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🌱【妄想小説】0.1ミリが五十男を救う

私は今、怪人に捕らえられている。

なぜここにいるんだ!?思い出せない。

私はまず「なぜここにいるのか」を思い出そうとして、それが無駄な努力であることに気づいた。五十代になると、なぜここにいるのか分からない場所に立っていることは珍しくない。冷蔵庫の前で何を取りに来たのか忘れる。二階に上がって用件を忘れる。自分の名前は覚えているが、それはたまたまであって、明日には自信がない。だから拉致監禁くらいでは動じなくなる(動じないことが果たして精神的成長なのか、単なる劣化なのかは、いまだに結論が出ていない)。

怪人が言うには、彼は美しい文字を嫌っているのだという。世の中には妙なことに執着する者がいるものだ、と私は思った。しかし考えてみれば、私も長年「妻の書く買い物メモの字が読めない」ことに執着してきた。「ねぎ」なのか「ねじ」なのか判別できず、ホームセンターと八百屋をはしごしたこともある。人のことは言えないのである。むしろ怪人とは気が合うかもしれない、とすら思った。私はしばしばこういう楽観をする。そしてこういう楽観こそが人を破滅させるということを、私はこの日、身をもって学ぶことになる。

そこへ助けにやってきたのが、悪と闘う女性スーパー戦隊『烈火戦隊カレンジャー』であった。四人の可憐な彼女たちはパンツをモチーフにした戦隊で、頭に被っているマスクはパンツをモチーフにしており、まるでパンツを被っているように見える。いや、「まるで」ではない。被っているのである。私は助けが来たことを喜ぶべきだったが、喜びよりも先に「どこを見ればいいのか」という問題に直面した。彼女たちの決めポーズは、漢字の部首の烈火(れんが、灬)のように、四人が順に美しく並び、「私たちは縁の下の力持ちなのよ」と叫ぶ。美しく並ばれても、私の視線は行き場を失ったまま宙をさまよっていた(助けに来た人の頭部を直視できないというのは、長い人生でもそうそうない経験である)。

私たちは縁の下の力持ちなのよ

ちなみに私はパンツの色でいえば、四人の中の「白」が一番好きである。この情報が何の役に立つのかと問われれば、何の役にも立たないと答えるほかない。だが人間、こういう不要不急の好みを表明したくなる瞬間があるのだ。ちょうど、聞かれてもいないのに「実は私、卵焼きは甘い派なんですよ」と言いたくなるのと同じである。誰も得をしない。それでも言いたい。それが人間というものだ、と私は思うが、妻に言わせれば「それはあなただけ」だそうである。

しかし敵は強かった。四人の戦隊は苦戦し、地に膝をつき、絶体絶命である。私も一緒に絶望した。膝はつかなかったが、それは私がすでに縛られていて膝をつく自由すらなかったからで、心はとうに膝をついていた。

つ、強すぎるわ……

諦めかけたそのとき、一人の女性が現れた。黒のストレートロングヘア、黒いドレス、身長よりも長い鉛筆のような武器を持った美しい女性。よく見ると、赤いパンツがドレスのスリットから見えている。私は視線をどこに置くべきか本気で悩んだ(この年齢になると、視線の置き場所を一つ間違えただけで社会的に葬られるということを、骨身に染みて理解している)。

ちょっと待って!

敵なのか味方なのか分からない。私は妻が機嫌がいいのか悪いのか分からないまま二十年以上生き延びてきたので、この種の不安には慣れていると自負していた。しかし慣れというのは万能ではない。妻の機嫌と違って、この女性は武器を持っているのである。

