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間合いはAIにできるのか — “ストーカー自販機”と顧客体験の分岐点 —

その提案、間違ってはいない。
むしろ、かなり正しい。

それなのに、なぜか少し嫌だ。
なぜか、今じゃないと感じる。
精度は高いはずなのに、どこかズレている。

この違和感は、
レコメンドの中身そのものではなく、
出てくるタイミングや距離感にあるのかもしれない。

第1回、第2回で書いたように、
現場で拾われる違和感は、改善が進むほど微細になっていった。
そしてその多くは、「何を言ったか」よりも
「いつ、どの強さで関わったか」に関係していた。

そこで見えてきたのが、
間合いという考え方だった。

今回は、
この間合いという曖昧で重要なものを、
AIはどこまで扱えるのかを考えてみたい。

正しいのに、なぜかズレる

第2回で書いた通り、
改善を回し続けると、課題の質は変わっていく。

  • 「待ち時間が長い」ではなく

  • 「説明の順番が少し不安だった」

  • 「対応が悪い」ではなく

  • 「最初の一言で距離を感じた」

こうした指摘に共通しているのは、
内容そのものよりも、タイミングや距離感のズレだ。

つまり、問題は「何をしたか」だけではなく、
いつ・どの強さで・どう関わったかにもある。

ここで見えてくるのが、
間合いという概念だ。

間合いとは何か

間合いは、単なる距離感ではない。

  • いつ声をかけるか

  • どの強さで関わるか

  • どこまで踏み込むか

  • いつ引くか

相手の状態に応じて、
自分の出方を調整する力だと思う。

例えば店頭で迷っているとき、

  • 早すぎる声かけは鬱陶しい

  • 遅すぎると機会を逃す

このギリギリのラインを外さない。
それが間合いだ。

あの「微笑み」はなぜ効いたのか

第1回で書いた、
「目が合ったら微笑む」という行動。

あれが効いた理由は、
特別な接客技術だったからではない。

ちょうどいいタイミングで返ってきたからだ。

早すぎず、重すぎず、
過剰でもなく、無反応でもない。

ほんの一瞬の反応が、
「ここは大丈夫そうだ」という感覚を生んだ。

つまり、
間合いが合っていた。

“ストーカー自販機”という対極

ここで、対極の存在を考える。

  • 見た瞬間におすすめしてくる

  • 迷った瞬間に割り込んでくる

  • 何もしていなくても提案してくる

ここでいう**“ストーカー自販機”**とは、
ユーザーの状態や文脈よりも、表示可能性や推定確率を優先して、過剰に提案してくる接客設計の比喩だ。

一見すると便利だし、
技術的にも高度に見える。

でも多くの場合、こう感じる。

「今じゃない」

なぜズレるのか

この種の設計は、
顧客を見ているようで、見ていない。

見ているのは、

  • 属性

  • 行動履歴

  • 確率

つまり、
正しさだ。

でも顧客体験を左右するのは、
正しさだけではない。

間合いだ。

どれだけ正しい提案でも、
タイミングがズレれば拒絶される。

逆に、
少しズレた提案でも、
間合いが合っていれば受け入れられることがある。

AIはなぜ間合いを外しやすいのか

ここにAIの難しさがある。

AIは基本的に、

  • 最適化

  • 再現性

  • 一貫性

を得意とする。

一方で間合いは、

  • 揺らぎ

  • 文脈

  • 一回性

に強く依存する。

もちろん、AIも揺らぎや文脈を扱えるようになってきている。
ただ、現実の顧客接点で求められる微妙な間合いには、なお弱さが残る。

だからこうなる。

  • 早すぎる提案

  • 的確すぎて不気味

  • 一貫しすぎて人間味がない

それでも可能性はある

ではAIに間合いはできないのか。

結論はこうだ。

そのまま再現するのは難しい。
でも、別のアプローチはある。

間合いを「再現」しない

ポイントは、
間合いを直接制御しようとしないことだ。

代わりにやるのは、

ズレを拾い続けること。

  • 「このタイミングは早すぎた」

  • 「この提案は邪魔だった」

  • 「ここで来たのは良かった」

こうしたログを、
例外として捨てない。

これは、
あのCSアンケートと同じ構造だ。

  • 自由記述を拾う
    → ズレを課題化する
    → 改善する

AIは「間合いエンジン」になれるか

ここでひとつの仮説が立つ。

AIは、
完璧な接客をする存在というより、
間合いを学び続けるエンジンとして使う方が自然なのではないか。

重要なのは、
最初から当てることではない。

外したログをどれだけ拾えるか。

  • 早すぎた

  • 遅すぎた

  • 踏み込みすぎた

  • 何もなさすぎた

このズレを捨てない。

最後に

例外を拾うこと。
細部を捨てないこと。
ズレを持ち続けること。

これらは別々の話ではなかった。

現場で起きていたことを振り返ると、
やっていたのは、
顧客との間合いを少しずつ学習していくことだったのかもしれない。

AIもまた、
同じ問いの中にいる。

正しい答えを出すことはできる。
でも、それが「ちょうどいい」と感じられるかどうかは、
まだ別の問題として残っている。

顧客理解とは、
データを集めることではなく、
間合いのズレを捨てずに持ち続けることだった。

少なくとも、
多くのAI導入では、
この「間合い」をどう扱うかが、まだ十分に設計されていないように見える。


この話の続きとして、
顧客アンケートから見えてきた「例外」が、どう「感動の構造」や「間合い」の話につながっていったのかは、後続マガジン
「感動は設計できるのか?(顧客体験の構造と間合い)」
にまとめています。


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