイルスを自分に? そんなの」
自殺行為じゃないか。
慌ててその言葉を飲み込むが、星緑は察している。
「お伝えしたようニ、ワレワレが手に入れた永遠ノ命とはつまり死そノもノでしタ。しかし、寿命を設定し、死を手ニ入れることにヨって、反対にワレワレは時間ヲ取り戻し、命を獲得スることができル。ウイルスこそガ、ワレワレにとってワクチンであル。そう気づいたのでス」
分かっている。理屈では。
それでも。
「怖くないのか? 失われるはずのなかった自分が失われるということが」
「あナたたちは未来ヲ恐れていますカ?」
しれっと、かわいく小首を傾げて。星緑はそう言う。
は、っと気づく。
それから俺は周りを見渡す。
服部。
安倍。
秋葉。
葉加瀬。
千里先輩。
もし自分の命に限りがなかったら。
冒険は冒険足り得るだろうか?
俺はこいつらと出会い、過ごしてきただろうか?
どんなアニメや漫画にも終わりがある。
だから人は始める。
新しい物語を。自分たちで。
終わりのない楽園。それは地獄と変わらないのかもしれない。
「世界初! 寿命のあるVTuber。どでスかこれ、面白そうでショ?」
「アナログとデジタルの融合でござりますか。いやしかし、似たようなことを小生は考えておりましたな……」
むう、と唸りながらどうやら色々と秋葉は考えていそうだ。
「それでハみなさん、お世話になりましタ。楽しかったでス。アステロイド6!」
星緑が呼びかけると、イルカは注射器の形に変貌する。
自ら死を選ぶ彼女に、なにを言おうか。きっと誰もがそう思ったに違いない。
そして、誰もなにも言えなかった。
その崇高な決意に、どんな言葉を費やすことができようか。
ただ、目を逸らさず、俺たちはしっかりと星緑を、この風変わりな宇宙人であり、未来の人類を見つめる。
そして――。
星緑は、地上から姿を消した。
「ところでさ」
今言うことじゃないかもしれない。
でも、今言わなければいけないことがあった。
「どうしたの? 斎木君」
涙ぐんでいた安倍が、穏やかな顔を作って俺に訊ねる。
「この水って、なんで干上がってるんだっけ?」
「星緑殿が割ってませんでしたかな?」
「科学的にあり得ませんよね〜」
「実はさ〜斎木、あたし、ちょっと視えちゃったんだよね」
ゴゴゴゴゴ!
うん、やっぱりなんか、嫌な音がしてるよね。
「焦眉の急、だな」
服部のその言葉を合図に、俺たちは猛ダッシュで岸へ向かった。
左右から、巨大な水の塊が押し寄せてきていた。
そりゃ元に戻るよな、湖!
だって湖だから!
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