その女性が口を開いた。

「その字……0.1ミリの差が分からないの?」

敵が一瞬ひるんだ。私もひるんだ。0.1ミリなど、私は老眼鏡をかけても見えない。

「ひらがなに一切の妥協なしよ!」

彼女は鉛筆を一閃させた。怪人が「ぐわあ」と倒れる。倒れながらも「そんな細かいことを……」と抗議していたが、彼女は冷たく言い放った。

「そんなとこ? そう、そんなとこほど美しいのよ」

なるほど、と私は妙に納得した。妻の字が読めないのも、案外そういう繊細な世界の話なのかもしれない。読めないのではなく、私が0.1ミリを見落としているだけなのかもしれない(この解釈は自分に都合が良すぎるので後で撤回した)。

膝をついていた四人の戦隊が、彼女の言葉に力を得て立ち上がる。

「線のうねりに興奮してきたでしょ?」

彼女がそう言った瞬間、なぜか味方の四人まで頬を赤らめた。敵は敵で「な、なんだこの気迫は」と後ずさりしている。私はといえば、字の話をしているはずなのに、どうしてこんなに官能的に聞こえるのか、真剣に考え込んでいた(考え込んでいる場合ではなかった)。

「ひらがなには色気があるの。ふくらんで、反って、ほんの少しうねるの……」

ひらがなに色気って、何なんだ!

怪人が「やめろ、やめてくれ」と耳を塞いだ。美しい文字を嫌う怪人にとって、これは物理攻撃よりも効くらしい。字の美しさを情感たっぷりに語られることが、彼にとっての最大の弱点だったのだ。弱点の設定としてはかなり珍しい部類に入る。

「もう少し悶々としていたいのだけれど」と彼女は残念そうに言い、それから戦隊の四人を振り返った。「あなたたち、私にはお手本がないの。でもね、字は心の鏡。嘘はないのよ」

四人が涙ぐんだ。私ももらい泣きしそうになった。何に感動しているのか自分でも分からなかったが、感動というのは理屈ではないのである。

「きれいは……そう、自分の心に求めるものよ!」

その一言で、四人の戦隊は完全に息を吹き返した。

そして誰かが気づいた。この戦隊にはレッドがいない。四人しかいないのだ。赤いパンツの彼女こそ、空席のレッドにふさわしいのではないか。

赤いパンツは伏線だったのである。伏線というより、ほぼ答えが最初からドレスのスリットから見えていたわけだが、そこは深く追及しないでおく(人生には追及してはいけないことがいくつかある)。

彼女が戦隊に合流し、変身しようとしたそのとき、ふと動きを止めてこう言った。

「そんな堅苦しいレンジャースーツより、こっちの方がかわいいわ」

彼女が鉛筆を一振りすると、その光が四人を包み、いつのまにか露出度の高い格好に変身させていた。

えっ、この格好、恥ずいんだけど!
さて、私もチェンジ!
こういうの、やってみたかったの!

四人は最初こそ自分の姿を見下ろして戸惑っていたが、次の瞬間にはすっかりのりのりで、ハートマークをつくったりピースしたりと、それぞれ思い思いのポーズを決めていた。切り替えの早さに私はむしろ感心した(人間、恥じらいと開き直りのあいだにはほんの一秒しかないのだと、このとき学んだ)。

五人が力を合わせ、美しい文字を嫌う怪人はついに倒された。最後まで「美文字などっ……」と呻いていたが、その断末魔にも彼女は容赦なく「あなたの『美』の字、おちょんちょんが甘いのよ」と一言添えていた。怪人は跡形もなく消えた。

戦いが終わると、彼女は再び美文字修行のために旅立っていった。四人の戦隊と私は、その後ろ姿を並んで見送った。

私は解放されたわけだが、なぜ最初に捕らえられたのかは結局分からずじまいである。まあいい。分からないことに慣れているというのは、こういうとき地味に役立つ。

帰りに妻から「スクショして送った買い物メモ、ちゃんと読めた?」とLINEが届いた。読めなかった、とは言えなかった。0.1ミリの差が分からない私が悪いのである。そういうことにしておいた。そういうことにしておかないと、家庭に平和は訪れないのだと、赤いパンツの『ながのえり』が教えてくれた。

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