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ゲーミフィケーションは、管理を楽しくするためではなく再現性を高めるためにある

以前、若手営業職が評価指標にゲームのポイント制を提案したところ、上司から「遊び感覚で仕事をするな」と一蹴された、という話を読んだことがある。

その話を読んだとき、少し引っかかった。

たしかに、「仕事をゲームにする」と聞くと軽く見えるかもしれない。
仕事を楽しくするための工夫だと受け取られることもあると思う。

ただ、本人は本当に、ただ仕事を楽しくしたかっただけなのだろうか。

もしかすると、ゲームのポイント制という発想の中に、営業活動を前に進めるための構造を見ていたのかもしれない。

ゲームには、進行条件がある。

何を満たせば次に進めるのか。
どこで失敗しやすいのか。
どの条件を整えれば、次のステージに進めるのか。

それが見えるから、プレイヤーは学習できる。

そう考えると、ゲーミフィケーションは「仕事を楽しくするための飾り」ではなく、進行品質を見えるようにし、再現性を高めるための設計として考えられるのではないか。


バッジやポイントが本質ではない

ゲーミフィケーションという言葉から、ポイントやバッジを思い浮かべる人は多いと思う。

だが、それだけを取り出すと、表面的な仕掛けになりやすい。

ポイントをつければ人が動く。
ランキングを出せば競争が生まれる。

そう考えてしまうと、単なる管理強化や演出になってしまう。

本当に重要なのは、何が前進で、何が停滞なのかを見えるようにすることだと思う。

営業やCSでいえば、行動量だけでは足りない。

その行動によって、何が進んだのか。
判断に必要な条件は整ったのか。
次のアクションにつながったのか。

ここが見えなければ、ポイントはただの数字になる。
逆にここが見えるなら、ポイントは学習のための目印になる。


本質は、判断が進む条件の可視化にある

ゲームが学習しやすいのは、成功と失敗の条件がフィードバックとして返ってくるからだ。

何をすれば進むのか。
何を飛ばすと詰まるのか。

業務でも、構造は近い。

ただし、営業やCSにおけるゲーム的な視点とは、お客様を攻略することではない。

相手が納得し、判断できる状態に近づくための条件を、一つずつ整えていくことだ。

特に、追加提案のような場面では、いきなり契約が決まるわけではない。

課題が言語化されている。
関係者の認識がそろっている。
判断に必要な材料が整っている。
懸念点が整理されている。
次のアクションが明確になっている。

こうした条件がそろって、初めて提案は「売り込み」ではなく「次の選択肢」になる。

ゲーム化すべきなのは、人の行動量ではなく、判断が前に進む条件なのだと思う。


最小実装するなら、1案件だけでいい

いきなり評価制度全体をゲーム化する必要はない。

まずは、1つの案件を振り返るだけでいい。

たとえば、追加提案がうまく進んだ、あるいは途中で詰まった案件について、次の5つだけ確認する。

  • 課題は言語化されていたか

  • 関係者は見えていたか

  • 判断条件は整理されていたか

  • 懸念点は明確になっていたか

  • 次のアクションにつながっていたか

できていた/できていなかった、で見るだけでいい。
点数をつけるなら、それぞれ1点で十分だと思う。

満点を取ることが目的ではない。

どの条件がそろうと進みやすいのか。
どの条件が抜けると詰まりやすいのか。

それを見えるようにするための仮の目印として使う。

これだけでも、ゲーミフィケーションは始められる。

ゲーム化とは、大きな制度を作ることではない。
判断が前に進む条件を、小さく可視化することから始まる。


上手い人の勘を、共有できる形にする

上手い人は、こうした条件を感覚的に見ている。

相手の反応や、関係者の動き、言葉の変化を見ながら、次に出す情報やタイミングを変えている。

ただ、この判断は外から見るとわかりにくい。

だからこそ、必要なのは、その勘を共有できる形にすることだと思う。

この反応が出たら、次に確認すること。
この懸念が出たら、用意する材料。
この条件がそろったら、次に進む。

こうした分岐を見えるようにする。

完全な正解ルートを作ることはできない。

それでも、判断の手がかりを増やすことで、個人の勘は組織の学習に変わる。


何に点をつけるかが、組織の方向を決める

ポイント制そのものが悪いわけではない。

問題は、何に点をつけるかだ。

行動量に点をつければ、行動量を増やすゲームになる。
成果に点をつければ、成果を追うゲームになる。

もし途中の条件に点をつけるなら、見るものは変わる。

課題が言語化された。
関係者構造が見えた。
判断条件が整理された。
懸念点が明確になった。
次のアクションにつながった。

こうした工程に目が向くようになる。

もちろん、点数化には副作用もある。

だから、評価のためではなく、振り返りのための目印として扱う方が安全だと思う。

AIを使うなら、人を採点するためではなく、抜けている条件を見つける補助として使う方がよい。


価値が立ち上がる条件を設計する

SaaSの追加提案では、価値は機能そのものだけで決まるわけではない。

困っていないときに見せても刺さらない。
課題が曖昧なままでは判断できない。
関係者が腹落ちしていなければ進まない。

価値が立ち上がるには条件がある。

この条件を整えないまま機能を紹介しても、相手には届きにくい。

逆に、困りごとのタイミングを捉え、判断に必要な材料をそろえられれば、同じ機能でも価値として見えやすくなる。

ゲーミフィケーションは、その条件を見えるようにするための考え方として使える。


おわりに

ここまで、SaaSのエクスパンションについて、判断設計やゲーム化という視点から考えてきた。

あくまで、自分の現場経験から生まれた仮説にすぎない。

ただ、ひとつ感じていることがある。

価値は、ただ置いておくだけでは届かない。
機能は、ただ紹介するだけでは伝わらない。

顧客の中で困りごとが形になり、判断に必要な条件がそろったとき、初めて価値は立ち上がる。

だから必要なのは、価値を売ることだけではない。

価値を売るのではなく、価値が立ち上がる条件を設計する。

その条件を回収できる組織を作れれば、エクスパンションは個人技だけに頼らなくて済む。

結果だけを追うよりも、結果に至る条件を見えるようにした方が、組織は学習しやすくなるのではないか。

そんなことを、これまでの案件を振り返りながら考えている。


ここで、いったんこのテーマは締めます。

ただし、ここまで考えてきた仮説を、このまま正解として置いておくつもりはありません。

迷いを扱うことは、本当に価値につながるのか

ゲーミフィケーションは、本当に進行品質の評価に使えるのか。

次回は最後に一度、自分で立てた仮説を疑ってみます。

このマガジンは、現実世界の構造や変化に気づくのが遅れがちな自分自身を戒めるために書いている、思考整理のログです。

記事内の内容は、筆者自身の経験や観察をもとにした個人的な考察であり、特定の企業・業界・職種・個人を批判・断定するものではありません。

ここで用いている言葉や構造化は、現場で起きている複雑な事象を捉え直すための仮説です。正解ではなく、読者自身の現場や経験を見直すための視点としてお読みください。


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