例外を捨てない仕組みが、紹介率改善の土台になった話 — とある自由診療の眼科クリニックでやったこと —
満足度は、毎週見ていた。
クリニックごとの数字も、きれいに並んでいた。
でも、それだけでは現場は動かなかった。
数字が悪くても、どこを直せばいいのかは見えにくい。
数字が良くても、何が評価されているのかは分かりにくい。
結局、忙しい現場の中で、改善は後回しになっていく。
変わったのは、
アンケートの自由記述を、ただの感想として流さなくなってからだった。
そこにあったのは、
KPIの外側にこぼれ落ちる、小さな違和感だった。
そして振り返ると、改善の起点はいつもそこにあった。
今回は、とある自由診療の眼科クリニックで、
自由記述の「例外」をどう課題に変え、どう現場で回していたのかを書いてみたい。
KPIだけでは顧客は見えなかった
とある自由診療の眼科クリニックで、
術後の患者様にアンケートを取っていた。
結果は週次で集計し、
クリニックごとの満足度も可視化していた。
数字は揃っていた。
ただ、それだけでは現場の具体的な改善行動にはつながりにくかった。
数字が悪い → どこに手を打つべきかが曖昧なまま残る
数字が良い → 何が良かったのかが深掘りされない
現場 → 忙しさの中で後回しになる
満足度は見えていた。
でも、数字だけでは顧客体験の中身までは見えなかった。
転換点:自由記述に触れたとき
変わったのは、
自由記述欄をちゃんと読むようになってからだった。
そこには、数字では拾いにくい違和感があった。
「検査は丁寧だったけど待ち時間が長い」
「受付の人は優しいが説明が不安だった」
「全体的に良いけど最後が雑に感じた」
これはKPIではない。
でも確実に、顧客体験そのものだった。
ここで気づいた。
改善の起点は、
数字そのものではなく、数字の背後にある例外の方だった。
やったこと:例外を“処理可能な形”にする
やったことはシンプルだが、
運用としてはかなり重い。
自由記述を課題化する
コメントをそのまま流さない。
すべて抽出し、課題として登録する。
カテゴリは次のように分けた。
受付
検査
カウンセリング
医療
接遇
設備
その他
担当を明確にする
課題は必ず誰かに帰属させた。
WEB
説明会
受付
カウンセラー
検査員
看護師
医師
経営
優先順位と期限を持たせる
「いい意見」で終わらせない。
必ず処理対象にする。
一番重要なルール
CSチームのルールはひとつ。
「仕方ない」「無理」は禁句
現場からは当然出てくる。
人が足りない
設備的に難しい
医療的に制約がある
でも、それで終わらせない。
解決できないなら、
経営課題として上げる
継続課題として保持する
つまり、
処理できない=捨てるではなく、レイヤーを上げる
という運用にした。
指摘の“重み”も見ていた
ここでひとつ重要な工夫がある。
何人が同じことを言っているかも見ていたことだ。
同じ「待ち時間が長い」でも、
1人だけの指摘
毎週複数人から出てくる指摘
では意味が違う。
そこで課題には、
**指摘数(出現頻度)**も持たせた。
ただし、数だけでは決めなかった。
少数だが致命的な違和感
特定条件でしか出ない問題
まだ表面化していない兆候
こういったものは、
数だけで判断すると取りこぼされる。
だから実際には、
指摘数=課題の広がりを見る指標
少数意見=構造の歪みや将来の兆候を見る材料
として扱っていた。
読むだけで終わらせない
運用はかなり泥臭い。
週次でアンケートを集計
課題管理表を更新
全体共有
さらに、
現場で印刷
テーマごとに回覧
マネージャーがコメント付きで共有完了報告
つまり、
“見た”ではなく“通過した”状態を作った
「無愛想」をどう扱うか
よく出ていた指摘のひとつがこれだった。
「スタッフが無愛想」
ただ、この課題は厄介だった。
抽象的
人によって感じ方が違う
どう改善すればいいか分かりにくい
そこで、
「一度、良い接客をちゃんと見に行こう」
という話になった。
都内の高級ホテルのラウンジに行き、
スタッフを観察した。
そこで気づいたことは、驚くほどシンプルだった。
目が合ったら、微笑み返す
たったそれだけだった。
でも、それがとても感じ良く見えた。
「無愛想をやめよう」ではなく、
目が合ったら微笑む
という行動に分解された瞬間だった。
現場で実践すると、
患者様の評価にも変化が見え始めた。
現場でも手応えがあった。
そしてチームは実感した。
「本当に変わるんだ」
この瞬間、取り組みは“自分ごと化”した。
最後に
この取り組みでやっていたのは、
特別な分析でも、新しいツールでもない。
例外を拾い
捨てずに持ち続け
課題として誰かに渡し
現場で回す
ただ、それだけだ。
でも、それを続けることで、
数字の裏にあった顧客の輪郭が、少しずつ見えてくるようになった。
ここで言いたいのは、
KPIや標準化が不要だということではない。
むしろ、それらを土台にした上で、そこからこぼれ落ちる例外をどう扱うかで、改善の質は大きく変わる。
顧客理解とは、
数字を見ることではなく、
数字の背後にある例外を捨てずに持ち続けることだった。
次回は、
この運用を回し続けた結果、
課題の質そのものがどう変わっていったのかを書いてみたい。
